出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第二章:迷う心とタバコ味の……

(22)

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「啓太、逃げないから退けよ。携帯が鳴ってるし」

 啓太が俺の身体から離れて、やっと自由になった。

 ハァーっと溜息を吐きながら携帯の画面を見ると、透さんからの電話。

 こんな状況で家族の前で電話に出るのは嫌だったけど、周りを取り囲む面々の、絶対この部屋からは出さないぞ、と言う空気に威圧されて、仕方なく受話ボタンを押した。

「もしもし」

 本当はすごくテンパってるけど、なるべく冷静を装った。

『あ、直くん? 今大丈夫かな』

 大丈夫じゃないけどーー!

「はい、大丈夫です。どうしたの?」

『うん、今日ね、悪いんだけど、少し遅れそうで、待ち合わせの時間、5時でもいいかな』

 今日の4時に駅のロータリーで待ち合わせしていたけど、1時間位遅れそうと言う事だった。

「いいですよ。じゃあ、5時にロータリーで」

 短く用件だけ済ませて、電話を切った。 ふ……、不自然じゃなかったよね? 俺。

「だぁれ? 彼女から?」

 化粧品の準備をしているテルさんが、目をきらきらさせて訊いてきた。

 せっかく冷静を保っていたのに、そのひとことで、あっさりと崩れてしまう。

「え? 違うよっ! と……友達ッ」

 動揺を隠しきれない俺を、啓太が怪訝そうにじろじろ見てる。やばい……。

「ふーん、友達って? 俺の知ってるやつ?」

 と、痛いところを突いてくる。啓太とは、大学も同じだから、共通の友人が多い。これ以上突っ込まれると言い逃れる自信がないかも。

「え? あ、啓太は知らないやつなんだ」

「ふう~ん」

 納得いかなそうな声音だけど、啓太はそれ以上は訊いてこなくて、俺はホッと胸を撫で下ろした。

「じゃ、そろそろメイクターイムっといきましょうか!」

 その時、化粧品一式を炬燵の上に並べ終えたテルさんが嬉しそうにそう言って、俺の地獄タイムが始まったのだった。


 **


「うわーー、めっちゃ似合うよ、直くん!」

 似合うわけないっしょ?テルさん……。

「おおっ! 俺、惚れそうー!」

 啓太、お前、本気でキモイ。

「やっぱり、直は女物似合うよね、顔が女顔だもん」

 嬉しくないよっ! 姉ちゃん!

「直、女だったのか。父さん、知らなかったよ」

 それ、違うから……親父……。

 テルさんにされた、ばっちりメイク。

 そして胸の辺りまでの長さで、下の方だけゆるいソバージュの金髪に近い色のウィッグに、黒いリボンカチューシャ。

 黒いワンピースは、スクエアネックで、胸元はウエストから編み上げのコルセットタイプ。

 スカート部分はティアードで、裾に大きめのスリットが入っていて、歩く度に太もも辺りまで見えそう。

 そして、白と黒のボーダーのニーハイ。

「この服、どうしたの? 買ったの?」

 わざわざこの日の為に、買ったとしたら、アホ過ぎるだろ?

「服は、昨年のお正月の福袋に入ってたのよ」

 ああ、啓太を下僕にして、こき使った時ね。

「いくらなんでも、私の歳じゃ着れないしねー」

 テルさん、いいから、着てください。

 
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