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第三章:身体と愛と涙味の……
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「やっぱり笑ってる直は、可愛いな」
お腹いっぱいに食べて、二人で一緒に後片付けをしていたら、突然みっきーにそう言われた。
食器を洗いながら隣を見上げれば、泡の付いた指で鼻の頭を、ツン、と、弾かれる。
「ちょ、もー、何す……」
手の甲で鼻の頭に付いた泡を拭っていると、食器とスポンジを持ったままのみっきーの顔が近付いて、唇を重ねてくる。
俺は、水道の流水で食器をすすぐ手を止めたまま顔だけみっきーに向けた状態で、口づけに応えた。
お互い手が塞がったまま、顔の角度を変えて、何度も唇を重ね直せば、息遣いに熱が籠り始める。
「水……出しっぱなし……」
俺の方から唇を離してそう言ったのは、それだけで熱くなりかけていた事を悟られたくなかったから。
なるべく自然にみっきーから目を逸らして、食器をすすぐ自分の手元をただ見つめていた……もうとっくに泡は消えているのに。
「直、まずは、ちゃんと透さんと向き合って、自分の気持ちを確かめておいで」
暖かく見守ってくれる柔らかい声が、俺の背中を優しく押してくれているように感じた。
みっきーは、俺の方を見ないで、スポンジの泡でいっぱいにした食器を見詰めている。
だから俺も、みっきーの方を見ないようにして、「…… うん」と、頷いた。
*******
「俺を送った後に、店に行くの?」
助手席から運転席に視線を向ければ、みっきーの横顔が反対車線のライトに照らされて、浮かび上がったり影になったりしている。
――端整な顔立ちが光に照らされると、ますます彫りの深さがはっきり分かるなぁ。
なんて思いながら話しかけた。
「ああ、そのつもり」
「あ、あの……ごめんなさい。なんか色々迷惑かけてしまって。家まで送ってもらっちゃって」
信号が赤になって、静かにブレーキを踏んで車が停まる。
「いいよ、これくらい当たり前」
そう言って、こちらを向いたみっきーが、俺の髪の毛をクシャクシャに撫で回しながら笑う。
「そうだ、今度また、店の方にも遊びにおいでよ」
「いいの?」
「もちろん」
信号が変わり、またゆっくりと車が夜の交差点を滑り出す。
「あ、でも、俺のいる時しか、来たらダメだよ?」
「どうして?」
「あの店さ、類は友を呼ぶって感じで、常連客って殆どゲイなの。直みたいなに可愛い子が一人でいて狙われたりしたらいけないから」
運転しながら、横目でこちらをチラッと視線をよこして、みっきーはふっと口角を上げる。
「……そんなの、大丈夫だよ」
「いや、俺が心配なの。 来たい時は連絡してよ」
「……そんなに心配しなくていいのに……。でも分かった、ありがとう」
渋滞に捕まることなく、車はスムーズに夜の街を走り抜けていく。
窓の外に流れる街灯りを眺めながら、俺は透さんのことを考えていた。
俺を心配してメールをくれていたこと。それと今日、あの交差点で……横断歩道を歩いてくる姿。
思い出すのは、穏やかな微笑みや優しい眼差し。
『直くん……』と、呼んでくれる甘く響く優しい声……。
一緒にいるとドキドキするのに、なぜかホッと心が落ち着く。なのに透さんのちょっとした言葉や行動にモヤモヤしたり……。
――まずは、ちゃんと透さんと向き合って、自分の気持ちを確かめておいで。
透さんに逢ったら、確かめることができるんだろうか。
これが本当に好きってことなのか、それともただの好奇心なのか、みっきーが言ったように勘違いなのか。
あれこれ考えているうちに俺の住んでいるマンションが見えてきて、駐車場の入り口で、みっきーが車を停めてくれた。
お腹いっぱいに食べて、二人で一緒に後片付けをしていたら、突然みっきーにそう言われた。
食器を洗いながら隣を見上げれば、泡の付いた指で鼻の頭を、ツン、と、弾かれる。
「ちょ、もー、何す……」
手の甲で鼻の頭に付いた泡を拭っていると、食器とスポンジを持ったままのみっきーの顔が近付いて、唇を重ねてくる。
俺は、水道の流水で食器をすすぐ手を止めたまま顔だけみっきーに向けた状態で、口づけに応えた。
お互い手が塞がったまま、顔の角度を変えて、何度も唇を重ね直せば、息遣いに熱が籠り始める。
「水……出しっぱなし……」
俺の方から唇を離してそう言ったのは、それだけで熱くなりかけていた事を悟られたくなかったから。
なるべく自然にみっきーから目を逸らして、食器をすすぐ自分の手元をただ見つめていた……もうとっくに泡は消えているのに。
「直、まずは、ちゃんと透さんと向き合って、自分の気持ちを確かめておいで」
暖かく見守ってくれる柔らかい声が、俺の背中を優しく押してくれているように感じた。
みっきーは、俺の方を見ないで、スポンジの泡でいっぱいにした食器を見詰めている。
だから俺も、みっきーの方を見ないようにして、「…… うん」と、頷いた。
*******
「俺を送った後に、店に行くの?」
助手席から運転席に視線を向ければ、みっきーの横顔が反対車線のライトに照らされて、浮かび上がったり影になったりしている。
――端整な顔立ちが光に照らされると、ますます彫りの深さがはっきり分かるなぁ。
なんて思いながら話しかけた。
「ああ、そのつもり」
「あ、あの……ごめんなさい。なんか色々迷惑かけてしまって。家まで送ってもらっちゃって」
信号が赤になって、静かにブレーキを踏んで車が停まる。
「いいよ、これくらい当たり前」
そう言って、こちらを向いたみっきーが、俺の髪の毛をクシャクシャに撫で回しながら笑う。
「そうだ、今度また、店の方にも遊びにおいでよ」
「いいの?」
「もちろん」
信号が変わり、またゆっくりと車が夜の交差点を滑り出す。
「あ、でも、俺のいる時しか、来たらダメだよ?」
「どうして?」
「あの店さ、類は友を呼ぶって感じで、常連客って殆どゲイなの。直みたいなに可愛い子が一人でいて狙われたりしたらいけないから」
運転しながら、横目でこちらをチラッと視線をよこして、みっきーはふっと口角を上げる。
「……そんなの、大丈夫だよ」
「いや、俺が心配なの。 来たい時は連絡してよ」
「……そんなに心配しなくていいのに……。でも分かった、ありがとう」
渋滞に捕まることなく、車はスムーズに夜の街を走り抜けていく。
窓の外に流れる街灯りを眺めながら、俺は透さんのことを考えていた。
俺を心配してメールをくれていたこと。それと今日、あの交差点で……横断歩道を歩いてくる姿。
思い出すのは、穏やかな微笑みや優しい眼差し。
『直くん……』と、呼んでくれる甘く響く優しい声……。
一緒にいるとドキドキするのに、なぜかホッと心が落ち着く。なのに透さんのちょっとした言葉や行動にモヤモヤしたり……。
――まずは、ちゃんと透さんと向き合って、自分の気持ちを確かめておいで。
透さんに逢ったら、確かめることができるんだろうか。
これが本当に好きってことなのか、それともただの好奇心なのか、みっきーが言ったように勘違いなのか。
あれこれ考えているうちに俺の住んでいるマンションが見えてきて、駐車場の入り口で、みっきーが車を停めてくれた。
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