7 / 351
第一章:聖夜と生クリーム味の……
(6)
しおりを挟む
******
「直、クリスマスイブの日ってバイト入れる?」
オーナーシェフの相田さんが申し訳なさそうな顔をして、訊いてきた。
「イブの日? 大丈夫ですよ」
特に予定は無い。悲しいけど、無い。
「ごめんね、どうしても休みたいって子がいて回らなくなったんだ。8時くらいまででいいから、入ってくれる?」
「いいですよ、俺予定ないですから何時まででも!」
「本当にいいの? イブだよ? デートの予定とかないの?」
「そんな予定、ないですよ」
「……本当に?」
それでもまだ、疑うような眼差しを向けてくる相田さんに、思わず苦笑してしまう。
「大丈夫ですよ、ちゃんと入りますから」
こうして今年のクリスマスイブは、バイトで終わる事になった。
**
―― そしてクリスマスイブ当日。
店の周りはオフィスが多い為、普段なら日曜は定休日で、祝日も休業にする事が多い。だけど、今年のイブは振り替え休日と言う事もあり、最初は休日にするつもりだったのが、団体の予約が入った為、ついでに開ける事にしたらしい。
団体客は2時間程度だったんだけど、案外それ以外のお客様も多くて、結構忙しかったりして、あっと言う間に午後8時になった。
「直、お疲れ。今日はありがとな。あがっていいよ」
「はい! じゃ、お先にあがりますー。お疲れっした」
いつもより忙しかったこともあって、今日はやっぱり疲れてる。やっと帰れると思うと、嬉しくてちょっと声のトーンが上がった。
クリスマスイブなんて、特定の彼女なんていない俺には全然関係ない。早く帰ってゲームでもしたいなんて思う。
あ、その前にどこかで飯食って帰ろうか、なんて考えながらスタッフルームに入ろうとドアノブに手をかけたところで、
「あ、そうだ! ちょっと待って」と、相田さんに呼び止められた。
相田さんは、赤と緑にゴールドのストライプのリボンをかけたケーキを入れる箱を差し出して、ニコニコしてる。
「これ、今日急にバイト頼んだお礼」
「え?」
「小さいけど、一応クリスマスケーキな」
「ええっ? いいんですか?!」
ここのケーキ、本当に美味しいから嬉しいんだけど、閉店までまだ時間あるのにバイトに入っただけで貰っちゃっていいのかな。
「あぁ、ちょっと余りそうだしね、もったいないから。今からデートとかじゃないの? 彼女と食べなよ」
「いえ……、デートの予定なんてないって言ったじゃないですか」
「またまた……、バイト頼まれて断れなかったんでしょ? 気を遣わなくてもいいよ。直なら絶対周りの女の子が放っておかないって分かるし」
もう絶対この後、俺が彼女とデートするって信じて疑わない相田さん。
「いやいや……、本当に俺、彼女いないんですけど……」
なんか逆に気を遣わせてしまったようで申し訳ない気持ちが込み上げてきた。
「本当に? じゃ、直は一人暮らしだし、ホールケーキじゃ却って迷惑だよね」
「でもでも、これ貰ってもいいですか? これから友達んちに行こうかなと思って。そいつも彼女いなくて寂しいイブかもだから、このケーキ持って押しかけてみます」
ふと、最近彼女に振られたってしょげていた、腐れ縁の幼馴染の顔が浮かんできて、様子でも見に行ってやるかと考えてそう応えた。
「そう言うのも楽しそうでいいかもね」
そう言って、相田さんはにっこりと笑ってくれる。
「じゃ、遠慮なくいただきます。ありがとうございます!」
俺がケーキを受け取ると、「楽しいイブを! お疲れさま!」と、相田さんは、俺にウィンクして仕事に戻って行った。
オーナーシェフの相田さんを始め、ここのスタッフは皆優しい。そりゃ怒られる事も多いけど、アットホームで暖かいんだ。
