出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra2:Moonlight scandal

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「透さんが、どう言ったのか知りませんけど、婚約の話はなくなったりしていません」

 ――婚約の話はなくなってない?

 その言葉に、俺は呆然としてしまう。

「透さんは、あちらの会社を勝手に退職してきてしまったようですけど、美絵さんのお父様は寛大な方ですから、そんなことがあっても、予定通りにうちの社との業務提携のお話も決まっていますし」

 ――え……?

「それで、透さんと美絵さんが一緒になれば、こんなに良いお話はありませんでしょう?」

 そう続けられた言葉は耳には届いているけれど、それを頭で理解することが出来ない。

 美絵さんはお母さんの隣で、少し俯き加減で頬を染めている。

 ――そんな……。でも透さんは絶対結婚なんてしない……だって透さんは……。

 今の透さんには、そんな気持ちは絶対無い筈だって信じてる、信じてるけど……。

 なのに、何故か心が痛くて、膝がガクガクと震えだしていた。

 その時、玄関のドアが開く音がする。

 ――透さんだ…… !

 透さんが帰ってきたのが分かってるのに、膝の震えが治まらなくて、立ち上がることが出来ない。

「ただいま」と言う声と、リビングのドアが開く音に、俺は椅子に座ったまま上半身だけ振り向いた。

 部屋に入ってきた透さんは、すごく驚いた顔をしてる。

「お、かえりなさい」

 俺はなんとか平静を保とうとしたけれど、出した声がちょっと震えてしまった。

 そんな俺に、透さんは微かに微笑んで頷いてくれて、それから二人の方に視線を向けた。

「……お久しぶりです。今日は、どうされたんですか?」

 透さんの言葉に、美絵さんが頬を赤く染めながら立ち上がって、微笑みながら会釈する。

「お帰りなさい透さん、お留守にお邪魔しています」

 どこから見ても、誰が見ても、文句なく可愛い仕草だった。

「どうされたんですか? は、ないでしょう? 透さん」

 お母さんは微笑んでいるけれど少し怒った口調で、そう言いながら立ち上がった。

「先日電話した時に、お父様が入院されたことを伝えた筈なのに、お見舞いにも行ってないらしいですね?」

 ――え?! お父さんが入院?

 お母さんの言葉に俺は驚いたけど、透さんは表情を崩さずに「はい」と頷いた。

「ただの検査入院と訊いていますので」

「電話でも話しましたけど、週末の提携記念のパーティーには、お父様の代わりに出席してもらわないと困りますよ」

 ――週末? パーティー? 何のことだろう……と、考えているとお母さんの視線を感じた。

 俺は関係ないのに、ここにいたら不味いような気がしてくる。

「……あ、あの透さん、俺、帰った方が……」

 荷物を取りに行きかけると、透さんに腕を引かれる。

「……いいよ、直くん。話は直ぐに終わるから」

「……でも……、」

 ――お母さんの視線が怖いよ。

「そうね、申し訳ありませんけど、今日は帰っていただけないかしら。美絵さんもいらっしゃることですし、透さんと一緒に夕食でもと思って、迎えにきたんですよ」

 ――美絵さんもいらっしゃる事ですし……。と言う言葉が、胸に突き刺さる。

 絶対に透さんは婚約しているつもりは無いと信じているけど、それでも、このままこの場に居続けると、心が砕けてしまいそうな気がしていた。

「お、俺、今夜は帰るから、また連絡して」

 それだけ言うと、俺は一礼してリビングのドアを開けて玄関へと走った。

「直くん! 待って!」

 追いかけてくる声にも振り向かずに靴を履いて、玄関のドアノブに手をかけたところで、後ろから透さんに腕を掴まれて引き留められる。
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