出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第三章:身体と愛と涙味の……

(3)*

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 啄むようなキスを何度も繰り返して、唇が離れたかと思うと、悪戯っぽい眼でじっと見つめてくる。

「あー、もー、なんか かわいいー」

 何が、どうして、どこが可愛いんだか、褒め言葉にだけは聞こえないんだけど。

 呆気に取られている俺の身体をギュっと抱きしめるお兄さん。

「んー、直ってノンケだと思ってたけど、もしかして『とおるさん』って、彼氏なのかなー」

 ――彼氏……。

 言葉に詰まってしまう。

 脳裏を過ぎるのは、彼女と腕を組んで歩く透さんの姿。

 愛の言葉を交わしたわけでもなく、何の約束をしたわけでもなく、身体だけの関係だと言われてしまえば、その通りだし。

 だけど、気が付けば透さんの事を考えてしまっている自分は……。

 それだって、初めて男に抱かれて、それが案外気持ち良くて、ただ快楽に流されていただけなのかもしれなくて、自分の気持ちにも自信がない。

 ――それに透さんは……。

 他の人と結婚しても、それでも好きな彼女がいて……。

 だから……透さんと俺の関係は、恋人ではないんだと思う。

 それは確かだと思った。

「か、彼氏じゃ、ないです」

 と、自分で言った言葉に、なんでか自分で傷ついてしまう。

 相手は男なのに。

 好きな人がいる事も知っていたのに。

 何故だろう……物凄く、心が痛い。


「ふーん、そっか。ま、俺はどちらでもいいけど……だけど……」

 言いながら、また啄ばむようにリップ音を立ててキスをして、俺の目を見つめる。

「そんな悲しそうな顔をしていたら、彼氏がいたとしても関係なく慰めてあげたくなっちゃうし」

「へ?」

 いや、俺そんな、悲しそうな顔してるのかな。

「直は、その人のこと好きなの?」

 ――好き、なのかな。でも……。

「……わ、からない……」

 小さく首を横に振って、小さい声で答えたのは、自分の気持ちに自信がないから……。

「そっか、まぁ、俺はどうやら直のことを気に入っちゃったみたいだし……、それに、ここ……」

「ここ」と言いながら、お兄さんは、さっきイったばかりの俺の半身を指でなぞった。

「……っ!」

「勇樹のやつ、どんだけ薬飲ませたのかな。直の、まだまだ元気なんだけど」

 確かに硬度を保ったままのそこは、お兄さんに軽く触れられただけで、ぴくりと脈打った。

「彼氏じゃないなら、義理立てする必要もないし、ね?」

 俺の顔を引き寄せて、耳元に囁く。

「俺は、直のこと好きだし」

 耳の中を舐められて、ぶるっと、肌が粟立った。

「だから、もっと気持ちいい事しよっか」

 耳たぶを甘噛みしながら甘い声で囁かれて、まだ熱の冷めない身体は期待に疼いてしまうけど……。

 頭のどこかで、これ以上はダメだと思っているのに。

「ね?」

 首を傾げて、可愛く訊かれても、どうしたらいいんだか、訳が分からないと思っているのに。

 顎を掬い上げられて、唇を割り挿ってくる舌に、自然に応えてしまっていた。

 咥内で熱い舌を絡めて、お互いの唾液が混ざり合い、口端から零れて喉を伝い落ちる。

 激しく唇を貪りながら、お兄さんは俺の服を脱がせていった。

 長い長いキスが終わる頃には、ニットもシャツも剥ぎ取られて、弱すぎる抵抗をする手首は、簡単にシーツに縫いとめられて、心の隅に残っていた少しの理性も、いつの間にか消えてしまっていた。

「ここからは、ただ薬を抜く為だけの行為じゃないよ」

 言ってる意味が分からなくて見上げると、お兄さんは、真剣な眼差しで俺を見つめ返してくる。

「直の心も身体も全て欲しい」

 言いながら、何度も触れるだけのキスをして、

「好きだよ、直」

 と、何度も繰り返し、愛の言葉を俺の耳元に囁いた。

 ――好きだよ……。

 セックスの時に言うその言葉は、ただのテンプレ。そう思っていたはずなのに。

 その声が心地良くて、俺はその甘い言葉にすっかり酔わされてしまっていた。

 
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