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第二章:迷う心とタバコ味の……
(7)*
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―― ばかっ! 俺のばかっ!
すげえ罪悪感……。だけど意思とは裏腹に、俺は下着の中へ手を伸ばした。
恐る恐る半身に指を絡めたら、もう自制は効かなかった。
『……直……』
優しく俺の名前を呼ぶ声なんて、容易く脳内再生できてしまう。
しなやかな身体で抱きしめられて、その腕や胸板の感触を思い出して……。
「……んっ……」
首筋を撫でて、胸の突起に辿り着いた熱い舌が、何度も円を描くように舐めて、吸い上げる。
「……あっ……」
甘噛みされて、堪えきれなくて声をあげてしまう。
中に挿ってくる長い指に、あの初めての場所を探り当てられて、嬌声をあげた。
そして、透さんの熱くて硬い先端が、そこを何度も……、何度も……。
「あぁっ……透さんっ……!」
想像の中の透さんの動きに合わせて、俺は半身を扱く手を速めていく。
脳裏に浮かぶ自分は、透さんの下で揺さぶられて、乱れて、もっとと、強請る。
「ーーあ……っ、イくっ」
『イっていいよ、直』
耳元で囁かれた声が、腰の奥へとダイレクトに響いて、目の前がスパークした。
「あ……っ、ん……ん……」
急いで取ったテイッシュの中へ、思い切り欲を吐き出して、がくりと頭を垂れた。
射精後の脱力感の中で、後悔と空しさが込み上げる。
「……マジかよ、俺……」
――透さんをオカズにするなんて……、ありえないっ…。
こんな事して、もしまた、どこかで偶然でも会えたりしたら……きっともう、まともに顔も見れない。
……でも……、
それでもやっぱり、俺……。
――透さんに……、もう一度逢いたい……なんて、思ってる。
*****
もやもやした気持ちのまま、今年最後のバイトの日がやってきた。
透さんの家で、夜を過ごしてから、初めての金曜日。
――透さんは、来るかな……いや、来るわけないよな……。
そんなことを考えるなんて、俺は、何を期待してるんだろう。
電話番号を登録しなかったから、もしも透さんとまた会えるとしたら、このカフェしかないけど、もしかしたら、もうここにも来ないような気がするし。
そう考えると、胸の辺りがツンっと痛い。
でも、それで良い。このまま会えなくなる方がいいんだ。
このまま会わなければ、あの夜の事も、いつか忘れる事が出来る。……無かった事に出来る。そう思い込もうとしていた。
――なのに……、透さんは、来た。
いつものように、スーツを着て。
店に入ってきた時も、席に着いてからも、真っ直ぐに俺を見ている。
――ああ、もう……、なんでそんなに優しい目で見るんだよ。
いつものように、透さんのテーブルに注文を訊きに行く。
「……いらっしゃいませ」
「……こんばんは、直くん」
「……こんばんは、あの……、こないだは……えと……」
何か言わないと……と、思うのに、言葉が続かない。
「直くん、今日はバイト何時まで?」
言葉を詰まらせた俺に、優しく微笑みながら、透さんはそう言った。
「えと、7時までですけど……」
「じゃあ、待ってるから、一緒に食事に行かない?」
「え……?」
「……駄目かな?」
艶々した漆黒の瞳が、見上げてくる。
――ああ、もう! 何その、上目遣いは! 大人で色っぽいのに、可愛いとか反則だよ!
