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新しい年
60.ひ・み・つ
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逃げるように王の間を飛び出した真紘は、追いかけてくる重盛から身を隠す方法を知らなかった。嗅覚や聴覚に優れた彼と距離を置くには言葉で解決するしかない。だが、肝心の言葉が上手く出てこないのだ。
別の誰かに告白されて付き合っていたわけでもない。重盛が誠実で気遣いのできる良い男なのは真紘とて身をもって知っている。
一心に愛されていてどうしてこんなにも薄暗い気持ちになるのか、自分の感情なのに全く理解できない。情けない顔を見られたくなくて真紘は前を向いたまま叫んだ。
「ちょっと買い物があるからこの後は別行動で!」
「待ってよ、買い物なら俺もっ」
「秘密の買い物」
「あ、えっと……」
「お願い。先に帰ってて」
なんて姑息な言い方。半人前の嫉妬心から相手にいらぬ罪悪感を抱かせる言動をするなんてあまりにも幼稚である。頭では理解しているのに口と体が真逆の選択をする。
縦に長いスリッド窓の枠に足をかけて無理矢理体をねじ込むと、真紘の体はスポンと宙に投げ出された。体格差があるので自分がギリギリ通り抜けることができた細い窓から重盛は出ることができない。それも計算済みのことであった。
落ちたら確実に命を落とすような高さから飛び出して行くとは思わず、重盛は「はあ⁉」と素っ頓狂な声を上げた。
バサバサと布がはためく音と共に、真紘は重盛がかけてくれた上着を飛ばされないように抱きしめながら、重力に逆らって浮上した。
王城よりも高い建物は王都に存在しない。
天辺までくると、地上より強い風が真紘の愚行を責めるようにびゅうびゅうと襲い掛かった。
遠目では分からなかった避雷針のようなものが天辺に備え付けてある。真紘はそれに掴まりながら王都の街を見下ろした。
遠くに見える空は澄んでいる。カラフルな屋根は枯れない花畑のようだ。
ほう、と白い息が風に攫われていく。
嗚呼、冬だな――。
一年の中でも秋はとりわけ短いものだ。自分が吐いた白い靄を目で追いながらそんなことを思った。
「どうしよう、重盛困ってた」
寒さでどうにかなってしまったのか、あの場で自分がすべき行動はこうだった、と真紘は茶番劇を繰り広げ始めた。
『僕、そんなの聞いてないよ』
『ごめん……。付き合ってもいない時に告白されたって報告してもさ。真紘ちゃんに告白してきた人の中でいい人いなかったの? なんて聞かれたら枕を濡らすことになってたし、流石の俺でも結構へこむ』
『あの頃だったら確かに無神経な発言をしていたかもしれない。でも今は違うよ……。誰にでも優しいのは君の良いところだけど、これからはあんまり心配かけないで』
『なんで?』
『分かってるんでしょ……』
『言ってほしい。言って、真紘ちゃん』
『……嫉妬しちゃうから!』
『そこで僕だけに優しくしてって言わないとこ好き』
『君の優しさを僕だけに注がれたら、僕がダメ人間になるって……』
『うわー何それ最高なんだけどっ!』
そして二人は抱きしめ合い、より一層愛が深まるのであった。
「いやいや、そこまで楽観的なのもどうなの」と一人ぼっちの茶番劇は自身のツッコミによって幕を閉じた。
恋愛経験の浅さがこうも裏目にでるとは――。重盛だって交際経験がないと言っていたのにこの差は何なのだ。このまま帰宅するのも気まずい。
頭を振りながら風下を向くと視界一面真っ白になった。視界を遮る無数の白い線はまるで白雨だ。こんな状態を以前、重盛は花嫁のヴェールみたいだと言ってのけた。真紘は彼の美的感覚が麻痺しているのではと些か心配になった。
「あーもう! どうしよう。めちゃくちゃ感じ悪かった。可愛くない嫉妬の仕方した。本当に最悪……」
「最高なんだけど?」
「そんなわけ……は?」
聞こえるはずのない声が背後からした。驚いて振り返ると、金色の瞳と目が合った。