「直、クリスマスイブの日ってバイト入れる?」
オーナーシェフの相田さんが申し訳なさそうな顔をして、訊いてきた。
「イブの日? 大丈夫ですよ」
特に予定は無い。悲しいけど、無い。
「ごめんね、どうしても休みたいって子がいて回らなくなったんだ。8時くらいまででいいから、入ってくれる?」
「いいですよ、俺予定ないですから何時まででも!」
「本当にいいの? イブだよ? デートの予定とかないの?」
「そんな予定、ないですよ」
「……本当に?」
それでもまだ、疑うような眼差しを向けてくる相田さんに、思わず苦笑してしまう。
「大丈夫ですよ、ちゃんと入りますから」
こうして今年のクリスマスイブは、バイトで終わる事になった。
**
―― そしてクリスマスイブ当日。
店の周りはオフィスが多い為、普段なら日曜は定休日で、祝日も休業にする事が多い。だけど、今年のイブは振り替え休日と言う事もあり、最初は休日にするつもりだったのが、団体の予約が入った為、ついでに開ける事にしたらしい。
団体客は2時間程度だったんだけど、案外それ以外のお客様も多くて、結構忙しかったりして、あっと言う間に午後8時になった。
「直、お疲れ。今日はありがとな。あがっていいよ」
「はい! じゃ、お先にあがりますー。お疲れっした」
いつもより忙しかったこともあって、今日はやっぱり疲れてる。やっと帰れると思うと、嬉しくてちょっと声のトーンが上がった。
クリスマスイブなんて、特定の彼女なんていない俺には全然関係ない。早く帰ってゲームでもしたいなんて思う。
あ、その前にどこかで飯食って帰ろうか、なんて考えながらスタッフルームに入ろうとドアノブに手をかけたところで、
「あ、そうだ! ちょっと待って」と、相田さんに呼び止められた。
相田さんは、赤と緑にゴールドのストライプのリボンをかけたケーキを入れる箱を差し出して、ニコニコしてる。
「これ、今日急にバイト頼んだお礼」
「え?」
「小さいけど、一応クリスマスケーキな」
「ええっ? いいんですか?!」
ここのケーキ、本当に美味しいから嬉しいんだけど、閉店までまだ時間あるのにバイトに入っただけで貰っちゃっていいのかな。
「あぁ、ちょっと余りそうだしね、もったいないから。今からデートとかじゃないの? 彼女と食べなよ」
「いえ……、デートの予定なんてないって言ったじゃないですか」
「またまた……、バイト頼まれて断れなかったんでしょ? 気を遣わなくてもいいよ。直なら絶対周りの女の子が放っておかないって分かるし」
もう絶対この後、俺が彼女とデートするって信じて疑わない相田さん。
「いやいや……、本当に俺、彼女いないんですけど……」
なんか逆に気を遣わせてしまったようで申し訳ない気持ちが込み上げてきた。
「本当に? じゃ、直は一人暮らしだし、ホールケーキじゃ却って迷惑だよね」
「でもでも、これ貰ってもいいですか? これから友達んちに行こうかなと思って。そいつも彼女いなくて寂しいイブかもだから、このケーキ持って押しかけてみます」
ふと、最近彼女に振られたってしょげていた、腐れ縁の幼馴染の顔が浮かんできて、様子でも見に行ってやるかと考えてそう応えた。
「そう言うのも楽しそうでいいかもね」
そう言って、相田さんはにっこりと笑ってくれる。
「じゃ、遠慮なくいただきます。ありがとうございます!」
俺がケーキを受け取ると、「楽しいイブを! お疲れさま!」と、相田さんは、俺にウィンクして仕事に戻って行った。
オーナーシェフの相田さんを始め、ここのスタッフは皆優しい。そりゃ怒られる事も多いけど、アットホームで暖かいんだ。
5
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる