出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra2:Moonlight scandal

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「直くーん、ごめんねー」
 
 その時遠くでテルさんの呼ぶ声が聞こえてきた。立ち上がって声のした方向に視線を向けると、化粧室から出て来たテルさんが、小走りで此方へ駆け寄ってくるのが見えて、俺は内心ホッとする。

 これでもう、ここから離れることが出来るって思ったから。
 
「今ね、お父さんから電話があって、あと5分位で着くって。……あ……、えぇっと、こちらの方は?」

 俺の傍に駆け寄ってきたテルさんが美絵さんに気が付いて、不思議そうに俺と美絵さんを交互に見ながら、小さな声で訊いてくる。

「あ……、えと……」

  どう紹介しようかと迷っていると、また後ろからよく知ってる声に呼ばれて、びくっと肩が震えてしまった。
 
「……直くん?」

 その優しい声は、振り返らなくても透さんだと確信できる。

 でも、振り返るのが怖かった。

 ――俺、今、どんな顔してるだろう……。

 美絵さんに嫉妬してる、醜い顔。

 今にも泣きそうに情けない顔をしてるかも。

 それに、今から大事な婚約発表があって、透さんにその意思は無くても、ここにはマスコミなんかも沢山来てて、俺なんかが居たら、透さんに迷惑かけてしまうし。

 ――何でもないふりして、早くここから立ち去らないと!

 そんな事しか考えられなくて……。俺は慌てて、預かっていた荷物を全部テルさんに渡した。

「テルさん、親父もうすぐ着くなら、一人で大丈夫だよね?」

 俺の言葉にテルさんは、不思議そうな顔をしながらも、「うん」と頷いてくれた。
 
「じゃあ俺、悪いけど、ちょっと急用思い出したから先に帰るね。ごめんね」

 それだけ言って、俺は透さんの方を振り返らずに駆け出した。

「えぇ ? 直くん?」

 テルさんが少し慌てているのが分かったけど、とりあえずここから離れないと。それしか頭になかった。

「直くん! 待って!」

 下への階段を一段下りた辺りで、透さんの呼ぶ声が追いかけてくる。ほぼ同時に「透さんっ!」と、それを引き止めるような美絵さんの声が聞こえて……。

 俺は、それ以上何も聞きたくも見たくもなくて、一気に1階まで駆け下りた。

 自動ドアを擦り抜けて外へ飛び出すと、途端にムッとした熱気が身体を包む。じんわりと汗が、背中や額に滲んでくる。

 その汗は暑いからというだけではなくて、ひやりと冷たくて、何か焦燥感のようなものが込み上げてくる。

 目の前のスクランブル交差点を行き交う人々の雑踏に、くらりと眩暈を覚えた。

 ――くそっ、どっち行けばいいんだ!

 知らない場所でもないのに、焦りからか、まるで方向を見失ったかのように立ち尽くしてしまう。

 ――とにかく、ここから離れたい。

 それしか考えられずに足を一歩踏み出した瞬間、不意に誰かに後ろから強い力で腕を掴まれた。

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