いくらなんでも追いかけてくるにしても早すぎるのだ。
驚きと羞恥で真紘はわなわなと肩を震わせた。
「どうやって……」
「窓はちっさ過ぎて通れなかったから、真紘ちゃんが出て行った後に窓ぶっ壊した。窓枠ごと引っこ抜いた感じ。王城なのに意外と脆いな」
「う、うそぉ……」
「マジ。後で直してくれる?」
「それはいいけど――って、うわあっ」
抱き寄せられた真紘は大人しく重盛の腕の中に納まった。
いつもこうやって諫められるのだ。悔しさと同じくらい喜んでしまう単純さが憎い。
「ハニー、家出は済んだ?」
「家出じゃない……。仮に家出だと思ったならこんな早く迎えに来ない方が良かったんじゃないの」
「ふーん。さっきまで脳内の俺とイチャコラしてたのに、そーゆーこと言うんだぁ」
「聞いてたの⁉ お願い、忘れて、今すぐ忘れて!」
ジタバタと暴れる真紘の膝裏に腕を回すと、重盛はそのまま真紘を抱えた。
「記憶を消すなんて無理だよって言ってたのはお前じゃん」
「そうだけど……。恥ずかしすぎる……。お願いだからせめて降ろして」
「ははんっ、照れてる顔見せたくないんだろ。嫌だ、超見るよ~ん」
意地の悪い言葉の応酬に真紘はふいっと顔を背けた。
「だいじょーぶ。可愛くないのも可愛い。いや、俺が可愛いって言い過ぎたのかな。可愛くなきゃいけないってことはないんだけど、何したって可愛く見えるし、感じるんだから仕方なくね⁉ 俺、何回可愛いって言った? 可愛いがゲシュタルト崩壊しそう、わはは」
「可愛くない以前に、小さなことで嫉妬して格好悪いよ。君は悪くないのに八つ当たりして、自分の狭量さが情けない。いつまでもうじうじして、こんな面倒なやつだと思ってなかった……」
「俺は嬉しいよ。それに王様や宰相と未来について話し合う姿はカッコ良かった。ずっと真紘ちゃん超カッケーと思いながら聞いてたよ。俺も色々内緒にしててごめんね」
いつもより低い声が心からの気持ちであることを教えてくれる。
ちらりと顔を盗み見ると、穏やかに微笑む重盛と目が合った。なんだか悩んでいるのが馬鹿らしく思えて、真紘はぼっと顔を赤くして彼の腕の中で暴れた。
「ぎぃ~悔しい! 対応が大人すぎる、格好良い、ずるいよ!」
「よせやい照れる。そう見えてんなら良かった。これでもカッコつけたくて背伸びしてんの。実際壁ぶっ壊して慌てて追いかけて来たわけだし?」
確かにと笑うと、同じく重盛もケタケタと揺れた。
「こちらこそごめんね、酷い態度取って」
「んや、可愛いもんだよ」
重盛の首に両手を回すと風の強い塔の上であることを忘れそうなくらい温かな温もりに包まれた。髪の毛よりも柔らかい耳のタフトがふわふわと真紘の頬を擽る。
どれくらいそうしていたのだろうか。鼻先が冷たいと感じた瞬間、真紘は重盛の上着を借りていたことを思い出した。
重盛の頬に両手を添えると、そこは自分の鼻先とは比べ物にならないほど冷たくなっていた。平熱が高くて寒さに強いにしても、これではまた風邪をひいてしまう。気持ちが先走り、ふわりと体を浮かすと重盛はうおっと声を上げた。
「帰ろう、今すぐ帰ろう! お風呂に入ろう!」
「んえ? 一緒に風呂って夫婦の仲直りの仕方じゃん。俺達にはまだ早いって! いや、真紘ちゃんがどうしてもって言うなら俺、俺ッ――」
「ち、違うよ! 一緒になんて言ってない。とにかく大事になる前に壊した窓を直して早く帰ろう」
ぶつぶつと妄想の続きを語る重盛に抱き着きながらゆっくりと降下していく。途中で不自然にぽっかり空いた穴を元の状態に戻すと、頭上からピューと手本のような口笛が聞こえた。
こうやって短い喧嘩をするのもいいねなんて重盛は言うけれど、できればずっと大切に優しくしたいと真紘は思う。
仲直りできた安心感から、ふあ、と気の抜けた欠伸が一つ零れた。
「今日は早く寝よ。てか、まだ毛布ないから夜も寒いかも、ぎゅっとして寝よーな」
「毛布買ったらぎゅっとしてくれないの……? じゃあずっと買わない」
「それそれ、その絶妙な甘え方が最高っ!」
