出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第四章:想う心と○○な味の……

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「久しぶりだね」

 携帯の通話を切ると、目の前の人の優しい声だけが静かに耳に届く。

 ――なんで……大阪にいる筈の透さんがここに?

 こんなにも近くで、あんなに会いたかった人の声がすぐ傍で聞こえている。

 今ここに、透さんがいる事が、夢の様で現実に思えなくて……。

 透さんに会ったら、言わなくちゃいけない事がいっぱいあった筈なのに、全然思い付かなくて。

 ああ……、そうだ……、まずは透さんを傷つけてしまったことを謝らないと。

 みっきーの事や、妹さんのことを勝手に誤解して、もう会わないと言っちゃった事とか。

「…… あの……、」
「直くん、本当にごめんね」

 俺が言うよりも先に、透さんがそう言って頭を下げる。

 ――な、なんで? 透さんは何も悪くないのに……。

 やっぱり俺とは、もう終わりって事? ちゃんと別れを言う為に会いにきたって事なのかな……。そう思うと、目頭が熱くなってくる。

「な……んで、透さんが謝るの?」

 それだけ言うのが精一杯で、俺は唇を噛み締めた。

「……直くんを傷つけてしまったから……」

 透さんのその言葉に、『結婚』の文字が頭を過った。

 長い睫を伏せて、苦しげに紡ぐ言葉の先を聞くのが怖くて、俺は俯いてしまう。

 だけど、透さんが続けた言葉は、俺が全く予想もつかない意外なものだった。

「直くんに嫌われてしまっても、仕方がないと思う」

 ――え? 

 俺が勝手に誤解して、悪いのは俺なのに。

「あの日、嫉妬心から激情に駆られて直くんを抱いてしまった」
「俺が透さんを嫌いになるなんて、そんなこと……」

 それは違うと否定したくて咄嗟に出した声が、透さんの声と重なる。
 
 ――って、……え? ……嫉妬?

「そんな! あれは、俺が悪いんだか……ら……、」

 驚いて顔を上げれば、気まずそうな表情で俺を見つめる透さんと漸く目が合って、勢いよく言いかけた声が、最後は小さく消えてしまう。

 口籠る俺に、透さんは「ベンチに座らない?」と微かに微笑んで、さっき座っていたベンチまで歩いていく。

 俺はその背中を追いかけて、透さんの隣に少し距離を置いて座った。

 小さく息をつき、透さんは静かな声で話し始めた。

「直くん……、俺はね、人を本気で好きになるなんて、あり得ないことだと思っていたんだよ」

「……え?!」

 それは、いつも優しくて穏やかな透さんの言葉とは思えなくて、俺は驚いて隣の透さんを見上げた。

 綺麗なのに、どこか寂しそうな哀しい漆黒の瞳がそこにあった。

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