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Extra2:Moonlight scandal
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「え? お父さんが?」
「うん」
透さんは、目を細め「そうだよ」と柔らかく微笑みながら、俺の手を握る。
――『父には、元々家同士が決めた許婚がいたんだけど、母と出逢って半ば駆け落ちのような形で結婚したんだよ。なのに結局は、母を捨てて許婚のところに戻ったんだ。二人も子供がいるのに』――
前にそう話してくれた時、透さんは辛そうな顔をしていた。
――『そんな父を見てきて、俺もいつしか一生続く愛なんてありはしないと思うようになった。俺は……今まで真剣に人を好きになった事がなかったんだ』
いつも穏やかで優しい透さんの心の奥にそんな寂しい部分があったなんてって、その話を訊いた時、俺は凄く悲しい気持ちになったんだ。
「父に……、会ってくれる?」
「え?」
全然予想していなかったから、透さんの突然の話に驚いて目を見開いてしまう。
「嫌……、かな」
「い、嫌なんて事はないよ!……けど、俺なんかが……」
――俺なんかが、お父さんに会っていいのかな。
透さんは、ただの検査入院だと言っていたけど、それでも俺なんかが入院先にまで来てしまって良いのかどうか。
お父さんから見たら、透さんと俺が一緒にお見舞いに行くって事自体、不思議に思うんじゃないだろうか。
俺は戸惑っていた。
――なんで透さんは、俺をお父さんに会わせたいんだろう。
「この前、実家に無理矢理帰らされた後、長い間会ってなかった父に、もうこれ以上篠崎の家の事や会社の事で振り回されたくないと、話をしに来たんだよ」
取り敢えず、降りよう。と、透さんに促がされて車を降りた。
太陽がもう西に傾きかけているこの時間でも、まだ日差しが強く、半袖から出ている肌をチリチリと焦がす。でも、場所が高台のせいか、少し心地よい風が吹いていた。
「その時に、久しぶりに父とゆっくり話をしてね」
透さんの前髪が、風に吹かれてサラリと落ちる。
その前髪を綺麗な指先でかき上げながら、透さんは言葉を続けた。
「婚約の事は、父ではなくて、あの人が乗り気でここまで話が進んでしまったんだけど……」
――あの人……。
透さんがそう呼ぶのは、お父さんの再婚相手だって事は、すぐに分かる。
透さんが小さい時に再婚して、もう随分と年月が経っている。
それでもお母さんとは呼べなくて、“あの人”という呼び方をするのは、透さんの中にどうしても拭えない、わだかまりのような物があると感じた。
「うん」
透さんは、目を細め「そうだよ」と柔らかく微笑みながら、俺の手を握る。
――『父には、元々家同士が決めた許婚がいたんだけど、母と出逢って半ば駆け落ちのような形で結婚したんだよ。なのに結局は、母を捨てて許婚のところに戻ったんだ。二人も子供がいるのに』――
前にそう話してくれた時、透さんは辛そうな顔をしていた。
――『そんな父を見てきて、俺もいつしか一生続く愛なんてありはしないと思うようになった。俺は……今まで真剣に人を好きになった事がなかったんだ』
いつも穏やかで優しい透さんの心の奥にそんな寂しい部分があったなんてって、その話を訊いた時、俺は凄く悲しい気持ちになったんだ。
「父に……、会ってくれる?」
「え?」
全然予想していなかったから、透さんの突然の話に驚いて目を見開いてしまう。
「嫌……、かな」
「い、嫌なんて事はないよ!……けど、俺なんかが……」
――俺なんかが、お父さんに会っていいのかな。
透さんは、ただの検査入院だと言っていたけど、それでも俺なんかが入院先にまで来てしまって良いのかどうか。
お父さんから見たら、透さんと俺が一緒にお見舞いに行くって事自体、不思議に思うんじゃないだろうか。
俺は戸惑っていた。
――なんで透さんは、俺をお父さんに会わせたいんだろう。
「この前、実家に無理矢理帰らされた後、長い間会ってなかった父に、もうこれ以上篠崎の家の事や会社の事で振り回されたくないと、話をしに来たんだよ」
取り敢えず、降りよう。と、透さんに促がされて車を降りた。
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「その時に、久しぶりに父とゆっくり話をしてね」
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その前髪を綺麗な指先でかき上げながら、透さんは言葉を続けた。
「婚約の事は、父ではなくて、あの人が乗り気でここまで話が進んでしまったんだけど……」
――あの人……。
透さんがそう呼ぶのは、お父さんの再婚相手だって事は、すぐに分かる。
透さんが小さい時に再婚して、もう随分と年月が経っている。
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