出逢えた幸せ

ずーちゃ

文字の大きさ
上 下
114 / 351
第四章:想う心と○○な味の……

(12)

しおりを挟む
「桜川先輩……?」

 桜川先輩は、ずんずんと一直線に俺を目指して歩いてくる。眼鏡の奥の眼が怖いんですけど……!

「あ、あの?」

「ちょっと話がある」

 そう言うと、桜川先輩は俺の手首を掴んで、すぐ傍にある路地へ入っていく。

 桜川先輩とは、みっきーの部屋で会ってからも、みっきーの店や学食とかで時々顔を合わせる機会はあった。

 何か言われたりされたりって事は無かったけれど、新年会の時の事もあって、やっぱり苦手なのは変わりない。

 それは桜川先輩にしても同じだと思うのに、いったい何の用があるんだろう。しかもこんな人気ひとけのない路地裏に。

 新年会でのあの屈辱が頭を過ぎって、今すぐに掴まれた手を振り払って逃げ出したい衝動に駆られる。

 大通りからかなり離れた角を曲がったところで、俺は建物の壁を背に立たされて、やっと掴まれた手を放してもらえた。

「あ、あの、何ですか? 話って」

 心の中は、早く透さんのマンションへ行きたいという気持ちで満ちている。どんな事を言われるのか不安だけど、早く用件を聞いて終わらせたい。

「そんなに慌てて、何か用でもあるわけ?」

「はい。だからちょっと急いでて……。俺に何か用があるなら……」

 早く言って下さいと、言いかけたところで、肩を押されて後ろの壁に背中がぶつかる。

「……ッ」

 そんなに強い力じゃないけど、予測していなかった背中への衝撃に思わず小さく呻いた。

「な、なんですかっ?」

 俺の顔を挟むように壁に両手をついて、ジロジロと顔を見られたら誰だっていい気なんてしない。

「……お前、兄貴と付き合ってんの?」

 ――ああ……。

 また、俺がいい加減な気持ちで、みっきーと身体の関係をもっていると思っているんだな。

 あの新年会の夜、みっきーと身体を繋げて以来、突然軽くキスをされたりとか、抱きしめられたりとかはあったけど、桜川先輩が考えているような事はしていない。みっきーは、俺がその気になるのを待っていると言っていたから。

 でも運が悪いのか、さっきのスタッフルームで見られた場面は、どう考えてもそういう行為をしようとしていたと、誤解されても仕方がない。

 しかも場所が仕事場である店の中って言うのも、桜川先輩の怒りを買うには十分すぎる要因だよね。

「俺、みっ……お兄さんとは付き合ってないです」

 言いながら、恐る恐る桜川先輩の顔を見上げると、眼鏡の奥の冷たい瞳にじっと見据えられる。

「恋人でもないのに、あんな事するわけ?」

 ――ああ、やっぱり……さっきの場面だけ見たらそうなるよな……。

「あ、あの、本当にさっきのは、その……ふざけていただけで。お兄さんには……その……色々相談に乗って貰ったりしていて……」

 みっきーとの関係を一言で説明するのは、結構難しい。身体の関係はあれ以来無いけど、でもあったのは事実なわけで……。

「こないだ、兄貴のマンションで、体中にキスマーク付けていたよな? それで兄貴はお前の事を本気で好きだと言っていた」

「あ……」

 確かにそうなんだけど……。

「あの時は、その……確かに。でも、あれからは何も無いんです、本当に」

 しどろもどろの俺に、相変わらず鋭い視線が突き刺さってきて、どうにも萎縮してしまう。

「俺、今までお兄さんに……甘え過ぎていました」

 そう……、いつも傍にいてくれて、何かと元気付けてくれたり心配してくれるみっきーに俺は甘えていた。みっきーの気持ちも考えずに。

「だから……」

 ――これ以上甘えられない。

しおりを挟む
B L ♂ U N I O N

感想などお待ちしております。
★メール★clap★res
感想 380

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...