150 / 351
第四章:想う心と○○な味の……
(48)
しおりを挟む
「透さん、これ一緒に食べたいな」
これ……、と言って、クッキーシューの入った紙袋に一旦視線を落としてから、透さんを見上げた。
あの日は、クリスマスケーキを一緒に食べようと誘ったんだっけ。
「いいの? 俺と一緒に食べて」
「いいに決まってる!」
透さんは、少し考えるように首を傾げてから、にっこりと微笑んで、「じゃあ、もし直くんが良ければ、俺の家で食べない?」と、言ってくれた。
二人でクスクスと笑いながら、あの日自分達が言った台詞を思い出している。
「いいの? お邪魔しても?」
「勿論。暖かいコーヒーも淹れるよ」
そこまで言葉を繋いで、俺はふと思い出した。
「……透さんちって……どこ?」
透さんはあのマンションを引越したから、今は何処に住んでいるんだろう。
「ここから電車でそう遠くないよ。前より直くんのマンションにも近くなったかな」
「大阪に引越したのかと、思ってた……」
「前のマンションは、親が引き払ったから……。勝手に大阪に住む予定にされてたけど……俺は婚約破棄をして、会社も退職したし……」
――え? それって……。
「新しいマンションは前の所より狭いけど、いいかな」
にっこり微笑んで、簡単に言ってるけど! て言うか、狭いのは全然いいんだけど! それより……、
「あ、あの、会社辞めたって? 実家の?」
「いや、親の会社に入る前に、婚約者だった人の親が経営する会社に行けって言われて勤めていたんだ。結婚したら、暫く大阪本社勤務になるから転勤って形で大阪に行かされていたんだけど……」
それで色々ごたごたしていて、何も言わずに行ってしまってごめんね、心配かけさせたね。って、謝る透さんに、俺は首を横に振る。
透さんが突然いなくなって、もう会えないかもと思った時は訳わかんなくて、それは本当に辛かったけど。
それはもう、いいんだ。今ここに、透さんがいてくれるから。
「じゃあ、実家の会社に戻るの?」
透さんは苦笑しながら、かぶりを振る。
「もう、家に振り回されるのは、やめたから」
そう言うと、俺の手を握って立ち上がった。
「心配しなくても大丈夫だよ。もう次の仕事は決まっているから」
そうなのか? 大丈夫なのか? でも透さんが大丈夫と言ってるから、きっと大丈夫なのかな。なんて考えていると、透さんは「行こうか」と、俺の手を握り直して手を繋いだまま歩き出す。
「ちょ、ちょっ、透さん、電車で行くの? なら手、手ぇ、駄目だって!」
一人で慌てる俺に、透さんは立ち止まって「なんで?」って、不思議そうな顔で訊いていくる。
「だ、だって、男同士だしっ、変な目で見られちゃうよ」
「いいよ、変な目で見られても。今夜は特別」
そう言って、また手を繋いだまま歩き出した透さんの顔を、少し斜め後ろから眺めながらついて行く。
しっかり繋がれた左手に幸せを感じると、なんだかまた顔が緩んできちゃう。
――ま、いっか……。
繋いだ手をキュッと握り返すと、透さんが肩越しに、目を細めて優しく微笑んでくれる。
満員電車の中も、駅から透さんのマンションまでも、透さんが部屋の鍵を開けている間も、ずっと手を握り締めたまま。
繋いだこの手が、もう二度と離れないように……と願いながら。
これ……、と言って、クッキーシューの入った紙袋に一旦視線を落としてから、透さんを見上げた。
あの日は、クリスマスケーキを一緒に食べようと誘ったんだっけ。
「いいの? 俺と一緒に食べて」
「いいに決まってる!」
透さんは、少し考えるように首を傾げてから、にっこりと微笑んで、「じゃあ、もし直くんが良ければ、俺の家で食べない?」と、言ってくれた。
二人でクスクスと笑いながら、あの日自分達が言った台詞を思い出している。
「いいの? お邪魔しても?」
「勿論。暖かいコーヒーも淹れるよ」
そこまで言葉を繋いで、俺はふと思い出した。
「……透さんちって……どこ?」
透さんはあのマンションを引越したから、今は何処に住んでいるんだろう。
「ここから電車でそう遠くないよ。前より直くんのマンションにも近くなったかな」
「大阪に引越したのかと、思ってた……」
「前のマンションは、親が引き払ったから……。勝手に大阪に住む予定にされてたけど……俺は婚約破棄をして、会社も退職したし……」
――え? それって……。
「新しいマンションは前の所より狭いけど、いいかな」
にっこり微笑んで、簡単に言ってるけど! て言うか、狭いのは全然いいんだけど! それより……、
「あ、あの、会社辞めたって? 実家の?」
「いや、親の会社に入る前に、婚約者だった人の親が経営する会社に行けって言われて勤めていたんだ。結婚したら、暫く大阪本社勤務になるから転勤って形で大阪に行かされていたんだけど……」
それで色々ごたごたしていて、何も言わずに行ってしまってごめんね、心配かけさせたね。って、謝る透さんに、俺は首を横に振る。
透さんが突然いなくなって、もう会えないかもと思った時は訳わかんなくて、それは本当に辛かったけど。
それはもう、いいんだ。今ここに、透さんがいてくれるから。
「じゃあ、実家の会社に戻るの?」
透さんは苦笑しながら、かぶりを振る。
「もう、家に振り回されるのは、やめたから」
そう言うと、俺の手を握って立ち上がった。
「心配しなくても大丈夫だよ。もう次の仕事は決まっているから」
そうなのか? 大丈夫なのか? でも透さんが大丈夫と言ってるから、きっと大丈夫なのかな。なんて考えていると、透さんは「行こうか」と、俺の手を握り直して手を繋いだまま歩き出す。
「ちょ、ちょっ、透さん、電車で行くの? なら手、手ぇ、駄目だって!」
一人で慌てる俺に、透さんは立ち止まって「なんで?」って、不思議そうな顔で訊いていくる。
「だ、だって、男同士だしっ、変な目で見られちゃうよ」
「いいよ、変な目で見られても。今夜は特別」
そう言って、また手を繋いだまま歩き出した透さんの顔を、少し斜め後ろから眺めながらついて行く。
しっかり繋がれた左手に幸せを感じると、なんだかまた顔が緩んできちゃう。
――ま、いっか……。
繋いだ手をキュッと握り返すと、透さんが肩越しに、目を細めて優しく微笑んでくれる。
満員電車の中も、駅から透さんのマンションまでも、透さんが部屋の鍵を開けている間も、ずっと手を握り締めたまま。
繋いだこの手が、もう二度と離れないように……と願いながら。
5
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる