出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第二章:迷う心とタバコ味の……

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 ホッとしたのも束の間、運転席に乗り込んだ透さんの視線が痛い。

「ごめんね。折角、直くんが可愛い格好してくれてるのに、あんまり時間が無いんだよ」

 電話でもあまり時間が取れないみたいなこと言ってたな。でも、正月もまだ2日目なのに。

「なんか忙しそうですね? 仕事で?」

「いや、うん、仕事の事もあるけど、家で色々とあってね。だから実家とマンションを行ったり来たりで、あまりお正月な感じじゃないんだよ」

 と、話す透さんの横顔は、そう言えば疲れているように見えなくもなかった。

「そうなんだ。忙しいのに俺、こんな所まで迎えに来させてしまって……」

 透さんの疲れた顔を見ていたら、少しでも時間が空いたんなら、こんな遠くまで俺を迎えに来るよりも、身体を休ませた方が良かったんじゃないかと心配になった。

「そんな事気にしなくて良いよ。俺が直くんに逢いたくて電話したんだから」

 優しく甘い声でそう言われると、なんだかくすぐったい気持ちになってしまう。

「とりあえず直くんのマンション方面に向かうね」

 エンジンをかけながら、透さんはそう言って視線をこちらに向ける。

「はい」

 斜め45度の角度で目が合って、柔らかく微笑む透さんに、なんだかドキドキしながら返事をした。

 透さんは運転しながら、俺が何故こんな格好をしているのかという、悲劇の理由を笑いながら聞いてくれた。

「ひどい話でしょ?」

「あはは、面白いね、直くんの家族は」

 本当に楽しそうに笑ってくれてるから、いいんだけど……。

「でも、こんな格好のままマジで外に出されるとは思わなくて、本当は透さんとの待ち合わせ時間までに、トイレで着替えようと思ってたら、もう既に透さんがロータリーにいたから、びっくりした」

「それは、早めに着いてて良かったな」

 運転しながら、透さんの左手が伸びてきて、胸の辺りで揺れているウィッグに指を絡めた。

「早く着いてなかったら、こんなに可愛い直くんを見るチャンスを逃すとこだった」

「……可愛いだなんて……」

 俺はこんな格好、見られたくなかったのに。

「似合ってるよ、すごく。知らない人が見たら、きっと男だとは気が付かないだろうね」

 ウィッグから手が離れていって、ハンドルを両手で握り直す透さんの横顔は、なんだか嬉しそうに微笑んでいた。

 *

 正月だからか、道は思ったよりも空いていて、スムーズに流れていた。

 この分だと予定よりも早く俺のマンションに着きそうだなー、なんて考えていると、

「直くん、お腹空いてる?」と、透さんが訊いてきた。

 今日は、起きてからお節とかをちょこちょこつまんだり、お雑煮や、あと焼き餅とかも食べていて、あまりお腹は空いていないけど。

「俺、あんまりお腹は空いてないんだけど……、透さんは?」

「俺も、まだあまり空いてないんだよね」

 正月って、家にいると、いつも何か食べてるよね、なんて会話をしていると、

「そうだ、ちょっとだけ寄り道してもいい?」と、透さんは、何か閃いたようにそう言って、ちらりとこちらに視線を寄こす。

「寄り道? うん、いいよ。透さんは時間大丈夫なの?」

 時間があまり無いって言ってたから、少しだけ気になった。俺としては、このまま自分の部屋に帰るより、もう少し一緒に居たかったけど。

「うん、まだ大丈夫。じゃ、ちょっとだけ寄り道しようか」

 そう言うと、右のウインカーを出して、車線を変更して右折ラインに入って行く。

「どこ行くの?」

 寄り道って聞いて、少しわくわくする。

「んー、気に入ってもらえるか分からないけど、まだ内緒」

 そう言いながら、俺の方をチラっと見て微笑む顔がまた色っぽい。本人は無自覚なのかもしれないけど。

 俺は透さんが時折見せる色っぽい顔に、いちいちドキドキしてしまう。

 
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