出逢えた幸せ

ずーちゃ

文字の大きさ
上 下
198 / 351
Extra2:Moonlight scandal

(22)

しおりを挟む
「そうだ、まだお料理もいっぱい残ってるし、直くんも会場にいらっしゃいよ」

 大きな瞳をぱっちりと開けて、俺の顔を覗きこんで話しかけてくる美絵さんからは、ふんわりと甘い香りがする。

 前から後ろにかけて片編み込みで、片方にふわふわと纏めたヘアスタイルがよく似合ってて、本当に可愛い。

「え、でも……俺、こんな普段着だし……」

 普段着でなくても、あの宴会場には絶対に入りたくないけど……。

「大丈夫よ、後ろの端っこの方なら目立たないし。この後ね、婚約発表があるの」

 薄いピンクのグロスで艶々の小さめな唇が、口角を上げて微笑む。

 透さんの部屋で会った時は、楚々としていた美絵さんとは、今日はやっぱりどこかイメージが違う。

「……婚約発表……」

 美絵さんの口から出たその言葉に、ただ茫然としてしまう。

 早くこの場から立ち去りたいと思うのに、美絵さんの視線から逃げるように目を逸らす事しかできなくて。

 顔を背けた俺の耳元に、「くすっ」と小さく笑う声が聞こえてきた。

「私達が結婚したら、新居には是非遊びにきてね。直くん」

 ――嘘だ。そんなこと透さんは言ってなかったし、婚約の事だって、ちゃんと話をするって言ってた。

「……結婚なんて、嘘、でしょう?」

「どうして嘘だと思うの?」

 美絵さんと視線を合わせずに、やっとの思いで言えた質問を質問で返されて口篭ってしまう。

「直くんて、透さんの何? どういう関係なの?」

「……俺はっ……、」

 たたみかけるように質問を浴びせられて、答えようにも、どう言えば良いのか分からなくて。情けないけどそのまま俯いてしまった。

「ふーん、やっぱり言えない関係ってわけなのね」

「違っ、そんなんじゃなくて!」

 美絵さんの言葉に、慌てて顔をあげて否定しようとしたけれど言葉が続かない。

「隠さなくてもいいのよ。マンションで会った時から怪しいと思ってたし」

「あ、怪しいなんて……」

 それ以上言えない俺は、膝の上で拳を握り締めるしかなくて……。

「今日は、記者の人達も来ているのよ。あなたのことがバレたら、とんだスキャンダルね」

 言い返せないことが、凄く情けない。

「帰った方がいいかもしれないね」

 間を空けずに、冷たい言葉を浴びせられる。

「大丈夫よ。今帰れば誰にも見つからないし」

 美絵さんの言ってることは、きっと正しい。

 俺なんかがこんな所でウロウロしていて、もしも関係がバレてしまったら、それは本当に大変な事で。

 透さんと美絵さんが結婚すれば会社も安泰で、一番自然なことで……。

 だけど、俺は……そんなの絶対に嫌だ。嫌だけど……それでも、ここで婚約発表の邪魔をするわけにはいかない。

 もうとにかく、直ぐにでもここから逃げ出したい。

 俺がここにいる事を透さんが気が付いたら、また困らせてしまう。

しおりを挟む
B L ♂ U N I O N

感想などお待ちしております。
★メール★clap★res
感想 380

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

処理中です...