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第四章:想う心と○○な味の……
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「直、もう8時回ってる。上がっていいぞ」
「はい、んじゃ、ここ片付けたら上がります」
お客様が帰った後のテーブルを拭きながら、俺は明日の予定を考えていた。
明日と明後日と、ちょうどバイトは休みで、予定も何も入れていない。
……大阪……観光でも行ってみるか……。なんて考えて、自分でも笑ってしまう。
みっきーの言う通り、あまり重く考えないで行ってみるのも悪くないかもしれない。
「あ、直、ちょっとおいで」
私服に着替えに行こうとしているところを、厨房から顔を出したオーナーシェフの相田さんに呼び止められた。
「はい」
厨房に入って行くと、相田さんが冷蔵庫から何かを取り出しているところだった。。
傍にいる池田さんはニコニコと笑ってるし、何だろ?
「ハッピーバースデー直。これやる」
相田さんがぶっきらぼうに差し出したのは、ラッピングされた箱。
「え? え?」
突然だったから、相田さんの言った言葉の意味をすぐに理解できなくて、俺は差し出された箱と相田さんの顔を何度も交互に見てしまう。
「19歳おめでとう、直」
驚いている俺に、池田さんや厨房にいる他のスタッフも、一旦作業する手を止めて拍手をしてくれる。
「あ? あぁ……俺……」
そう言えば、今日は3月31日。俺の19歳の誕生日だった。
「うぁぁ……なんか俺、今日が自分の誕生日忘れてました……え、まじで? すごい嬉しい……ありがとうございます」
しどろもどろに感謝の気持ちを口にして、俺はそのプレゼントの箱を受け取った。
まさか祝ってもらえるなんて思ってなくて、突然のサプライズに驚いたけど、嬉しくて顔中の筋肉が緩んでるのが自分でも分かる。
皆が口々に「おめでとう」と、言って、代わる代わる俺の頭を撫で回してクシャクシャにしてくれる。
「それ、誕生日祝いだけど、ケーキじゃないよ」と、笑いながらラッピングした箱を指さす相田さん。
「え? なんだろう?」
箱の大きさは、そんなに大きくはない。店でよく使っている箱の大きさと同じ。
「ま、プレゼントって言っても、実際は直が作ったんだけどね」
「あ……」
――ハート型クッキーシューだ。
相田さんは、悪戯っぽく笑いながら、言葉を続ける。
「でもプレートには、池田くんが皆を代表して、メッセージを書いてくれたんだよ」
「うわーっ、マジで嬉しいです! ありがとうございます」
スタッフの、しかもバイトになんか、今まで誕生日祝いなんてしたことなんて一度も無かったのに。
ふと、そう思って見上げれば、俺の考えてることが分かったのか、相田さんがにこっと微笑んた。
「10代最後の誕生日だしね。バレンタインの時は頑張ってくれたから特別だよ。な、みんな!」
相田さんがそう言うと、その場にいたスタッフから「そーそー!」と声があがる。そしてまた拍手をしてくれる。
ありがとうございます。と、何度もお礼を言って回ると、またみんなが一人ずつ俺の頭をクシャクシャになるまで撫でてくれて……。
なんか、胸の奥からすごく熱いものが込み上げてきちゃった。
***
店を出たのは、もう21時になる頃だった。
太陽が出ている時間なら暖かいけど、さすがに夜はまだ風が冷たい。
シャツの上に薄手の綿ニットのジャケットだけでは、少し肌寒くて肩を竦めた。
――十代最後か……。
二十歳になる頃には、もっと大人になれるのかな。
俺がもっと大人だったら、今も透さんと一緒にいられただろうか。
そんな事を考えながらポケットの中に手を入れると、昼間みっきーからもらったメモが指に当たって、カサリと音を立てた。
「明日……本当に大阪行ってみようかな……。その前に透さんの会社に電話してみる方がいいのかな」
あれこれ迷いながら、俺は透さんの優しい笑顔を思い出していた。
「はい、んじゃ、ここ片付けたら上がります」
お客様が帰った後のテーブルを拭きながら、俺は明日の予定を考えていた。
明日と明後日と、ちょうどバイトは休みで、予定も何も入れていない。
……大阪……観光でも行ってみるか……。なんて考えて、自分でも笑ってしまう。
みっきーの言う通り、あまり重く考えないで行ってみるのも悪くないかもしれない。
「あ、直、ちょっとおいで」
私服に着替えに行こうとしているところを、厨房から顔を出したオーナーシェフの相田さんに呼び止められた。
「はい」
厨房に入って行くと、相田さんが冷蔵庫から何かを取り出しているところだった。。
傍にいる池田さんはニコニコと笑ってるし、何だろ?
「ハッピーバースデー直。これやる」
相田さんがぶっきらぼうに差し出したのは、ラッピングされた箱。
「え? え?」
突然だったから、相田さんの言った言葉の意味をすぐに理解できなくて、俺は差し出された箱と相田さんの顔を何度も交互に見てしまう。
「19歳おめでとう、直」
驚いている俺に、池田さんや厨房にいる他のスタッフも、一旦作業する手を止めて拍手をしてくれる。
「あ? あぁ……俺……」
そう言えば、今日は3月31日。俺の19歳の誕生日だった。
「うぁぁ……なんか俺、今日が自分の誕生日忘れてました……え、まじで? すごい嬉しい……ありがとうございます」
しどろもどろに感謝の気持ちを口にして、俺はそのプレゼントの箱を受け取った。
まさか祝ってもらえるなんて思ってなくて、突然のサプライズに驚いたけど、嬉しくて顔中の筋肉が緩んでるのが自分でも分かる。
皆が口々に「おめでとう」と、言って、代わる代わる俺の頭を撫で回してクシャクシャにしてくれる。
「それ、誕生日祝いだけど、ケーキじゃないよ」と、笑いながらラッピングした箱を指さす相田さん。
「え? なんだろう?」
箱の大きさは、そんなに大きくはない。店でよく使っている箱の大きさと同じ。
「ま、プレゼントって言っても、実際は直が作ったんだけどね」
「あ……」
――ハート型クッキーシューだ。
相田さんは、悪戯っぽく笑いながら、言葉を続ける。
「でもプレートには、池田くんが皆を代表して、メッセージを書いてくれたんだよ」
「うわーっ、マジで嬉しいです! ありがとうございます」
スタッフの、しかもバイトになんか、今まで誕生日祝いなんてしたことなんて一度も無かったのに。
ふと、そう思って見上げれば、俺の考えてることが分かったのか、相田さんがにこっと微笑んた。
「10代最後の誕生日だしね。バレンタインの時は頑張ってくれたから特別だよ。な、みんな!」
相田さんがそう言うと、その場にいたスタッフから「そーそー!」と声があがる。そしてまた拍手をしてくれる。
ありがとうございます。と、何度もお礼を言って回ると、またみんなが一人ずつ俺の頭をクシャクシャになるまで撫でてくれて……。
なんか、胸の奥からすごく熱いものが込み上げてきちゃった。
***
店を出たのは、もう21時になる頃だった。
太陽が出ている時間なら暖かいけど、さすがに夜はまだ風が冷たい。
シャツの上に薄手の綿ニットのジャケットだけでは、少し肌寒くて肩を竦めた。
――十代最後か……。
二十歳になる頃には、もっと大人になれるのかな。
俺がもっと大人だったら、今も透さんと一緒にいられただろうか。
そんな事を考えながらポケットの中に手を入れると、昼間みっきーからもらったメモが指に当たって、カサリと音を立てた。
「明日……本当に大阪行ってみようかな……。その前に透さんの会社に電話してみる方がいいのかな」
あれこれ迷いながら、俺は透さんの優しい笑顔を思い出していた。
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