出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第四章:想う心と○○な味の……

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「どうぞ……」

 透さんは狭いって言ってたけど、通された新しい部屋は、前のマンションよりも少し小さいだけで、決して狭いわけじゃない。

「バタバタしていたから、まだ全部片付いてないんだけど」

 部屋の隅にダンボールがいくつか開けてないのが置いてあるけど、

 ――俺の部屋に比べたら、全然片付いてるし……。

 まだ建ったばかりのマンションなのか、新築の匂いがしている。

 新しい部屋の中をキョロキョロ眺めていると、繋いだままだった手を引き寄せられて、抱きしめられた。

「……直くん」

 ぴったりとお互いの頬がくっついて、耳元で名前を呼ばれると胸がドキッと音を立てる。

「ね、どうする? 先に食べる?」

「……へっ?」

 な、何を?! 俺を?! って、アホな事考えてしまって、声が上擦ってしまった!

 けど、透さんの視線は、俺の手にある紙袋で……。

「……どうしたの? 直くん」

「え? あ、いや……えーと、た、べようーかなー」

 透さんの問いに返した言葉は、えらくしどろもどろで。透さんは、可笑しそうにクスクスと笑ってて、もう恥ずかしくて顔が上げられない。

「俺は、直くんを先に食べたいんだけどな」

 顔を上げられない俺の耳元でそう囁かれて、一気に身体中が熱くなった。

 透さんは俺の頬を両手で包み、顔を覗きこんで、「だめ?」って、訊きながら唇を重ねる。

 ――そんなの……、駄目なわけないじゃん……。

 言葉には出さずに、唇を割り挿ってくる透さんの舌に自分の舌を絡める事で伝えた。

 一度だけ角度を変えて浅い口づけを落とし、すぐに離れてしまう唇を物足りなくて追いかければ、透さんはクスッと悪戯っぽく笑いながら、俺の手から紙袋を奪い取ってしまう。

「じゃあ、冷蔵庫に入れておくね」

 透さんは、袋の中から取り出したクッキーシューの箱を冷蔵庫に入れて扉を閉めると、振り向きざまに俺の体を抱き寄せて、また唇を重ねた。

 背中に回った手に強く抱きしめられて、俺は少し背伸びをして透さんの首に腕を絡める。途端に咥内で甘く舌を絡め取られて、合わさった唇の隙間から熱い吐息が零れた。

 ――キスって不思議だ。

 今までも何度も交わしてきた透さんとのキスは、その時々で感じ方が違う。

 初めてのキスは、甘い痺れるような快感を感じながらも、戸惑っていてどこか不安で。

 みっきーとの事を透さんが知った時のキスは、とても痛くて、切なくて、苦かった。

 お互いの気持ちが寄り添った今のキスは、心が嬉しいと叫んでいて、凄い幸せで、今までした中で一番蕩けそうに甘い。

 その時その時に感じる想いが、キスには色んな味があると教えてくれる。

 角度を変える度に見つめあって、唇が触れたまま微笑み合って、また深く口づける。

 もうそれだけで心が満たされていく。

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