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第二章:迷う心とタバコ味の……
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俺は暫く呆然と座り込んだまま、この間透さんに逢った時の事を思い出していた。
夜景の綺麗な公園に行って、キスをして、それから……。
車の中でした事を思い出すと、下腹が切なく疼く。
「…………っ!」
そして、透さんの口でイッた瞬間のあの感覚が蘇ると、じわじわと半身が熱を持ち、段々硬くなりはじめて、俺は慌てて立ち上がった。
――嘘だろ……。
でも、さっき全然反応が無かった時と、確かに違う熱と硬度に焦ってしまう。
他の事を考えて熱をやり過ごし、何とか治まったけど、かなりトイレに長居をしてしまった。
――新年会、もう終わってるんだろうか……。
そっとスタッフルームのドアを開けて店内を覗くと、ドアから見える範囲内には人の姿が見えない。
――やばっ、誰もいない?
でも数人の男の声が聞こえてきて、まだ誰かが残っている事に安心すると同時に、片付けもせずにサボっていた事に後ろめたさと焦りみたいなものを感じる。
――しかも、ゆり先輩とイケナイ事してたし!
恐る恐る、声のする方へ足を進めると、カウンターの中に桜川先輩がいた。
そのカウンター席に、桜川先輩と同級生の男二人が座っていて、3人で呑んで談笑していた。
「おっ、やっと出てきたな」
洗った食器を拭いていた桜川先輩が、俺に気付いて声を掛けてくれた。
「トイレに直くんがいるからって、ゆりに訊いていたんだけど、なかなか出て来ないから心配して見に行こうかと思っていたんだ。気分でも悪かったか?」
「あ、いえ……、はい。少し酔ったみたいで。でももう大丈夫です」
これは、気分が悪かった事にしておいた方が良さそうな雰囲気……。俺は、そのまま話を合わせさせてもらうことにした。
「そうか、それは良かった。まぁ、そこ座れよ」
「はい」
言われた通りに、カウンター席に座っている二人の先輩の隣に座った。
「あ、あの、他の人達はもう帰ったんですか?」
「あぁ、二次会のカラオケに行ったけど、お前も行く?」
洗ったグラスを綺麗に拭いて片付けながら話す桜川先輩。その流れるような動作は無駄が無くて、まるで本当のバーテンダーのようだ。
「いえ、俺は行かない予定だったんで……。あの、何か手伝う事ありますか? 片付けの時手伝えなかったんで」
「ああ、もうこれで終わりだから気にしなくていいよ。それより気分悪くないなら、何か呑む?」
少し長めの前髪を掻き上げて、眼鏡の奥で切れ長の目を細め、微笑みながら訊いてくれた。
なんか桜川先輩って優等生風なのに、ミステリアスな感じもして、カッコいい。
「え、でも、いいんですか?」
片付けも終わったのに、厚かましく呑んでいいものか、ちょっと戸惑う。
「もちろんいいよ。俺たちも二次会は行かないから3人でここでもう少し呑んで帰ろうって、話していたところだよ」
桜川先輩がそう言うと、他の二人の先輩も「呑め、呑め」と勧めてくれるので、断るのも悪い気がして、じゃ、少しだけと言って、頂く事にした。
「何呑む? あ、俺に任せてくれる? 酒強いんだろ? あぁ、でもさっき気分悪くなったのか」
「あ、もう大丈夫ですから、お任せします」
ちょっと怖そうとか思っていたのに、案外気さくに話し掛けてくれる先輩に、「気分悪くなったなんて嘘です、本当にすみません」 と、俺は心の中で何度も謝っていた。
夜景の綺麗な公園に行って、キスをして、それから……。
車の中でした事を思い出すと、下腹が切なく疼く。
「…………っ!」
そして、透さんの口でイッた瞬間のあの感覚が蘇ると、じわじわと半身が熱を持ち、段々硬くなりはじめて、俺は慌てて立ち上がった。
――嘘だろ……。
でも、さっき全然反応が無かった時と、確かに違う熱と硬度に焦ってしまう。
他の事を考えて熱をやり過ごし、何とか治まったけど、かなりトイレに長居をしてしまった。
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――しかも、ゆり先輩とイケナイ事してたし!
恐る恐る、声のする方へ足を進めると、カウンターの中に桜川先輩がいた。
そのカウンター席に、桜川先輩と同級生の男二人が座っていて、3人で呑んで談笑していた。
「おっ、やっと出てきたな」
洗った食器を拭いていた桜川先輩が、俺に気付いて声を掛けてくれた。
「トイレに直くんがいるからって、ゆりに訊いていたんだけど、なかなか出て来ないから心配して見に行こうかと思っていたんだ。気分でも悪かったか?」
「あ、いえ……、はい。少し酔ったみたいで。でももう大丈夫です」
これは、気分が悪かった事にしておいた方が良さそうな雰囲気……。俺は、そのまま話を合わせさせてもらうことにした。
「そうか、それは良かった。まぁ、そこ座れよ」
「はい」
言われた通りに、カウンター席に座っている二人の先輩の隣に座った。
「あ、あの、他の人達はもう帰ったんですか?」
「あぁ、二次会のカラオケに行ったけど、お前も行く?」
洗ったグラスを綺麗に拭いて片付けながら話す桜川先輩。その流れるような動作は無駄が無くて、まるで本当のバーテンダーのようだ。
「いえ、俺は行かない予定だったんで……。あの、何か手伝う事ありますか? 片付けの時手伝えなかったんで」
「ああ、もうこれで終わりだから気にしなくていいよ。それより気分悪くないなら、何か呑む?」
少し長めの前髪を掻き上げて、眼鏡の奥で切れ長の目を細め、微笑みながら訊いてくれた。
なんか桜川先輩って優等生風なのに、ミステリアスな感じもして、カッコいい。
「え、でも、いいんですか?」
片付けも終わったのに、厚かましく呑んでいいものか、ちょっと戸惑う。
「もちろんいいよ。俺たちも二次会は行かないから3人でここでもう少し呑んで帰ろうって、話していたところだよ」
桜川先輩がそう言うと、他の二人の先輩も「呑め、呑め」と勧めてくれるので、断るのも悪い気がして、じゃ、少しだけと言って、頂く事にした。
「何呑む? あ、俺に任せてくれる? 酒強いんだろ? あぁ、でもさっき気分悪くなったのか」
「あ、もう大丈夫ですから、お任せします」
ちょっと怖そうとか思っていたのに、案外気さくに話し掛けてくれる先輩に、「気分悪くなったなんて嘘です、本当にすみません」 と、俺は心の中で何度も謝っていた。
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