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第一章:聖夜と生クリーム味の……
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「直くんて……、顔に似合わず凄いよね……」
息を整えながら先輩は、少し潤ませた目で俺を見上げる。
「それ、誉め言葉なの?」
と、苦笑して聞き返しても、先輩は質問には答えずに、俺の髪にそっと手を伸ばした。
「柔らかい髪ね。綺麗な栗色……これ染めてるの?」
俺のゆるいくせ毛を遊ぶように指を絡ませて、上目遣いで小首を傾げて訊いてくる先輩は、本当可愛いなと思う。
「染めてないよ。これ、元々こういう色なんだ」
応えながら、俺は教室の時計に視線を向けた。
「ふぅん……」
先輩だって本当は、さして興味もなかったのだろう。適当に返事をすると、時計を気にする俺の頬を両手で包んで、自分の方へ向かせて甘えた声で囁いた。
「ね……、もっかいしよ?」
「だ~め」
まるで子供をあやす様に、俺は先輩の頭を軽く撫でてから立ち上がり、乱れた服を整える。
「どうして?」
少しだけ膨れっ面……。だけど、可愛く小首を傾げ、甘えた声は忘れずに、訴えるような瞳を向けてくる。
――困ったな。誘われると弱いんだってば。だけど、無理なものは無理なわけで……。
「今からバイトなんだ」 と、いかにも残念そうな顔で言ってみる。
「そっか~。残念。また今度遊んでね?」
そう応える先輩だって、そんなに残念そうにはとても見えない。そう……、だってこれは遊びだから。
「うん、またね」
と、テンプレ的に応える。 また今度……ってあるのかな……と内心思いながら。
ドアの前で一旦立ち止まり、顔だけ先輩の方を振り返り「じゃねー」と軽く手を振ると、先輩も同じように「ばいばい」と手を振っていた。
外に出ると、もう辺りは薄暗い。 昼間はまだそこそこ暖かいのに、太陽が沈むこの時間は気温も下がり、冷たい風が吹いている。
「寒っ……」
教室内と外の温度差が大きくて、冷たい風が首筋に当たり一瞬ぞくっと身震いしてしまう。
着ているダウンジャケットのファスナーを上まで上げて、ポケットから出した携帯で時間を確認する。
「やばっ、急がなくちゃ」
さっき先輩の誘いを断る為に言ったことは、嘘じゃなくて本当に時間が無い。 バイトがなかったら、きっとあのまま先輩と続きをしてただろうな。
今日が金曜日じゃなかったらなぁ……なんて考えながら、俺は急いでバイト先のカフェレストランに向かった。
**
息を整えながら先輩は、少し潤ませた目で俺を見上げる。
「それ、誉め言葉なの?」
と、苦笑して聞き返しても、先輩は質問には答えずに、俺の髪にそっと手を伸ばした。
「柔らかい髪ね。綺麗な栗色……これ染めてるの?」
俺のゆるいくせ毛を遊ぶように指を絡ませて、上目遣いで小首を傾げて訊いてくる先輩は、本当可愛いなと思う。
「染めてないよ。これ、元々こういう色なんだ」
応えながら、俺は教室の時計に視線を向けた。
「ふぅん……」
先輩だって本当は、さして興味もなかったのだろう。適当に返事をすると、時計を気にする俺の頬を両手で包んで、自分の方へ向かせて甘えた声で囁いた。
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「だ~め」
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「どうして?」
少しだけ膨れっ面……。だけど、可愛く小首を傾げ、甘えた声は忘れずに、訴えるような瞳を向けてくる。
――困ったな。誘われると弱いんだってば。だけど、無理なものは無理なわけで……。
「今からバイトなんだ」 と、いかにも残念そうな顔で言ってみる。
「そっか~。残念。また今度遊んでね?」
そう応える先輩だって、そんなに残念そうにはとても見えない。そう……、だってこれは遊びだから。
「うん、またね」
と、テンプレ的に応える。 また今度……ってあるのかな……と内心思いながら。
ドアの前で一旦立ち止まり、顔だけ先輩の方を振り返り「じゃねー」と軽く手を振ると、先輩も同じように「ばいばい」と手を振っていた。
外に出ると、もう辺りは薄暗い。 昼間はまだそこそこ暖かいのに、太陽が沈むこの時間は気温も下がり、冷たい風が吹いている。
「寒っ……」
教室内と外の温度差が大きくて、冷たい風が首筋に当たり一瞬ぞくっと身震いしてしまう。
着ているダウンジャケットのファスナーを上まで上げて、ポケットから出した携帯で時間を確認する。
「やばっ、急がなくちゃ」
さっき先輩の誘いを断る為に言ったことは、嘘じゃなくて本当に時間が無い。 バイトがなかったら、きっとあのまま先輩と続きをしてただろうな。
今日が金曜日じゃなかったらなぁ……なんて考えながら、俺は急いでバイト先のカフェレストランに向かった。
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