105 / 351
第四章:想う心と○○な味の……
(3)
しおりを挟む
**
まだオープンして直ぐの時間帯だからか、カウンターに一人とボックス席に二人の客が座っているくらいで、店の中は静かだった。
店内は、ダメージ感のある木製の腰壁やカウンターが、アーリーアメリカン調の雰囲気をつくり出していて、暖かみのある柔らかい色のライトは、まるで外の雑踏から隔離されているような、落ち着いた気分にさせてくれる。
透さんと最後に逢ったあの日以降、時々みっきーに連れられてこの店に来るようになったから、俺はスタッフの人とも顔馴染みになっていた。
カウンターの中からバーテンダーの森岡さんが「直くん、いらっしゃい」と、笑顔を向けてくれる。
歳は、多分……みっきーより年上だと思う。
「こんばんは」
当たり前のようにカウンター席に座ろうとすると「直、こっち」と、みっきーが店の奥にあるスタッフルームのドアの前に立ち、俺を呼んだ。
「え? あ、うん」
座りかけた椅子から離れて、スタッフルームへ向かおうとした俺に、森岡さんが「何かお飲み物、お持ちしましょうか?」と訊いてくれる。
「じゃあ、ジントニックにしようかな」
俺が森岡さんにお願いしていると、みっきーも「あ、俺はコーヒーね」と、奥のドアから顔を覗かせた。
「みっきー、アルコールじゃなくてもいいの?」
「うん、後で直を送ってくから。あ、森岡さん、それと、ちょっとなんかサンドイッチでも作ってくれる?」
「え? いいよ、俺は電車で帰るから」
慌ててそう言っても、どうせ自分も帰る時に車を運転するから同じ事。って言いながら、みっきーはスタッフルームへ入っていってしまう。
――みっきーが飲まないのに、俺だけっていうのも気がひけるな……。
「あー、すみません森岡さん、じゃあ、俺もコーヒーで!」
俺が振り向いて言い直せば、森岡さんは、にっこり笑って腰の辺りでOKのサインを出していた。
**
この店のスタッフルームに入ったのは、新年会の時以来だった。
一人掛け用の肘掛の付いた椅子が3脚とテーブルと、小さめのクローゼット。細長い部屋の一番奥の窓際に、二人が座れるくらいの小さめのソファーが置いてある。
「直は酒呑めばいいのに」
みっきーは、一人掛け用の椅子にドカッと座って煙草に火を点けながらそう言うと、傍に立った俺を上目遣いに見上げる。
「だって俺、未成年だし。保護者が呑まないんじゃ、ね?」
ちょっと冗談っぽく言ってみたら、みっきーは、ぶーっと、吹き出すように紫煙を吐き出して、「なにそれ、俺は保護者なわけ?」って咳き込みながら笑っている。
俺も一緒に笑いながら、隣に並べてあった椅子に腰を下ろす。
みっきーは、話したい事があるって言ってたけど、改まって何だろう? そう思うけど、みっきーはなかなか本題に入ろうとはしない。
暫く他愛のない事を話していると、森岡さんが二人分のコーヒーと、みっきーが頼んだサンドイッチを持ってきてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
コーヒーとサンドイッチをテーブルに置いて部屋から出ようとする森岡さんに、みっきーが声をかける。
「ああ、ちょっと直とゆっくり話をしたいから、ここ、誰も入らないようにしてくれる?」
誰も入らないようにって、そんなに大事な話なんだろうか……。
いったい何ごとだろうと、コーヒーカップに口を付けながら、俺はみっきーの表情を窺った。
まだオープンして直ぐの時間帯だからか、カウンターに一人とボックス席に二人の客が座っているくらいで、店の中は静かだった。
店内は、ダメージ感のある木製の腰壁やカウンターが、アーリーアメリカン調の雰囲気をつくり出していて、暖かみのある柔らかい色のライトは、まるで外の雑踏から隔離されているような、落ち着いた気分にさせてくれる。
透さんと最後に逢ったあの日以降、時々みっきーに連れられてこの店に来るようになったから、俺はスタッフの人とも顔馴染みになっていた。
カウンターの中からバーテンダーの森岡さんが「直くん、いらっしゃい」と、笑顔を向けてくれる。
歳は、多分……みっきーより年上だと思う。
「こんばんは」
当たり前のようにカウンター席に座ろうとすると「直、こっち」と、みっきーが店の奥にあるスタッフルームのドアの前に立ち、俺を呼んだ。
「え? あ、うん」
座りかけた椅子から離れて、スタッフルームへ向かおうとした俺に、森岡さんが「何かお飲み物、お持ちしましょうか?」と訊いてくれる。
「じゃあ、ジントニックにしようかな」
俺が森岡さんにお願いしていると、みっきーも「あ、俺はコーヒーね」と、奥のドアから顔を覗かせた。
「みっきー、アルコールじゃなくてもいいの?」
「うん、後で直を送ってくから。あ、森岡さん、それと、ちょっとなんかサンドイッチでも作ってくれる?」
「え? いいよ、俺は電車で帰るから」
慌ててそう言っても、どうせ自分も帰る時に車を運転するから同じ事。って言いながら、みっきーはスタッフルームへ入っていってしまう。
――みっきーが飲まないのに、俺だけっていうのも気がひけるな……。
「あー、すみません森岡さん、じゃあ、俺もコーヒーで!」
俺が振り向いて言い直せば、森岡さんは、にっこり笑って腰の辺りでOKのサインを出していた。
**
この店のスタッフルームに入ったのは、新年会の時以来だった。
一人掛け用の肘掛の付いた椅子が3脚とテーブルと、小さめのクローゼット。細長い部屋の一番奥の窓際に、二人が座れるくらいの小さめのソファーが置いてある。
「直は酒呑めばいいのに」
みっきーは、一人掛け用の椅子にドカッと座って煙草に火を点けながらそう言うと、傍に立った俺を上目遣いに見上げる。
「だって俺、未成年だし。保護者が呑まないんじゃ、ね?」
ちょっと冗談っぽく言ってみたら、みっきーは、ぶーっと、吹き出すように紫煙を吐き出して、「なにそれ、俺は保護者なわけ?」って咳き込みながら笑っている。
俺も一緒に笑いながら、隣に並べてあった椅子に腰を下ろす。
みっきーは、話したい事があるって言ってたけど、改まって何だろう? そう思うけど、みっきーはなかなか本題に入ろうとはしない。
暫く他愛のない事を話していると、森岡さんが二人分のコーヒーと、みっきーが頼んだサンドイッチを持ってきてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
コーヒーとサンドイッチをテーブルに置いて部屋から出ようとする森岡さんに、みっきーが声をかける。
「ああ、ちょっと直とゆっくり話をしたいから、ここ、誰も入らないようにしてくれる?」
誰も入らないようにって、そんなに大事な話なんだろうか……。
いったい何ごとだろうと、コーヒーカップに口を付けながら、俺はみっきーの表情を窺った。
5
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる