出逢えた幸せ

ずーちゃ

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epilogue:出逢えた幸せ

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 カレンダーが4月になって数日が経った。
 今俺は、空港のロビーで透さんと携帯で話しながら、あの人の姿を探している。

「――うん、分かった……じゃまた後でね」

 通話を終えて、目的のロビーのカラフルなガラスアート付近に、視線を廻らせた。

 太陽や海とかをモチーフにしたロビーアートのカラフルさに負けないくらい目立つ人だから、多分すぐに見つかる筈。

 ――いたっ……。

「みっきー!」

 こちらに気付いて、いつもの大げさ過ぎる動作で、体全体を使って手を振ってる。

「なーーおっ!」

(……恥ずかしいなぁ、もう……)

 苦笑しながら傍まで駆け寄ると、逞しい腕に引き寄せられて、あっと言う間に抱きしめられてしまった。

「――ちょっ!」

「ん、あーーっ、直の匂いするーっ!」

 公衆の面前だと言うのに、みっきーは、俺を腕の中に閉じ込めて、クンクンと匂いを嗅いでるしっ!

「ちょっ、もう、恥ずかしいからやめてって」

「だって久しぶりなんだもん、直補給させて……」

「やだっ、ほら、皆見てるしっ、くっ、くるし……」

「ちぇー、ちょっとくらい、いいじゃん……」

 言いながら、やっと身体を離して口を尖らせるみっきーは、とても三十歳とは思えなくて、笑ってしまう。

「あれ? 透は? 一緒じゃないの?」

 俺が、みっきーの見送りに行くって言ったら、透さんも、みっきーに会いたいって言った。

「うん、もうちょっとしたら、来ると思うよ」

 あれから俺は、みっきーとなかなか会えなくて、電話で透さんとの事を報告した。

 みっきーは、『よかったな』って、自分のことみたいに喜んでくれて……。

 で、今度二人でバーに遊びに行くよって、言ったら、『もうメキシコに行くから、店にはいないよ』って、言われて驚いたんだ。

 4月ってのは、聞いていたけど……こんなに早いとは思ってなかったから。

「なんだー。透、来るの? 俺はてっきり、直が一緒にメキシコに行く気になって来てくれたのかと思ったよ」

 なんて言って、ガックシと肩を落として、大げさなジェスチャーで落ち込んだふりしてる。

「んな訳ないじゃん、俺と透さんは今、ラブラブなのにさー」

 へへっとか言って惚気る俺に、みっきーが真剣な眼差しで目を合わせてきた。

「でもさ、逢えなくなって、気付くってこともあるかもしれないよ?」

「誰に? 何を?」

「やっぱり俺のことが好きだってことに。そしたらいつでも連絡くれたら迎えに帰ってくるから」

 そう言って、またギューーッて、抱きしめてくる。

「ちょっ、待って、待って! そんなの絶対ないからっ」

「逢えない時間が、愛育てるのさ」 

 腕の中でもがく俺の耳元に息なんか吹きかけちゃって、低い声で囁いてくる。

「……って、歌の歌詞にもあるしね?」

「何言ってんの! 俺は透さんと愛、育てるから!」

 それに、俺、そんな歌、知らねーし!

 みっきーは、俺を解放して、「ジョークだよ、ジョーク。ちょっとだけ寂しかったからさ」と、言って照れたように頭を掻いている。

「まったくー、いつもどこまでが本気か冗談なんだか分かりにくいんだから」

 でも……みっきーには、いっぱい力になってもらった……。

「……みっき、」

「ん?」

「……色々、ありがとう」

 みっきーは満面の笑みを浮かべながら「透の手を、離すなよ」と言って、大きな手で俺の頭を撫でてくれる。

 大きくて、暖かい手。俺は何度この手に助けられただろう。

「うん」

 なんかちょっと、鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなるのを感じて俯いてしまう。

「……おっ、王子様が来たみたいだぞ」

 みっきーの言葉に、顔を上げて振り向けば、透さんが走ってくるのが見えた。

「透さん!」

 俺が名前を呼んで手を振るより早く、透さんがこちらに気付いて、小さく手を振ってくれていた。

「遅くなって、ごめんね」

「ううん、俺も今来たところだから」

 走ってきてくれたのか、少し息を切らせながらも、透さんは優しい笑顔をくれる。

 それから透さんは、みっきーへ視線を移した。

「……お久しぶりです、光樹先輩」

 この二人は、偶然にも先輩後輩であって、それで……透さんには俺とみっきーのキスシーンもばっちり見られてて……、最後までしちゃったのも、知っているわけで……。

 それでこうして二人が会うのを傍で見るのって、やっぱり何か緊張して、俺は無駄におろおろしてしまう。

「……えーと、あの……」

 何か喋んないと! って思いながらも口籠っていると、みっきーが透さんの頭を大きな手で撫でながら嬉しそうに笑みを浮かべた。

「見送り来てくれて、ありがとな、透」

 透さんは、少し恥ずかしそうな表情で、長い睫を伏せていて……。

 ――なんか、この二人って、先輩後輩って聞いてたけど、俺が思ったより仲が良かったのかな―― ?
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