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第二章:迷う心とタバコ味の……
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――もう、どうにでもなれ……。
その時……、カチャリと店の入り口のドアの鍵を開ける音がした。
続いてドアの開く音。
「おーい、まだ居たのか?」
誰かが、店内に入ってきた。
入り口の方へ、ぼんやりと涙で霞んだ目で視線を巡らせる。
店内の灯りは低く落とされていて、入り口付近に立っている人はシルエットでしか捉える事ができない。
長身の男の人の影が見える……透さんと同じくらいの身長。
――透さん?
「……ちっ!」
背後で桜川先輩が舌打ちする音が聞こえて、俺の頭を押さえつけていた先輩の手の力が緩んだ。
「おい、お前ら、何してるわけ?」
ツカツカとこちらへ歩いてくる男の声は、当たり前だけど透さんの声じゃない。
俺、何を期待してるんだろう。こんな所に透さんが来る筈ないし、もし来たとして、こんなところを透さんにだけは見られたくないのに……。
「勇樹、答えろ」
「別に、……ちょっと遊んでただけだよ」
桜川先輩が、不機嫌そうな声で答えた。
桜川先輩が答えている間に、その男の人はカメラを撮っていた先輩の前に立ち、その手から素早くカメラを取り上げた。
「ふぅん」
保存されているであろう、俺の恥ずかしい画像を眺めている。
「なあ、アンタ」
その人は、桜川先輩に腰を引き上げられた姿勢のままの俺に近付いて来て、声をかける。
俺は恥ずかしい姿勢のまま、間近に立っている男を視線だけで見上げた。だけど逆光で影がかかっていて、顔はよく見えない。
「これって、合意の上の行為?」
そう訊かれて、俺は頭を押さえている先輩の手の下で、ふるふると首を横に振った。
――助けてください……。
うまく声を出すことができなくて、心の中で懇願する。
瞬きをすると、溜まっていた涙が一筋零れ落ちて、シートにしみを作った。
「そうか、分かった。じゃあ、これは処分するな」
そう言いながら、その人は手にしていたデジカメを操作している。
ピピッ……
手の中のデジカメから、電子音が聞こえてきた。同時に桜川先輩が、深い溜め息を吐いて俺から離れ、もう一人の先輩も手を放した。
「他には無いだろうな?」
その人は、デジカメを先輩の手に返しながら、他に写真などが残ってないか確認している。3人の先輩は、この人には逆らえないみたいだった。
――いったいこの人は、誰なんだろ……。
ぼんやりとした頭で考えていると、その人は床に散らばっていた俺の服を拾い集めて持ってきてくれた。
「大丈夫か?」
服を渡しながらその人は、心配そうな声で、そう訊いてくれる。
「……ありがとうございます……」
俺は服を受け取って、やっとそれだけ言えたけれど、情けないのと身体が辛いのとで、まともに顔を上げる事もできなかった。
その時……、カチャリと店の入り口のドアの鍵を開ける音がした。
続いてドアの開く音。
「おーい、まだ居たのか?」
誰かが、店内に入ってきた。
入り口の方へ、ぼんやりと涙で霞んだ目で視線を巡らせる。
店内の灯りは低く落とされていて、入り口付近に立っている人はシルエットでしか捉える事ができない。
長身の男の人の影が見える……透さんと同じくらいの身長。
――透さん?
「……ちっ!」
背後で桜川先輩が舌打ちする音が聞こえて、俺の頭を押さえつけていた先輩の手の力が緩んだ。
「おい、お前ら、何してるわけ?」
ツカツカとこちらへ歩いてくる男の声は、当たり前だけど透さんの声じゃない。
俺、何を期待してるんだろう。こんな所に透さんが来る筈ないし、もし来たとして、こんなところを透さんにだけは見られたくないのに……。
「勇樹、答えろ」
「別に、……ちょっと遊んでただけだよ」
桜川先輩が、不機嫌そうな声で答えた。
桜川先輩が答えている間に、その男の人はカメラを撮っていた先輩の前に立ち、その手から素早くカメラを取り上げた。
「ふぅん」
保存されているであろう、俺の恥ずかしい画像を眺めている。
「なあ、アンタ」
その人は、桜川先輩に腰を引き上げられた姿勢のままの俺に近付いて来て、声をかける。
俺は恥ずかしい姿勢のまま、間近に立っている男を視線だけで見上げた。だけど逆光で影がかかっていて、顔はよく見えない。
「これって、合意の上の行為?」
そう訊かれて、俺は頭を押さえている先輩の手の下で、ふるふると首を横に振った。
――助けてください……。
うまく声を出すことができなくて、心の中で懇願する。
瞬きをすると、溜まっていた涙が一筋零れ落ちて、シートにしみを作った。
「そうか、分かった。じゃあ、これは処分するな」
そう言いながら、その人は手にしていたデジカメを操作している。
ピピッ……
手の中のデジカメから、電子音が聞こえてきた。同時に桜川先輩が、深い溜め息を吐いて俺から離れ、もう一人の先輩も手を放した。
「他には無いだろうな?」
その人は、デジカメを先輩の手に返しながら、他に写真などが残ってないか確認している。3人の先輩は、この人には逆らえないみたいだった。
――いったいこの人は、誰なんだろ……。
ぼんやりとした頭で考えていると、その人は床に散らばっていた俺の服を拾い集めて持ってきてくれた。
「大丈夫か?」
服を渡しながらその人は、心配そうな声で、そう訊いてくれる。
「……ありがとうございます……」
俺は服を受け取って、やっとそれだけ言えたけれど、情けないのと身体が辛いのとで、まともに顔を上げる事もできなかった。
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