「……いえ……」
「じゃ、直くんがバイト終わる頃に、外で待ってるね。あと、コーヒーお願いします」
俺の返事を最後まで待たずに、透さんは言葉を被せるようにそう言って、にっこりと笑う。
結構、強引だ。
でも……透さんが、俺に逢いに来てくれた……。
それは、やっぱり戸惑う気持ちもあるけれど、嬉しくて……。バイトの残りの時間、ずっと顔の筋肉は緩んでいたみたい。
『何か、良い事でもあった?ニヤニヤして』
と、フロアマネージャーに、言われてしまうくらいだったから。
すげえ罪悪感……。だけど意思とは裏腹に、俺は下着の中へ手を伸ばした。
恐る恐る半身に指を絡めたら、もう自制は効かなかった。
『……直……』
優しく俺の名前を呼ぶ声なんて、容易く脳内再生できてしまう。
しなやかな身体で抱きしめられて、その腕や胸板の感触を思い出して……。
「……んっ……」
首筋を撫でて、胸の突起に辿り着いた熱い舌が、何度も円を描くように舐めて、吸い上げる。
「……あっ……」
甘噛みされて、堪えきれなくて声をあげてしまう。
中に挿ってくる長い指に、あの初めての場所を探り当てられて、嬌声をあげた。
そして、透さんの熱くて硬い先端が、そこを何度も……、何度も……。
「あぁっ……透さんっ……!」
想像の中の透さんの動きに合わせて、俺は半身を扱く手を速めていく。
脳裏に浮かぶ自分は、透さんの下で揺さぶられて、乱れて、もっとと、強請る。
「ーーあ……っ、イくっ」
『イっていいよ、直』
耳元で囁かれた声が、腰の奥へとダイレクトに響いて、目の前がスパークした。
「あ……っ、ん……ん……」
急いで取ったテイッシュの中へ、思い切り欲を吐き出して、がくりと頭を垂れた。
射精後の脱力感の中で、後悔と空しさが込み上げる。
「……マジかよ、俺……」
――透さんをオカズにするなんて……、ありえないっ…。
こんな事して、もしまた、どこかで偶然でも会えたりしたら……きっともう、まともに顔も見れない。
……でも……、
それでもやっぱり、俺……。
――透さんに……、もう一度逢いたい……なんて、思ってる。
*****
もやもやした気持ちのまま、今年最後のバイトの日がやってきた。
透さんの家で、夜を過ごしてから、初めての金曜日。
――透さんは、来るかな……いや、来るわけないよな……。
そんなことを考えるなんて、俺は、何を期待してるんだろう。
電話番号を登録しなかったから、もしも透さんとまた会えるとしたら、このカフェしかないけど、もしかしたら、もうここにも来ないような気がするし。
そう考えると、胸の辺りがツンっと痛い。
でも、それで良い。このまま会えなくなる方がいいんだ。
このまま会わなければ、あの夜の事も、いつか忘れる事が出来る。……無かった事に出来る。そう思い込もうとしていた。
――なのに……、透さんは、来た。
いつものように、スーツを着て。
店に入ってきた時も、席に着いてからも、真っ直ぐに俺を見ている。
――ああ、もう……、なんでそんなに優しい目で見るんだよ。
いつものように、透さんのテーブルに注文を訊きに行く。
「……いらっしゃいませ」
「……こんばんは、直くん」
「……こんばんは、あの……、こないだは……えと……」
何か言わないと……と、思うのに、言葉が続かない。
「直くん、今日はバイト何時まで?」
言葉を詰まらせた俺に、優しく微笑みながら、透さんはそう言った。
「えと、7時までですけど……」
「じゃあ、待ってるから、一緒に食事に行かない?」
「え……?」
「……駄目かな?」
艶々した漆黒の瞳が、見上げてくる。
――ああ、もう! 何その、上目遣いは! 大人で色っぽいのに、可愛いとか反則だよ!
「……いえ……」
「じゃ、直くんがバイト終わる頃に、外で待ってるね。あと、コーヒーお願いします」
俺の返事を最後まで待たずに、透さんは言葉を被せるようにそう言って、にっこりと笑う。
結構、強引だ。
でも……透さんが、俺に逢いに来てくれた……。
それは、やっぱり戸惑う気持ちもあるけれど、嬉しくて……。バイトの残りの時間、ずっと顔の筋肉は緩んでいたみたい。
『何か、良い事でもあった?ニヤニヤして』
と、フロアマネージャーに、言われてしまうくらいだったから。
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