夕日で染まる王都は、屋根の色を全て黄金に変え、キラキラと揺らめく水面のようだ。
手を繋いで帰路に着く親子。肩を組んでこれから飲みにでもいくであろう若者。身を寄せ合い太陽が沈むのを待つ恋人。そんな様子を見守る冒険者や騎士。命の営みの積み重ねが、今この瞬間も未来へと繋がっていく。
自分達の行動がこのありふれた平和に貢献できていると思うとなんだか誇らしく、真紘は頬を綻ばせた。
静かになった重盛がどんな表情で景色を楽しんでいるのか気になり視線を向けると、ピタリと目が合う。この男は素晴らしい景色よりもこちらを見つめている方が楽しいのだ。
心配になる必要なんてこれっぽちもないのだと改めて思い知る。
「重盛」
「なぁに」
「だーいすき!」
そう告げると、魔法がなくても飛べそうなくらい重盛の尻尾が大きく揺れた。
翌日、野木と遊ぶ約束をしていた重盛は午前中に出かけていった。
王城から戻った後すぐに野木と麻耶にも王都に帰ってきた旨の連絡をした。
たまには空の魔石を直接持っていくと自ら野木に提案したにも関わらず、同じく明日は予定がないのでランチに行こうという麻耶の申し出に真紘が了承すると、重盛は自分も行くと駄々をこねた。
真紘にとって麻耶は仕事の相談ができる頼もしい親戚の姉のような存在であったが、重盛が二人きりの食事を嫌がるのも今なら分かる。特に重盛は真紘が年上好きだと誤解している節もあるからだ。
最終的には麻耶が時間を変更してくれたので、夕食も兼ねて野木も含めた四人で集まることになった。年明けに乗車予定のクルーズトレインについても説明してくれるらしい。
店は麻耶に任せているので、王都の中心部にある噴水広場に集合ということしか分かっていない。
王城からの帰り道で立ち寄った店で、冬服に合わせて羽織れるように、カジュアルなキルティングコートと、セミフォーマルなロングコートを一着ずつ、二人で合計四着を購入した。
麻耶は何も言っていなかったが、ドレスコードがある店の可能性も考えて、ロングコートを着ていくように勧めると重盛は「奥さんに洋服を選んでもらってるみたいでアガる」と言ってニマニマと笑った。真紘は奥さんというか子供に折り畳み傘を持たせる母親のようだと思ったが、こういう時は肯定しておいた方が吉。
「そうだね。紺色のコート、やっぱり大人っぽくていいね。カッコいいよ」と返すと、やっぱり離れたくないとしがみついて来たので、玄関のドアを開けてぽいっとつまみ出した。
重盛を送り出した後、真紘もすぐに出かける準備を始めた。先ほど追い出した最愛の人に初めての誕生日プレゼントを贈るためだ。
ふわふわとした白のニットに淡いブルーのスラックス。最後におろしたてのグレージュのロングコートを羽織った。
我ながらくすんだ色や明度の高い色がよく似合うと姿見に映る姿を見て思うが、今日はさらに一工夫が必要だ。
黙想するようにじっと想像すること二十秒。鏡の中には地球にいた頃の真紘が映っていた。
艶やかな黒髪はナチュラルなセンターパート。久しぶりにすっきりとした首元はニットと同じくらい白い。
狐の姿に変化できる重盛と違って、真紘が想像できるのはこの姿が限界だ。重盛と離れている時間の方が少ないため、練習するのも一苦労だった。
「うん、こんな感じだったよね。喜んでもらえるといいな……」
プレゼントはわ・た・し、なんて古典的なことをするつもりはないが、形が残らない思い出もプレゼントしたいと考えた。
そこで普段から重盛とよく連絡を取り合っている野木に連絡をしたところ、新しい魔法をお披露目するのはどうかというアドバイスを授けてくれた。
真紘が部屋の中で小さな花火を打ち上げてくれたのが嬉しかったのだと、耳がタコになるほど聞かされているので、新しい魔法を披露すれば喜んでもらえるはずだと野木は自信満々に言い放った。その言葉に背中を押され今に至る。
本番前にどれくらい魔法を保てるのか試したかったので、今日はこの姿で出かけてみることにした。
