141 / 351
第四章:想う心と○○な味の……
(39)
しおりを挟む
*****
3月に入って、寒さも段々と和らいできて、季節は移り変わる。
長すぎる春休みは、殆どバイトに明け暮れていた。
働いている時は、余計な事を考えなくて済む。
ただ……俺はもう、透さんを無理に忘れようとするのを止めていた。
透さんと会っていたあの頃から、時間はどんどん遠ざかるのに、記憶だけは鮮明で色褪せる事もなく。
忘れなきゃと思うけど……、そう思うだけで胸が苦しくなるから。
透さんが居なくなってしまったと知ったバレンタインデーのあの夜、みっきーと別れて自分の部屋に戻ってシャワーを浴び、すぐにベッドに入った。
何も考えずに、ただ眠りたかった。でも、身体は疲れているのに、目を閉じていても、なかなか寝付けなくて。
何度も寝返りを繰り返し、考えるのを止めた筈なのに、浮かぶのは透さんの事ばかり。
もう会えないと思うと、苦しくて、痛くて、辛い。
新聞配達のバイクの音が聞こえる頃に、ベッドから抜け出てキッチンへと向かう。なんだかすごく喉が渇いていて、冷蔵庫の中からペットボトルの水を取り出して、一気に喉に流し込んだ。
そのまま小さな冷蔵庫を背もたれにして、床に座り込んでしまうと動くのも面倒で。
もう会えないと思うと辛い、忘れなきゃと思うのも辛い。
じゃあ透さんに迷惑はかけないから、勝手にまだ好きでいてもいいかな。
そう考えると、少しだけ気持ちが楽になった気がした。
膝を抱えて目を閉じると漸く眠気を感じて、少しの間、冷蔵庫に凭れたまま微睡んでいたと思う。
東の空が少し明るくなった頃、啓太が部屋に尋ねてきた。ドロドロに酔っ払って。
どうしたのかと話を訊けば、14日のバレンタインは、ゆり先輩にチョコレートを貰ったらしい。
良かったじゃないかと言えば、貰ったのは自分だけじゃなくて、その時同じ場所にいた他の男5人も同じチョコレートを貰ったそうだ。
……つまり……?
それで泥酔したのかと思ったら、違った。
その時、ゆり先輩は今夜誰と夜を過ごすかって話になって、みんなでクジを引いたらしい。
……なんだそれ……?
とにかく、啓太はクジには外れて、他の残った男共と明け方まで仲良く呑んでいたらしい。
それで啓太は、ゆり先輩を諦めるのかと思ったら、今も果敢にアタックをかけている。
ゆり先輩が、啓太含めて6人に渡したチョコレートって、義理チョコなのかと俺は思っていたんだけど……、実は全部本命のつもりだったそうだ。
それでいいのか、啓太……って思うけど、それでも好きだから……って、啓太は言った。
――好きっていう自分の気持ちは、誤魔化せない。
3月に入って、寒さも段々と和らいできて、季節は移り変わる。
長すぎる春休みは、殆どバイトに明け暮れていた。
働いている時は、余計な事を考えなくて済む。
ただ……俺はもう、透さんを無理に忘れようとするのを止めていた。
透さんと会っていたあの頃から、時間はどんどん遠ざかるのに、記憶だけは鮮明で色褪せる事もなく。
忘れなきゃと思うけど……、そう思うだけで胸が苦しくなるから。
透さんが居なくなってしまったと知ったバレンタインデーのあの夜、みっきーと別れて自分の部屋に戻ってシャワーを浴び、すぐにベッドに入った。
何も考えずに、ただ眠りたかった。でも、身体は疲れているのに、目を閉じていても、なかなか寝付けなくて。
何度も寝返りを繰り返し、考えるのを止めた筈なのに、浮かぶのは透さんの事ばかり。
もう会えないと思うと、苦しくて、痛くて、辛い。
新聞配達のバイクの音が聞こえる頃に、ベッドから抜け出てキッチンへと向かう。なんだかすごく喉が渇いていて、冷蔵庫の中からペットボトルの水を取り出して、一気に喉に流し込んだ。
そのまま小さな冷蔵庫を背もたれにして、床に座り込んでしまうと動くのも面倒で。
もう会えないと思うと辛い、忘れなきゃと思うのも辛い。
じゃあ透さんに迷惑はかけないから、勝手にまだ好きでいてもいいかな。
そう考えると、少しだけ気持ちが楽になった気がした。
膝を抱えて目を閉じると漸く眠気を感じて、少しの間、冷蔵庫に凭れたまま微睡んでいたと思う。
東の空が少し明るくなった頃、啓太が部屋に尋ねてきた。ドロドロに酔っ払って。
どうしたのかと話を訊けば、14日のバレンタインは、ゆり先輩にチョコレートを貰ったらしい。
良かったじゃないかと言えば、貰ったのは自分だけじゃなくて、その時同じ場所にいた他の男5人も同じチョコレートを貰ったそうだ。
……つまり……?
それで泥酔したのかと思ったら、違った。
その時、ゆり先輩は今夜誰と夜を過ごすかって話になって、みんなでクジを引いたらしい。
……なんだそれ……?
とにかく、啓太はクジには外れて、他の残った男共と明け方まで仲良く呑んでいたらしい。
それで啓太は、ゆり先輩を諦めるのかと思ったら、今も果敢にアタックをかけている。
ゆり先輩が、啓太含めて6人に渡したチョコレートって、義理チョコなのかと俺は思っていたんだけど……、実は全部本命のつもりだったそうだ。
それでいいのか、啓太……って思うけど、それでも好きだから……って、啓太は言った。
――好きっていう自分の気持ちは、誤魔化せない。
5
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる