出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第二章:迷う心とタバコ味の……

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 なんだか……暖かくて、気持ちいい……。

 朝なのかな…。でも、もう少し寝ていたい…。

 ゆっくりと重い瞼を薄く開けてみたら、目の前に……チャコールグレーのTシャツを着ている誰かの胸が見えた。

 目線を上へと辿ると……透さんの寝顔。

 ――あ……、そうか。昨夜、透さんと……。

 俺の体をしっかりと抱きしめて眠ってる透さん。その胸に、顔を埋めて寝てたのか、俺……。

 ――まるで、女の子みたいじゃん!

 でも、あったかくて、気持ちいい原因は、これだったんだ。

 もう一度目線を上に向け、起こさないように、そっと、透さんの寝顔を見た。

 閉じた瞼を縁取る真っ黒な睫は、濡れたように艶があって、いつもよりも長く感じる。

 程よい厚さの唇は、ゆるやかにカーブしていて、その両端に僅かな窪みがある。

 ――眠っているのに、微笑んでるみたいだな。

 そう思いながら、唇の形を指でそっとなぞった。

 ――ホントに、色が白いなぁ。

 肌の色は透き通るように白くて、細面な輪郭に黒くて艶のある髪が映える。

 ――こうして見ると、透さんは、かっこいいと言うより美人だな……。

「あんまり、見つめないでくれる?」

 目を閉じているのに、クスッと笑みを零して、俺をギュッと抱きしめてくる腕。

「透さん、起きてるの?」

「熱い視線を感じちゃってね」

 そう言って、透さんは俺の額に額をくっつけながら、目を開けて微笑んだ。

 寝起きだからか、漆黒の瞳が濡れたように艶めいている。

「おはよう」と、軽く唇にリップ音を立ててキスをくれる。

「おはよう」と、返して目を合わせるけど、俺はなんだか恥ずかしくて、すぐに俯いてしまう。

 透さんはクスッと笑って、俺の頭を優しく撫でてくれる。

 ――なんだか、甘い恋人同士の朝みたいだ。……なんて、思ってしまう。

 あの最中に微かに聞こえた、甘い言葉も、あれは透さんの本心かもしれないなんて、馬鹿な期待をしてしまう。

 ――『好きだよ……』

 そんなことは、ありえない。

 だって、透さんが好きな人は……もう分かってるのに。

 あの最中の『好き』なんて言葉は、テンプレみたいなものだってことも、俺は知ってる。

 お互いが気持ちよくなるように、セックスを盛り上げる為の、ただの台詞でしょう?

 そんなの分かってる……。

 だから、一晩中俺を抱きしめて、寄り添って眠ってくれたことだって、朝になってもこうして優しくしてくれるのだって、期待しちゃいけないんだって分かってるし。

 俺だって、子供じゃないんだから、この暗黙のルールに乗るのは当たり前で……。

 恋人でもなくて、ゆきずりの他人でもない。 この、とても曖昧な関係を何て呼ぶんだろう。

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