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第二章:迷う心とタバコ味の……
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「直くん、どうしたの?」
不意に隣に座っている人に声をかけられて、我に返った。
時間通りに新年会の会場であるバーに到着した俺は、一人でカウンターの隅に座って呑んでいた。
店内はサークルのメンバーが、大体30名くらい入っていて大盛り上がりしていて、店の中央にテーブルを組ませて、料理とビール瓶やジュースが並んでいる。
殆ど立食なスタイルで、あちこちでグループに分かれて、気ままな飲み会と言う感じ。
カウンターの中では、ここの店の経営者の弟である、サークル会長の桜川さんと、あと二人の先輩がビール以外の飲み物を作ってくれている。
今夜の新年会は、どうやら店のスタッフは居なくて、全くの貸し切りにしてもらっているらしい。
「さっきから、溜め息ばっかりついてるね」
いつの間にか隣の席に座っていた、ゆり先輩は、さり気なくお互いの腕が触れるくらいに密着している。
「いえ、なんでも……」
顔を覗き込むように見つめてくる、ゆり先輩から逃げるように、俺は手元のグラスに視線を落とした。
「そぉ? 何か元気ないし、いつもの直くんらしくないよ」
「え? そうかな。でも、元気っすよ」
本当は、静かな所で少し一人で考えたいって気持ちもあるけど、やっぱ隅っこで一人で落ち込んでるわけにもいかないなと、笑顔を作った。
「ホント? なら良いけど」
どうやら、上手くごまかせたみたい。
「あれから会えなかったから、今日来てくれてよかった」
そう言いながら、ゆり先輩は更に密着して腕を絡ませてくる。
ベージュのワンピースの、カシュクールの大きく開いた胸元から、柔らかそうな谷間がちらついている。
「なんか、暑いね? ここ」
そう言うと、ワンピースの上に羽織っていた、黒いボレロを脱ぎだした。
柔らかくて薄い生地のワンピースの胸が、俺の腕に密着してる。
――これは、明らかに誘っている。
そう思うけど、今夜はとてもそんな気には、なれそうにも無い気がするんだけど……。
「ねえ? この後、二次会行かずに、二人でどっかいこ?」
大きな瞳に長い睫で、上目遣いに見つめてくるゆり先輩は、確かに可愛くて……。
裾の方だけ緩くカールさせた髪が、胸元で揺れている。
――可愛いっ、めっちゃ可愛いし、いい匂いするし、これ見よがしの誘いも許せるような気がしてきた。
「うん、分かった」
そう言って、にこっと微笑みかけると、ゆり先輩の顔が真っ赤になった。
遊んでる風に見えていた、ゆり先輩も、こんな風に赤くなって俯いてたりすると、いつもより可愛く見えたりして。
それに……、
透さんだって、彼女と……、
だから俺だって……。
別に透さんは、恋人ってわけじゃないし。
久しぶりに女の子抱いたって、可笑しくないし。
誰に対してでもなく、多分……自分自身にそう言い訳していた。
不意に隣に座っている人に声をかけられて、我に返った。
時間通りに新年会の会場であるバーに到着した俺は、一人でカウンターの隅に座って呑んでいた。
店内はサークルのメンバーが、大体30名くらい入っていて大盛り上がりしていて、店の中央にテーブルを組ませて、料理とビール瓶やジュースが並んでいる。
殆ど立食なスタイルで、あちこちでグループに分かれて、気ままな飲み会と言う感じ。
カウンターの中では、ここの店の経営者の弟である、サークル会長の桜川さんと、あと二人の先輩がビール以外の飲み物を作ってくれている。
今夜の新年会は、どうやら店のスタッフは居なくて、全くの貸し切りにしてもらっているらしい。
「さっきから、溜め息ばっかりついてるね」
いつの間にか隣の席に座っていた、ゆり先輩は、さり気なくお互いの腕が触れるくらいに密着している。
「いえ、なんでも……」
顔を覗き込むように見つめてくる、ゆり先輩から逃げるように、俺は手元のグラスに視線を落とした。
「そぉ? 何か元気ないし、いつもの直くんらしくないよ」
「え? そうかな。でも、元気っすよ」
本当は、静かな所で少し一人で考えたいって気持ちもあるけど、やっぱ隅っこで一人で落ち込んでるわけにもいかないなと、笑顔を作った。
「ホント? なら良いけど」
どうやら、上手くごまかせたみたい。
「あれから会えなかったから、今日来てくれてよかった」
そう言いながら、ゆり先輩は更に密着して腕を絡ませてくる。
ベージュのワンピースの、カシュクールの大きく開いた胸元から、柔らかそうな谷間がちらついている。
「なんか、暑いね? ここ」
そう言うと、ワンピースの上に羽織っていた、黒いボレロを脱ぎだした。
柔らかくて薄い生地のワンピースの胸が、俺の腕に密着してる。
――これは、明らかに誘っている。
そう思うけど、今夜はとてもそんな気には、なれそうにも無い気がするんだけど……。
「ねえ? この後、二次会行かずに、二人でどっかいこ?」
大きな瞳に長い睫で、上目遣いに見つめてくるゆり先輩は、確かに可愛くて……。
裾の方だけ緩くカールさせた髪が、胸元で揺れている。
――可愛いっ、めっちゃ可愛いし、いい匂いするし、これ見よがしの誘いも許せるような気がしてきた。
「うん、分かった」
そう言って、にこっと微笑みかけると、ゆり先輩の顔が真っ赤になった。
遊んでる風に見えていた、ゆり先輩も、こんな風に赤くなって俯いてたりすると、いつもより可愛く見えたりして。
それに……、
透さんだって、彼女と……、
だから俺だって……。
別に透さんは、恋人ってわけじゃないし。
久しぶりに女の子抱いたって、可笑しくないし。
誰に対してでもなく、多分……自分自身にそう言い訳していた。
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