出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第二章:迷う心とタバコ味の……

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 外に出ると、暖房の効いた暖かい店内との温度差に身震いするけど、頬を撫でていく冷たい夜風が心地良い。

 店から数十メートル先に見える大通りには、もう終電間近だというのに、まだ沢山の人が行き交っているのが見えた。

 外の冷たい空気の中に居ても、下半身の昂ぶりは一向に治まらず、硬いジーンズの生地を押し上げている。

 ハーフ丈のコートで何とかギリギリにそれを隠す事はできるけど。

 どうにも前が窮屈で、前屈みの姿勢で俯いたまま支えられて歩く。

 きっと傍目から見たら、俺はこの人に介抱してもらっている酔っ払いに見えているに違いない。

 でも、そう思われている方がいい。そう考えると、気持ちも少しだけ楽になった。

「なあ、名前なんて言うの?」

 だけど未だに、歩きながら耳の近くで話されただけで、全身が粟立ってしまう。いったいいつまでこんな状態が続くんだろう。

「……高岡、です」

「じゃなくて、下の名前、教えてよ」

「……あ、直といいます」

 コートの下でドクドクと脈打って、また反応してしまったことを悟られたくなくて、顔を上げることもできない。

 早くこの体内に渦巻く熱を、どうにかしたくて堪らない。

「じゃあ、直? 家遠いかな。まだ終電はあるみたいだけど、電車で帰るのは無理だよね……。車で送れたら良かったんだけど、今日に限って乗ってきてないんだ」

 電車? 電車は無理……もう明るい所でこの状態を誰かに見られるなんて、とんでもなかった。

 俺は、俯いたまま、首を横に振る。

 だけど、どうすれば良いんだろう。お兄さんにもこれ以上、迷惑をかけるわけにもいかないのに。でも朦朧としてくる頭では、何も良い案が浮かびそうにもなくて……。

 本音を言えば、そこの薄暗い路地に走っていって、出してしまいたいくらいに、切羽詰っていた。

「あの……、俺、……その……」

 そんな状態なのを今日会ったばかりの人に、なんて伝えればいいのか分からなくて言葉を探して口籠ってしまう。

「ん? どうした?」

 桜川先輩のお兄さんは、立ち止まって俺の顔を覗き込む。

「……あ……トイレ……、そうだ俺、トイレに行きたいんです」

 咄嗟に出た言葉だったけど、自分で良い言い訳を見つけた! と思っていた。

 トイレにさえいけば、この熱を吐き出して、きっと身体も楽になると……。

「あーー、トイレね。タクシーで送ろうかと思ってたけど、そうだね、もう我慢できないよね」

 先輩のお兄さんが、そう言ってくれたから、良かったって安心したんだ。

 だから、この近くの……どこかトイレのある所に連れて行ってくれるものだと思っていた……。


 ***
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