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Extra2:Moonlight scandal
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それは俺にとっては嬉しい事だったけど、でも何だかこのまま単純に喜んでいいものなのか躊躇してしまう。
「婚約の話なら、本当に大丈夫だから」
そんな俺の不安を全部取り払ってくれるような笑顔を向けられたら、疑う事を知らない子供みたいに簡単に納得しちゃいそうになるんだけど……。
「でも……」
美絵さんの自信たっぷりな態度を思い出すと、素直になりきれない自分もいる。
「信じられない?」
「そんなんじゃ……ないけど……」
透さんを信じられないとか、そんなんじゃ絶対ないけれど……。
透さんの家の事情を考えると、やっぱ普通に結婚しなきゃならないんじゃないかとか……。
男の俺なんかと、ずっと一緒にいられるわけないし……とか……。
だから、やっぱ、この婚約って大事なんじゃないか、とか……。
俺が邪魔しちゃいけないんじゃないか、とか……。
考えだしたら、頭ん中ごちゃごちゃになっちゃって……。
「直くん」
名前を呼ばれて透さんを見上げると、真っすぐな眼差しに射抜かれる。
「行こう……」
と、それだけ言って、透さんは急に俺の手を引いて歩き出した。
「行くって、どこへ?」
「ついて来たら分かるよ」
透さんは肩越しに振り返って俺に微笑みかけて、また前方に視線を戻して言葉を続けた。
「いつも、家の事や会社の事で、直くんに辛い思いばかりさせてきたね」
――ごめんね。と、謝る透さんに、俺は必死に首を横に振った。
「そんなことないよ。俺、別に辛いとか思ってない」
本当に……、辛いなんて……。
透さんは俺のこと、大切にしてくれてるって分かるから……。
分かってるから、だから……、平気だから……。
――なんて……、本当は強がりで、絶対嫌だった。
他の事は我慢できるけど、やっぱり透さんが誰かと結婚するなんて、考えただけで胸が苦しい。
だけど、そんな想いを全部透さんに吐き出したって、仕方ないって分かってる。この優しい人を困らせてしまうだけだって……。
そう思うから、俺はもうそれ以上言えなくて黙り込んでしまった。
「もう、絶対そんな思いは、させない」
だけど透さんは強い口調でそう言って、繋いだ俺の手をぎゅっと握り締める。
「だから、会わせたい人がいるんだ」
――会わせたい人がいる。
そう話す透さんの声は、どこか穏やかで優しくて柔らかだった。
***
それから俺達は、ホテルの駐車場に停めてあった透さんの車で、透さんの言う『会わせたい人』のいる場所へ向う。
――どこに行くんだろう……。
前を向いて運転している透さんは、さっきから口数が少なくて、なんとなく緊張しているようにも思える。
どこに行くのか、俺に会わせたい人って誰なのか、全然分からないけど……。
でも、『もう、絶対そんな思いは、させない』って、言ってくれた気持ちが嬉しくて。
これからどうなるのか不安はまだあるけど、今は透さんが言ってくれた言葉だけで、すぐにヘタれてしまう俺でも、なんだか強くなれるような気がしていた。
やがて、車がどこかの駐車場に入っていく。
「……ここって、病院?」
「そうだよ」
車を停めてエンジンを切ると、透さんはシートベルトを外して俺の方へ向き直り、目を合わせた。
「……俺の……父親が入院している病院だよ」
そう言って微笑んだ透さんの笑顔は穏やかで、すごく綺麗だなって思った。
「婚約の話なら、本当に大丈夫だから」
そんな俺の不安を全部取り払ってくれるような笑顔を向けられたら、疑う事を知らない子供みたいに簡単に納得しちゃいそうになるんだけど……。
「でも……」
美絵さんの自信たっぷりな態度を思い出すと、素直になりきれない自分もいる。
「信じられない?」
「そんなんじゃ……ないけど……」
透さんを信じられないとか、そんなんじゃ絶対ないけれど……。
透さんの家の事情を考えると、やっぱ普通に結婚しなきゃならないんじゃないかとか……。
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だから、やっぱ、この婚約って大事なんじゃないか、とか……。
俺が邪魔しちゃいけないんじゃないか、とか……。
考えだしたら、頭ん中ごちゃごちゃになっちゃって……。
「直くん」
名前を呼ばれて透さんを見上げると、真っすぐな眼差しに射抜かれる。
「行こう……」
と、それだけ言って、透さんは急に俺の手を引いて歩き出した。
「行くって、どこへ?」
「ついて来たら分かるよ」
透さんは肩越しに振り返って俺に微笑みかけて、また前方に視線を戻して言葉を続けた。
「いつも、家の事や会社の事で、直くんに辛い思いばかりさせてきたね」
――ごめんね。と、謝る透さんに、俺は必死に首を横に振った。
「そんなことないよ。俺、別に辛いとか思ってない」
本当に……、辛いなんて……。
透さんは俺のこと、大切にしてくれてるって分かるから……。
分かってるから、だから……、平気だから……。
――なんて……、本当は強がりで、絶対嫌だった。
他の事は我慢できるけど、やっぱり透さんが誰かと結婚するなんて、考えただけで胸が苦しい。
だけど、そんな想いを全部透さんに吐き出したって、仕方ないって分かってる。この優しい人を困らせてしまうだけだって……。
そう思うから、俺はもうそれ以上言えなくて黙り込んでしまった。
「もう、絶対そんな思いは、させない」
だけど透さんは強い口調でそう言って、繋いだ俺の手をぎゅっと握り締める。
「だから、会わせたい人がいるんだ」
――会わせたい人がいる。
そう話す透さんの声は、どこか穏やかで優しくて柔らかだった。
***
それから俺達は、ホテルの駐車場に停めてあった透さんの車で、透さんの言う『会わせたい人』のいる場所へ向う。
――どこに行くんだろう……。
前を向いて運転している透さんは、さっきから口数が少なくて、なんとなく緊張しているようにも思える。
どこに行くのか、俺に会わせたい人って誰なのか、全然分からないけど……。
でも、『もう、絶対そんな思いは、させない』って、言ってくれた気持ちが嬉しくて。
これからどうなるのか不安はまだあるけど、今は透さんが言ってくれた言葉だけで、すぐにヘタれてしまう俺でも、なんだか強くなれるような気がしていた。
やがて、車がどこかの駐車場に入っていく。
「……ここって、病院?」
「そうだよ」
車を停めてエンジンを切ると、透さんはシートベルトを外して俺の方へ向き直り、目を合わせた。
「……俺の……父親が入院している病院だよ」
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