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第一章:聖夜と生クリーム味の……
(9)
しおりを挟む「透さんこそ……」
今日はデートとかの予定は?……と訊きそうになって、はっと気付いて口を閉じた。
「ん? 何か言いかけた?」
俺の態度に気が付いたのか、透さんは少し不思議そうな顔をしている。
――うわ……やばい……。
訊いたら悪いような気がしていたのに。
頭では分かっているんだけど、やっぱりずっと気になっていた事を思わず言いそうになってしまった。
「いえ、なんでもないです」
慌ててそう言ってみたけど、透さんがじっと俺を見つめて、「気になるから言って?」って言うもんだから……。
「……えと……そういえば……あの……いつも一緒に店にくる女の人、最近見かけないなぁ……と、思って」
――うわーっ! 訊いてしまった! 俺の馬鹿! もし別れてたとかだったら、どーすんだよ……。
でも、言ってしまった事は、無かった事には出来ない。
「……気になる? 彼女の事」
少し寂しそうな顔でそう聞き返されて、余計に言った事を後悔して焦る。
「いえ、そんなわけじゃ……」
どうしようもなくて、俺はそれだけ言って俯いてしまった。
俯いてしまった俺の顔を、透さんは少し屈んで覗き込み、クスッと小さく笑う。
そしてまた背筋を伸ばして、夜空を見上げた。
「あの子ね……こないだ結婚して、相手の人の仕事の関係でアメリカに行ったんだよ」
「え……?」
俺は驚いて顔を上げた。
だって、こないだまで、仲良さそうにデートしてたのに……。こないだ結婚したって事は、もっと前から結婚相手とも付き合ってたって事じゃないのか? て事は……、透さんとだぶってる時期が、きっとあるんじゃないのか?
そんな事を考えていて、俺は口を開けたまま、固まってしまっていた。
「あはは、そんなに驚いた?」
「……はい。……えと、その……こないだまで一緒にいるとこを見てたから……びっくりしちゃって」
「あぁ……そうだよね」
彼女が結婚して逢えなくなったのに、彼はわりと平然としていて……。
「寂しくないですか?」
なんて、俺はつまんない事を訊いてしまっていた。
「まぁ……寂しいといえば寂しいけどね。あの子が幸せになるなら、それが一番だと思ってるよ」
――凄いな、透さんて。やっぱり大人だな……。
別れても、相手の事をそういう風に心から幸せを願う言葉って、あまり日も経ってないのに、なかなか言えないよな……と思う。
そうか、じゃあ今日はお互い寂しいクリスマスイブなんだな……なんて、俺は勝手に考えたりしていて。
暫く沈黙が続いてる事に気が付いて、ふと、透さんを見上げると、困ったような、哀しそうな表情をしているように見えた。
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