172 / 351
Extra1:君の初めては全部……
(9)*
しおりを挟む
目隠ししていたネクタイは、俺の涙でグチョグチョに濡れている。
「どうしたの? どこか痛かったりした?」
背中を宥めるように何度も摩りながら、優しい声で訊いてくれる。俺は透さんに抱きついたまま、首を横に振った。
透さんは、みっきーのこと、もう大丈夫だからって言ってくれてたけど、でもやっぱり、あの時の事は、今でも俺の心の隅に引っかかっていて……。
しかも、初めてドライを経験したのがあの時だったなんて、本当に俺もう……、それダメじゃんって思う。お仕置きされても当然なんだけど、いや、透さんのお仕置きならいつでもOKなんだけど! でも透さんの顔を見ることが出来ないエッチなんて、やっぱり我慢できなかった。
「ごめんなさ……、透さん…… っ、俺、……やっぱ、我慢できなくっ……って」
「え……? 我慢って? 何を?」
透さんは、しゃくりあげながら途切れ途切れに答える俺の頬を、優しく両手で包んで、覗き込むようにして目線を合わせた。
「透さんの顔が見えないのっ、我慢できなっ……だからっ、ごめん、なさ……っ」
「なんで……、謝るの?」
「……だって……、目隠ししたのは、お、お仕置きだったんでしょ?」
俺がそう言うと、それまで心配そうな表情で俺を見つめていた透さんの口元が緩んで、プッと吹き出して笑われてしまった。
「お仕置きって……」
「ち……、違うの?」
「なんでそう思ったの?」
「だって、俺が初めてドライを経験した時の相手が透さんじゃなかった……から……?」
「ああ……、それは……」
透さんは、そこで一旦言葉を区切り、俺の体をギュッと抱き寄せた。
「光樹先輩に、直くんの初めてを盗られたのは、ちょっと悔しいけど……」
耳元で呟くような声が聞こえて、胸がキュッと掴まれたように痛くて。
「やっぱり俺が悪いからっ……。あの時俺がみっきーと、あんなことに——っん……」
勢いよく顔を上げて、途中まで言いかけた言葉は、唇を透さんに人差し指で押さえられて遮られてしまう。
「直くん、あの時の事、まだ気にしていたの?」
そう言って、俺の髪を撫でながら見つめてくる瞳はすごく優しいけど、俺は応えられなくて俯いてしまった。
透さんは、そんな俺の頭をポンポンと優しく叩いて、クスっと小さく笑う。
「でもね、光樹先輩のことがあったから、俺は自分の気持ちに気付くことができたんだよ」
心地良く響く優しい声に、不思議と気持ちは落ち着いていく。
頭を引き寄せられて、俺は透さんの肩に顔を埋めた。
「生まれて初めて嫉妬して、生まれて初めて手放したくないと心から思った。生まれて初めて本気で人を好きになった」
頭のてっぺんに、チュッとキスを落とされて顔を上げれば、優しい瞳に見つめられていた。
「直くんも……、そうじゃない?」
――俺も……そう。本気で好きだと思えたのは、透さんが初めてだった。
あの時、考えて悩んで後悔することで、気付いた気持ちが確かにあったから。と言って、透さんは少しはにかむように微笑んだ。
「直くんが、俺の初恋なんだよ」
「……透さん……」
「少しだけ遠回りしたかもしれないけどね」
どうしよう……。俺、やっぱり透さんが大好き過ぎる。
「光樹先輩に直くんの初めてを先に盗られたのは確かに悔しいけど、でもこれからは、直くんの初めては全部……俺も一緒に経験できるんだから」
――だから、一緒に初めての経験をいっぱいしようね。
「どうしたの? どこか痛かったりした?」
背中を宥めるように何度も摩りながら、優しい声で訊いてくれる。俺は透さんに抱きついたまま、首を横に振った。
透さんは、みっきーのこと、もう大丈夫だからって言ってくれてたけど、でもやっぱり、あの時の事は、今でも俺の心の隅に引っかかっていて……。
しかも、初めてドライを経験したのがあの時だったなんて、本当に俺もう……、それダメじゃんって思う。お仕置きされても当然なんだけど、いや、透さんのお仕置きならいつでもOKなんだけど! でも透さんの顔を見ることが出来ないエッチなんて、やっぱり我慢できなかった。
「ごめんなさ……、透さん…… っ、俺、……やっぱ、我慢できなくっ……って」
「え……? 我慢って? 何を?」
透さんは、しゃくりあげながら途切れ途切れに答える俺の頬を、優しく両手で包んで、覗き込むようにして目線を合わせた。
「透さんの顔が見えないのっ、我慢できなっ……だからっ、ごめん、なさ……っ」
「なんで……、謝るの?」
「……だって……、目隠ししたのは、お、お仕置きだったんでしょ?」
俺がそう言うと、それまで心配そうな表情で俺を見つめていた透さんの口元が緩んで、プッと吹き出して笑われてしまった。
「お仕置きって……」
「ち……、違うの?」
「なんでそう思ったの?」
「だって、俺が初めてドライを経験した時の相手が透さんじゃなかった……から……?」
「ああ……、それは……」
透さんは、そこで一旦言葉を区切り、俺の体をギュッと抱き寄せた。
「光樹先輩に、直くんの初めてを盗られたのは、ちょっと悔しいけど……」
耳元で呟くような声が聞こえて、胸がキュッと掴まれたように痛くて。
「やっぱり俺が悪いからっ……。あの時俺がみっきーと、あんなことに——っん……」
勢いよく顔を上げて、途中まで言いかけた言葉は、唇を透さんに人差し指で押さえられて遮られてしまう。
「直くん、あの時の事、まだ気にしていたの?」
そう言って、俺の髪を撫でながら見つめてくる瞳はすごく優しいけど、俺は応えられなくて俯いてしまった。
透さんは、そんな俺の頭をポンポンと優しく叩いて、クスっと小さく笑う。
「でもね、光樹先輩のことがあったから、俺は自分の気持ちに気付くことができたんだよ」
心地良く響く優しい声に、不思議と気持ちは落ち着いていく。
頭を引き寄せられて、俺は透さんの肩に顔を埋めた。
「生まれて初めて嫉妬して、生まれて初めて手放したくないと心から思った。生まれて初めて本気で人を好きになった」
頭のてっぺんに、チュッとキスを落とされて顔を上げれば、優しい瞳に見つめられていた。
「直くんも……、そうじゃない?」
――俺も……そう。本気で好きだと思えたのは、透さんが初めてだった。
あの時、考えて悩んで後悔することで、気付いた気持ちが確かにあったから。と言って、透さんは少しはにかむように微笑んだ。
「直くんが、俺の初恋なんだよ」
「……透さん……」
「少しだけ遠回りしたかもしれないけどね」
どうしよう……。俺、やっぱり透さんが大好き過ぎる。
「光樹先輩に直くんの初めてを先に盗られたのは確かに悔しいけど、でもこれからは、直くんの初めては全部……俺も一緒に経験できるんだから」
――だから、一緒に初めての経験をいっぱいしようね。
5
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる