出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第二章:迷う心とタバコ味の……

(9)

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 透さんの家に向う車の中、会話の間に少しでも沈黙があると、微妙に気まずい。 だから、何か話題をと、くだらない話を無理やり出して、喋り続けていた。

 信号が赤に変わって、車がゆっくりと停車する。

 前を向いたまま喋り続ける俺の手に、透さんの手が伸びてきて、ふわりと重ねられた。

 予想していなかったから驚いて、思わず身体がぴくっと小さく跳ねた。

「今夜、泊まるよね?」

 透さんが身体を少し助手席に傾けてきて、俺の耳の近くでそう囁く。

 鼓膜に直接響くような透さんの甘い声に、断る言葉なんて見つかる筈もなくて、

「はい」と、頷いてしまう。

 すると、透さんの指が、俺の手の甲を擽るように動いて、やがて指の間に絡めるように滑り込んでくる。

 5本の指が、まるで愛撫するかのように動くから、なんだかゾクゾクしちゃって、それだけで腰の奥が熱く疼いた。

 そんな状態になってるなんて、絶対知られたくなくて、俺は内心めちゃくちゃ焦ってた。

 だけど、信号が青に変わると、透さんの手はあっさり離れてハンドルを握り、車が静かに動き出した。

 なんか……俺、一人でワタワタしてて、カッコ悪くて……――顔が熱い。


 マンションの駐車場に車を停めてエレベーターに乗り、透さんが階数ボタンと開閉ボタンを押す。

 透さんの隣で、その様子をぼんやり見ていると、ドアがまだ閉まりきらないうちに、いきなり腕が伸びてきて引き寄せられた。

「ちょっ……」

 身体がよろけて、透さんの肩に顔を埋める形で、すっぽりとその腕の中に包まれた。

 人差し指と親指で顎を掬い上げられ、唇を塞がれた途端、透さんの舌が侵入してきて、あっと言う間に躊躇している俺の舌を絡め取る。

「……ん――っ……ふ……ッ」

 ――エレベーターの中なのに……誰かが乗ってきたらどうするの……。

 あ、そうか。止まったら離れたらいいんだけど……つか、これ、エレベーターって、防犯用のカメラとか、どっかにあるんじゃないの?

 こんな所で駄目だってばって、言おうとする前に、あっさりと唇を解放された。

「あ……あのっ……」

 唇は離れたけど、まだ透さんの腕に抱きしめられていて、抗議しようとする俺を、透さんは悪戯っぽい目で見つめて笑う。

「可愛いな……、顔が真っ赤だよ」

「だ、だって、カメラとかに写ってたら、どうするのー」

「気にしない、気にしない、キスしてるだけだもん」

 ――えええ……? 『だもん』ってー! ……しかも、突然エレベーターでキスとかーー!

 めっちゃ狼狽えてる俺とは反対に、透さんは、何でもなかったようにクールな表情で口角だけ上げて微笑んでいた。

 エレベーターを12階で降りて、部屋に向かう通路を歩いている間も、肩を抱き寄せられていて、こんな所で近所の人に見られたらどうするんだって、ドキドキしてるのに。

 そして、それとは別に、胸が高鳴ってしまっているのは……透さんのせいだと思う。

 透さんが車の中からフェロモンだだ漏れで、手に触れてきたり、突然キスしてきたり、肩を抱いてきたり……。

 この後、透さんの家の中で二人きりになったら……って、想像してしまっているからで……。

 ――想像して……そして期待してる。

 俺は、すでに下半身に熱が集中してきているのを、はっきりと自覚していた。

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