出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第四章:想う心と○○な味の……

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 まだオープンして直ぐの時間帯だからか、カウンターに一人とボックス席に二人の客が座っているくらいで、店の中は静かだった。

 店内は、ダメージ感のある木製の腰壁やカウンターが、アーリーアメリカン調の雰囲気をつくり出していて、暖かみのある柔らかい色のライトは、まるで外の雑踏から隔離されているような、落ち着いた気分にさせてくれる。

 透さんと最後に逢ったあの日以降、時々みっきーに連れられてこの店に来るようになったから、俺はスタッフの人とも顔馴染みになっていた。

 カウンターの中からバーテンダーの森岡さんが「直くん、いらっしゃい」と、笑顔を向けてくれる。

 歳は、多分……みっきーより年上だと思う。

「こんばんは」

 当たり前のようにカウンター席に座ろうとすると「直、こっち」と、みっきーが店の奥にあるスタッフルームのドアの前に立ち、俺を呼んだ。

「え? あ、うん」

 座りかけた椅子から離れて、スタッフルームへ向かおうとした俺に、森岡さんが「何かお飲み物、お持ちしましょうか?」と訊いてくれる。

「じゃあ、ジントニックにしようかな」

 俺が森岡さんにお願いしていると、みっきーも「あ、俺はコーヒーね」と、奥のドアから顔を覗かせた。

「みっきー、アルコールじゃなくてもいいの?」

「うん、後で直を送ってくから。あ、森岡さん、それと、ちょっとなんかサンドイッチでも作ってくれる?」

「え? いいよ、俺は電車で帰るから」

 慌ててそう言っても、どうせ自分も帰る時に車を運転するから同じ事。って言いながら、みっきーはスタッフルームへ入っていってしまう。

 ――みっきーが飲まないのに、俺だけっていうのも気がひけるな……。

「あー、すみません森岡さん、じゃあ、俺もコーヒーで!」

 俺が振り向いて言い直せば、森岡さんは、にっこり笑って腰の辺りでOKのサインを出していた。

 **

 この店のスタッフルームに入ったのは、新年会の時以来だった。

 一人掛け用の肘掛の付いた椅子が3脚とテーブルと、小さめのクローゼット。細長い部屋の一番奥の窓際に、二人が座れるくらいの小さめのソファーが置いてある。

「直は酒呑めばいいのに」

 みっきーは、一人掛け用の椅子にドカッと座って煙草に火を点けながらそう言うと、傍に立った俺を上目遣いに見上げる。

「だって俺、未成年だし。保護者が呑まないんじゃ、ね?」

 ちょっと冗談っぽく言ってみたら、みっきーは、ぶーっと、吹き出すように紫煙を吐き出して、「なにそれ、俺は保護者なわけ?」って咳き込みながら笑っている。

 俺も一緒に笑いながら、隣に並べてあった椅子に腰を下ろす。

 みっきーは、話したい事があるって言ってたけど、改まって何だろう? そう思うけど、みっきーはなかなか本題に入ろうとはしない。

 暫く他愛のない事を話していると、森岡さんが二人分のコーヒーと、みっきーが頼んだサンドイッチを持ってきてくれた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 コーヒーとサンドイッチをテーブルに置いて部屋から出ようとする森岡さんに、みっきーが声をかける。

「ああ、ちょっと直とゆっくり話をしたいから、ここ、誰も入らないようにしてくれる?」

 誰も入らないようにって、そんなに大事な話なんだろうか……。
 いったい何ごとだろうと、コーヒーカップに口を付けながら、俺はみっきーの表情を窺った。
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