出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第一章:聖夜と生クリーム味の……

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「じゃ、行こうか?」

 透さんは、俺の背中をポンっと軽く叩いて、公園の入り口近くに駐車してあった車に乗るように促した。

 初めて話した人の家に、本当に行っちゃってもいいのかな……と、一瞬頭を過って躊躇したけれど。

「遠慮しなくていいよ」

 微笑みながら優しい声音で言われてしまうと、そんな迷いもどこかに消え去ってしまっていた。


 **


 透さんの住むマンションまで、車で20分程度で着いた。

 エレベーターを12階で降りて、通路の一番東の角部屋が透さんの家。

「どうぞ」

「お邪魔します」

 あまり物を置いていない、シンプルで清潔な感じの玄関で靴を脱ぎ、廊下の突き当たりのドアを開けると広いリビングダイニング。

 全体的に茶系でまとめられた、落ち着きのある大人の感じな色使いの部屋。

 男の一人暮らしにしては、綺麗に片付いていた。 掃除や片付けが苦手な俺と大違いだ。

 興味津々で部屋の中を見回していると、サイドボードの上に写真立てがあるのを発見……。

 ――あ……。

 それは、あの彼女と腕を組んでる写真だった。

 ――まだ忘れるには、時間がかかるって事なのかな。

「そう言えば、直くん夕飯は食べたの?」

 写真に気を取られていると、透さんがキッチンから声をかけてきた。

 ――あ……、そういや食べてなかった。

 食べていなかった事を思い出すと、急に空腹で腹の虫が鳴り出しそうな気がして、無意識に両手で腹を押さえた。

 そんな俺を見て、透さんはにこにこと笑っている。

「……そういえば、食べてなかったです」

「じゃあお腹空いたでしょ? 俺は軽く食べてたんだけど。ケーキ食べる前に何か食べる? 簡単なものしか出来ないけど」

 ――ええ? 透さんの手料理?! 俺のために?

「え、いいんですか?」

 そんな、いきなりご馳走になるなんて、俺、図々しいんじゃないかって、心配してしまうんだけど。

「大丈夫だよ、俺もちょっと食べたいし……ね?」

 透さんも食べたいなんて、俺が遠慮しないように気遣ってくれてるんだって分かってるんだけど、優しい声でそう言われてしまうと、つい甘えてしまう。

「じゃぁ、遠慮なくいただきます」

「出来上がるまで、テレビでも見てたらいいよ」

 そう言われたけど、何か手伝った方が……と、カウンターの前で透さんが手際よく料理する姿を眺めていた。

 慣れた手付きでパスタを鍋に入れる。野菜を切る包丁さばきもプロみたいで、その姿がまたカッコよくて見惚れてしまっていた。

「そんなに見つめたら、緊張するよ」

「すっ、すみません! 透さんがあまりにも手際よく料理してるから、見惚れちゃって」

 俺も、時々厨房を手伝ったりするけど、まだ慣れなくてウロウロしちゃって、『邪魔っ』とか言われちゃうんだよね。

「でも味は保障しないよ」

 少し頬を赤くして照れたように笑う顔が、いつものカッコ良さとはまた違い、年上なのに可愛くて、つい自分の顔が緩んでるのに気が付いて、俺まで顔が熱くなった。 

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