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第四章:想う心と○○な味の……
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久しぶりのバイトの日。
やっと外出できるって言うのもあるんだけど、今日は金曜日。
もしかしたら、透さんに会えるかも!なんて期待しちゃったりして。朝から、なんとなくテンションが高い俺は、出勤時間よりも1時間以上も前に店に来てしまった。
**
取り敢えずホールスタッフのユニフォームに着替えてから厨房を覗いてみる。
「おはようございまーす」
厨房には、オーナーシェフの相田さんとパティシエの池田さんが、何やら真剣な顔で話をしていた。
「お早う、直。随分早いな。もう身体の方は大丈夫か?」
相田さんが俺に視線を移して、優しく訊いてくれる。
「はい、もう大丈夫です。バイト、休んじゃってすみませんでした」
「若くてもインフルエンザには勝てないからなぁ。今日も無理するなよ」
オーナーシェフの相田さんは、いつもスタッフ全員の体調を気遣ったり、気さくに話をしてくれるから、バイトの俺でも話しやすい、兄貴のような存在だ。
「ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をして、ホールの清掃でも始めようと顔をあげた時、目に入ったのは二人の前に置いてあるケーキ。それは見た事のないケーキだった。
「美味しそうですね。新作ですか?」
いつもパティシエの池田さんは、閉店後にケーキの試作を一人で残って作っていたりするんだけど、新しいのが出来たのかな。
「いやー、これは相田さんが作ったんだよね」
「え? そうなんですか? 相田さんスイーツも作れるんですね」
「失礼な、俺は何でもできるんだよ、直くん」
そう言って相田さんは、ちょっと頬を膨らませて拗ねたふりをしてる。
「来週のバレンタインに向けてね、いつもは普通にチョコレートのギフトを用意するんだけど、ちょっと変わったケーキとか、どうかなと思ってね」
目の前のケーキは、ふわふわしたチョコスポンジに、たっぷりのチョコ生クリーム。俺の好きな苺で飾り付けられている。
「でも結局これって、普通にチョコケーキだよねって、話してたとこなんだよ」
「もっと、うちにしか売ってないみたいな、オリジナリティーが欲しいんですよね」
真剣な表情で、ケーキを見詰めながら話す二人。
――へぇ~、じゃあこのケーキはボツなのかぁ 店に出したら普通に人気出そうだけどな。
そう思いながら、俺はふと思いついた事を、そのまま口にした。
「シュークリームって、ハート型とかに出来ないのかなぁ」
バレンタインって言ったら、ハートでしょー? と、言う単純な考えと、そういえばこの店にはシュークリームが無かったなぁ、って思い出しただけの話なんだけど。
「直、それいいかも」
二人がほぼ同時に、そう言った。
「え? 出来るの? ハート型」
「できるよ、シュー生地を絞りだす時に成型すればできる」
「じゃあさ、そのシューをココア混ぜたクッキーシューにしてさ、中にチョコクリームを……」
ハート型シューから、どんどんアイデアが膨らんでいる様子の二人。
「直、ありがとう。いいヒントになったよ」
「え? いえ、俺なんてそんな、適当に言っただけなのに……」
本当に適当だったから、お礼を言われて、なんだか顔が熱くなる。
「ご褒美に、このケーキ食っていいぞ」
「え?! マジですか?! いいんですか?!」
自慢じゃないけど、俺は甘い物には目がない。思わず飛び上がって喜んでしまった。
「ホント、直はケーキ好きだよな」
そう言って笑いながら、パティシエの池田さんはケーキを切る準備を始めた。
やっと外出できるって言うのもあるんだけど、今日は金曜日。
もしかしたら、透さんに会えるかも!なんて期待しちゃったりして。朝から、なんとなくテンションが高い俺は、出勤時間よりも1時間以上も前に店に来てしまった。
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取り敢えずホールスタッフのユニフォームに着替えてから厨房を覗いてみる。
「おはようございまーす」
厨房には、オーナーシェフの相田さんとパティシエの池田さんが、何やら真剣な顔で話をしていた。
「お早う、直。随分早いな。もう身体の方は大丈夫か?」
相田さんが俺に視線を移して、優しく訊いてくれる。
「はい、もう大丈夫です。バイト、休んじゃってすみませんでした」
「若くてもインフルエンザには勝てないからなぁ。今日も無理するなよ」
オーナーシェフの相田さんは、いつもスタッフ全員の体調を気遣ったり、気さくに話をしてくれるから、バイトの俺でも話しやすい、兄貴のような存在だ。
「ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をして、ホールの清掃でも始めようと顔をあげた時、目に入ったのは二人の前に置いてあるケーキ。それは見た事のないケーキだった。
「美味しそうですね。新作ですか?」
いつもパティシエの池田さんは、閉店後にケーキの試作を一人で残って作っていたりするんだけど、新しいのが出来たのかな。
「いやー、これは相田さんが作ったんだよね」
「え? そうなんですか? 相田さんスイーツも作れるんですね」
「失礼な、俺は何でもできるんだよ、直くん」
そう言って相田さんは、ちょっと頬を膨らませて拗ねたふりをしてる。
「来週のバレンタインに向けてね、いつもは普通にチョコレートのギフトを用意するんだけど、ちょっと変わったケーキとか、どうかなと思ってね」
目の前のケーキは、ふわふわしたチョコスポンジに、たっぷりのチョコ生クリーム。俺の好きな苺で飾り付けられている。
「でも結局これって、普通にチョコケーキだよねって、話してたとこなんだよ」
「もっと、うちにしか売ってないみたいな、オリジナリティーが欲しいんですよね」
真剣な表情で、ケーキを見詰めながら話す二人。
――へぇ~、じゃあこのケーキはボツなのかぁ 店に出したら普通に人気出そうだけどな。
そう思いながら、俺はふと思いついた事を、そのまま口にした。
「シュークリームって、ハート型とかに出来ないのかなぁ」
バレンタインって言ったら、ハートでしょー? と、言う単純な考えと、そういえばこの店にはシュークリームが無かったなぁ、って思い出しただけの話なんだけど。
「直、それいいかも」
二人がほぼ同時に、そう言った。
「え? 出来るの? ハート型」
「できるよ、シュー生地を絞りだす時に成型すればできる」
「じゃあさ、そのシューをココア混ぜたクッキーシューにしてさ、中にチョコクリームを……」
ハート型シューから、どんどんアイデアが膨らんでいる様子の二人。
「直、ありがとう。いいヒントになったよ」
「え? いえ、俺なんてそんな、適当に言っただけなのに……」
本当に適当だったから、お礼を言われて、なんだか顔が熱くなる。
「ご褒美に、このケーキ食っていいぞ」
「え?! マジですか?! いいんですか?!」
自慢じゃないけど、俺は甘い物には目がない。思わず飛び上がって喜んでしまった。
「ホント、直はケーキ好きだよな」
そう言って笑いながら、パティシエの池田さんはケーキを切る準備を始めた。
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