期待に胸を膨らませながら、ついでにこっそりと購入したコートと同じグレージュのニット帽をかぶり、丸い伊達メガネもかける。これで知り合いとすれ違っても一目で真紘だと気付く者はいないだろう。
家族以外に贈り物をするのは久しぶりだ。
素敵な物に出会えますように、と願いを込めながら、真紘は焦げ茶色のローファーを履いて自宅を出発した。
耳と髪に特徴がなくなったおかげで、王都の街を一人で歩いてもいつもより不快な視線を感じることはなかった。人が行き交う中で生まれて初めてと言っても過言ではないほどの解放感に包まれた。安定して変身できるようになれば、種族や身分を隠したい時にも便利そうである。
散歩がてら通ったことのない道を探索したにも関わらず、予定していた時間よりも早くタキシードを誂えた店の前に辿りついた。
ドアをそろりと開けると、年配の店主が出迎えてくれた。採寸や仕立てをしてくれたのもこの人だ。
清潔感のある白髪は額が出るように後ろに撫でつけられていて、口の上にはちょこんと上品な髭が乗っている。背筋が伸びていて、年齢ではなく人間としての厚みを感じさせる佇まいだ。
真紘が帽子を取り名前を告げると、店主は目尻に皺を作り微笑んだ。
ブラウンを基調にしたアンティークな部屋に展示されているスーツやハットはどこを見ても申し分がないバランスで展示されていた。
唯一変わっていたのは、展示されているスーツが新しい物になっていたことだけだった。
案内された個室に入ると、視界いっぱいに彩豊かなリボンが広がった。
「先日お手紙でお伺いしておりました商品を幾つか揃えておきました。ご覧ください」
「ありがとうございます」
恋人の誕生日にリボンを贈りたいので、金色の刺繍が入ったリボンがあれば見せて欲しいという依頼に店主は応えてくれた。
テーブルの上には、様々な生地、色、柄のリボンが並んでいる。それはどれもうっとりするほど美しく、一つひとつが美術品のようであった。
「こんなに沢山……。どれも素敵で迷ってしまいますね」
「恐れ入ります。初めての贈り物ということで、張り切ってしまいました。では先ず印象の大部分を占める色から絞って参りましょう」
「とても嬉しいです。気合を入れて選びたいと思います!」
店主と話し合うこと一時間、納得のいく選択ができた。
手袋をはめた店主は、群青色のシルク生地のリボンを手に、きっと喜んでくださいますねと微笑んだ。
真紘のリボンと似たそれは、刺繍糸が金色であることと色が変わらないこと以外そっくりであった。
重盛は真紘の髪を束ねながら、お前には群青色が良く似合うと言っていた。真紘もまた、男らしい指先が操る群青色を見て、重盛に良く似合うと思っていたのだ。
重盛の首元で揺れるそろいのリボンを思い浮かべて口角が上がる。
ラッピングされた箱を受け取り、真紘は深々と頭を下げた。
「お手伝いをさせて頂き光栄でございました。次は是非、新しいヘアスタイルに合ったご提案もさせてください」
「僕の事を覚えてくださっていたのですか」
「はい。一度仕立てさせていただいたお客様は。ご事情があってお姿を変えられているのかもしれないと控えておりましたが、その黒い髪に合ったスーツを仕立ててみたいというデザイナーの血が騒いでしまいまして。いやはや、まだまだ未熟でお恥ずかしい限りです」
「それはとてもありがたいことです。年明けにクルーズトレインに乗車する予定なので、パーティー用に二着お願いしたいと考えていました。来週のどこかでお時間をいただけますか? あっ、二ヶ月前では遅いでしょうか……」
店主は是非と頷いた。懐から手帳を取り出し予定を確認する。提示された時間の中から真紘は水曜日の午後を指定した。
「なんてことでしょうか、願ってもないことでございます! 嗚呼、どんな形にしましょう。お選びいただいたリボンと同じ素材の布で作った蝶ネクタイもいいですね。蝶ネクタイにするなら襟の形が広がっているウィングカラーにしましょうか。来週までとことん悩ませてください」
勢いに圧倒された真紘はコクコクと頷く。
「おっと、二着の内、もう一着は重盛様の分でございますね。重盛様も体型にお変わりはありませんか?」
「はい、変わっていないと思います。それから僕のこの姿は期間限定といいますか、仮の姿なので来週は以前の姿で参ります。黒髪じゃなくて申し訳ありません」
「いえ、絹のような銀色の髪も大変美しく、また違った魅力がございました。では、そのつもりでご提案の準備に入らせていただきます! 来週もお会いできるのを楽しみにしておりますね」
「よろしくお願いします。僕も楽しみにしてます。では」
改めて礼を伝え、真紘は足取り軽く店を後にした。
選び抜いたプレゼントが入った紙袋を抱えて帰路に着く。昼も外で済ませてしまおうと路面店でサンドイッチを購入した。
サンドイッチの具はスクランブルエッグと薄くスライスされたさつま芋のチップ。スイーツのような甘さもあり、軽めのランチにはぴったりだ。
変身を維持するにはもう少し慣れが必要なようで、真紘は少し眠くなってきた。
途中の公園で糖分だけでも摂ってしまおうか。公園に入り、ベンチがある方へと向かうと、目的地で一人佇む野木と目が合った。
眉間に皺を寄せて目を細めた後、ぎょっとした表情を浮かべた彼は周囲を警戒しながらこちらへ駆け寄ってきた。
「ちょちょちょちょちょ」
「落ち着いて。久しぶりだね、野木くん。 あれ、重盛は? 僕は誕プレ買いに行ってたんだ」
「やっぱ真紘君じゃないすっか! ほんと久しぶりっすねぇ……じゃない、やばいって、もうアニキ戻って来るっすよ!」
「ありゃ、それはまずい。この姿が相談していた新しい魔法だからまだ重盛にお披露目するわけにはいかないんだ。ごめん、一旦帰るね!」
走りだそうとすると野木は真紘のコートをぐいっと引っ張った。
「そっちもやばい。兄貴が昼飯買いに行った方向っす。あと俺が先に真紘君のその姿を見たって絶対言わないでね、殺される!」
「あはは、そんな大袈裟……でもないか、そうだね、言わないよ。ありがとう。鉢合わせないように遠回りして帰る。じゃあまた後でね」
小さく手を振ると、焦る野木を残して真紘は駆け出した。
あの人の魔法ってやっぱりすごいな、と感心しながら今来た道を引き返していく真紘を見送ると、野木は公園の入口にへたり込んだ。
ドッドッドと周りに聞こえてしまうのではないかと思うほど心臓が波打っている。色々な意味で心臓に悪い。
「ありゃ女でも男でも惚れるわ……。アニキに見つかんなくてまじで良かった」
ふとベンチに視線を戻すと、重盛はいつの間にか戻って来ていた。横には山盛りの紙袋が置いてある。
イケメン俳優の姿に生まれ変わり半年経っても挙動が不審だと指摘されることもしばしば。野木が手と足をバタバタとさせながらベンチまで戻ると、重盛は意外にも鼻歌混じりに上機嫌だった。
「おおおおおかえりっすアニキ」
「ははっ、たたたたただいま。ん、これパニーニ。一個おまけしてもらったから七個あるよん」
「うおお! 俺、すっげぇパニーニ好きなんすよ!」
知ってる、と少し高い位置から笑い声が降って来る。
視線を上げると、重盛は目を三日月にして腕を組んでいた。
「え、なんすか……?」
「さっき、誰と、何してた?」
「うっいや、なんも、ヒッ! 一人でしたけど……」
「分かるよぉ。真紘ちゃんてば透明感ありすぎて透けて見えそうな時あるもん。一人かもって錯覚しちゃうよなぁ?」
げっ見られていた、と文字が顔に出るほど露骨な反応をしたため、重盛は見てはないけど真紘の匂いがしたと勝手に答えた。
「ちょっかい出そうとなんかして――」
「ないない、してない! 偶然会ってちょっと話しただけっす! 断じて、誓って、指一本触れてません!」
「ふーん。そっか」
それっきり追及してこない重盛を前に、野木は頭にはてなを浮かべ、顔のパーツをありとあらゆる方向に散らした。
なぜこれ以上何も聞いてこないんだ、と口を開けたままにしていると、重盛はまたしても野木の考えを読んで言った。
「そこまで無粋じゃないっつーの。きっと俺の誕プレ買いに行ってたんでしょ。誕生日まで一人になれる時間、今日くらいしかないし」
「はあ? 知ってたなら揶揄わないでくださいよ~」
「でも惚れるとかなんとか言ってたからお灸据えようと思って」
「聞こえてたんすか⁉ 地獄耳過ぎっす!」
ぎゃははと口を大きく開けて笑う姿は今週二十歳になる男とは思えぬほど幼く、思わず野木も釣られて笑った。
昼食を平らげた後は、空の魔石を王城まで運んでもらう約束をしていたので移動する。
王城に着く手前の石畳の上で、重盛はあのさ、と深刻そうに切り出した。
「なんすか? まだ怒ってます? 俺だって友達として真紘君と話したいんすよ。この世界じゃ数少ない友達なんすから」
「それは元々怒ってないし、揶揄っただけ。そうじゃなくてお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「王城で――というか王都で、俺は心に決めた人がいるから告白してもダメだよってそれとなく広めてくんない?」
「は、はあ……。なんすかそれ、モテ自慢っすか? そんなの二人の事を見てたら分かると思いますけど」
「深い付き合いの人はね。でも真紘ちゃんってあまり人前に出たがらないし、存在を知らない人も多いんだよね。今日も一人の時に声かけられて、恋人いるって言っても信じてもらえなかったりして。そうすると後から知った真紘ちゃんが悩んじゃうし、無理して表立って行動しようとか、交友関係広めなきゃーとか考えそうだからさ」
「だから王城にいる俺発信で噂を広めて、声を掛けられる確率を減らそうってことすか? それは別に構わないんすけど、アニキ、それはいくらなんでも過保護すぎません?」
「それくらい大事なの!」
「く、クソ重い。これは真紘君の方が大変っすね……。分かりました、それとなく広めますよ」
げんなりした表情で承諾すると、重盛は野木の肩に腕を回した。体格差があり野木の体は左右に振られる。もっと鍛えておけよな、と対して思い入れもない姿を借りた俳優に悪態を吐きたくなった。
「野木は最近どうよ、失恋の傷は癒えた?」
「ああ、それはもうとっくに。フミちゃんは教会から出てこないし、俺は王城で罪を償い中すから、恋とか言ってる場合じゃないというか」
「良い男になったと思うけどなぁ」
「え? 俺もしかして褒められてます?」
「わはは! それ以外ないっしょ。昨日会って色々話したんだけど、ばーちゃんやじーちゃんも野木のおかげで助かってるって言ってたよ。城で働く人の子供達とも遊んであげてるらしいじゃん」
「それはどちらかと言えば遊ばれてるっていうか……。アテナ様やレヴィ様、それからメフシィ侯爵様、王城の皆んなにはとてもお世話になってるんす。定められた期間を超えても、許されるなら王城に残って皆んなに恩返しがしたい。でも俺は魔力の扱いも全然まだまだだし、体術もアニキには全然敵わないし……」
腕が離れて背中をトンと押される。
野木が振り返ると、重盛は真剣な表情を浮かべていた。
「魔法は比べる対象がやばすぎるだけだから気にすんな。体術に関して言えば俺は魔法をほとんど使えないし、お前が魔法と体術を組み合わせて戦ったら分かんないじゃん。ステータスにある職種ってのはあくまで適正かもしれないけどさ……お前は勇者なんだよ、きっと最強になれる。あと足りてないのは自信じゃね?」
「そうすかね……?」
「そうっすよ」と言って重盛はまた歩き出した。
大きな背中を前に、こりゃ惚れるわ、と野木はため息を零す。
「俺、もう最強最高の恋人いるので」
「違いますよ。お似合いのカップルだなってことっす」
すると分かってんじゃんと背中を叩かれ、野木はむせ返った。太陽を背に「俺もそう思う!」と笑う重盛は、やはりあと数日で二十歳とは思えぬ顔をしていた。
別の誰かに告白されて付き合っていたわけでもない。重盛が誠実で気遣いのできる良い男なのは真紘とて身をもって知っている。
一心に愛されていてどうしてこんなにも薄暗い気持ちになるのか、自分の感情なのに全く理解できない。情けない顔を見られたくなくて真紘は前を向いたまま叫んだ。
「ちょっと買い物があるからこの後は別行動で!」
「待ってよ、買い物なら俺もっ」
「秘密の買い物」
「あ、えっと……」
「お願い。先に帰ってて」
なんて姑息な言い方。半人前の嫉妬心から相手にいらぬ罪悪感を抱かせる言動をするなんてあまりにも幼稚である。頭では理解しているのに口と体が真逆の選択をする。
縦に長いスリッド窓の枠に足をかけて無理矢理体をねじ込むと、真紘の体はスポンと宙に投げ出された。体格差があるので自分がギリギリ通り抜けることができた細い窓から重盛は出ることができない。それも計算済みのことであった。
落ちたら確実に命を落とすような高さから飛び出して行くとは思わず、重盛は「はあ⁉」と素っ頓狂な声を上げた。
バサバサと布がはためく音と共に、真紘は重盛がかけてくれた上着を飛ばされないように抱きしめながら、重力に逆らって浮上した。
王城よりも高い建物は王都に存在しない。
天辺までくると、地上より強い風が真紘の愚行を責めるようにびゅうびゅうと襲い掛かった。
遠目では分からなかった避雷針のようなものが天辺に備え付けてある。真紘はそれに掴まりながら王都の街を見下ろした。
遠くに見える空は澄んでいる。カラフルな屋根は枯れない花畑のようだ。
ほう、と白い息が風に攫われていく。
嗚呼、冬だな――。
一年の中でも秋はとりわけ短いものだ。自分が吐いた白い靄を目で追いながらそんなことを思った。
「どうしよう、重盛困ってた」
寒さでどうにかなってしまったのか、あの場で自分がすべき行動はこうだった、と真紘は茶番劇を繰り広げ始めた。
『僕、そんなの聞いてないよ』
『ごめん……。付き合ってもいない時に告白されたって報告してもさ。真紘ちゃんに告白してきた人の中でいい人いなかったの? なんて聞かれたら枕を濡らすことになってたし、流石の俺でも結構へこむ』
『あの頃だったら確かに無神経な発言をしていたかもしれない。でも今は違うよ……。誰にでも優しいのは君の良いところだけど、これからはあんまり心配かけないで』
『なんで?』
『分かってるんでしょ……』
『言ってほしい。言って、真紘ちゃん』
『……嫉妬しちゃうから!』
『そこで僕だけに優しくしてって言わないとこ好き』
『君の優しさを僕だけに注がれたら、僕がダメ人間になるって……』
『うわー何それ最高なんだけどっ!』
そして二人は抱きしめ合い、より一層愛が深まるのであった。
「いやいや、そこまで楽観的なのもどうなの」と一人ぼっちの茶番劇は自身のツッコミによって幕を閉じた。
恋愛経験の浅さがこうも裏目にでるとは――。重盛だって交際経験がないと言っていたのにこの差は何なのだ。このまま帰宅するのも気まずい。
頭を振りながら風下を向くと視界一面真っ白になった。視界を遮る無数の白い線はまるで白雨だ。こんな状態を以前、重盛は花嫁のヴェールみたいだと言ってのけた。真紘は彼の美的感覚が麻痺しているのではと些か心配になった。
「あーもう! どうしよう。めちゃくちゃ感じ悪かった。可愛くない嫉妬の仕方した。本当に最悪……」
「最高なんだけど?」
「そんなわけ……は?」
聞こえるはずのない声が背後からした。驚いて振り返ると、金色の瞳と目が合った。
いくらなんでも追いかけてくるにしても早すぎるのだ。
驚きと羞恥で真紘はわなわなと肩を震わせた。
「どうやって……」
「窓はちっさ過ぎて通れなかったから、真紘ちゃんが出て行った後に窓ぶっ壊した。窓枠ごと引っこ抜いた感じ。王城なのに意外と脆いな」
「う、うそぉ……」
「マジ。後で直してくれる?」
「それはいいけど――って、うわあっ」
抱き寄せられた真紘は大人しく重盛の腕の中に納まった。
いつもこうやって諫められるのだ。悔しさと同じくらい喜んでしまう単純さが憎い。
「ハニー、家出は済んだ?」
「家出じゃない……。仮に家出だと思ったならこんな早く迎えに来ない方が良かったんじゃないの」
「ふーん。さっきまで脳内の俺とイチャコラしてたのに、そーゆーこと言うんだぁ」
「聞いてたの⁉ お願い、忘れて、今すぐ忘れて!」
ジタバタと暴れる真紘の膝裏に腕を回すと、重盛はそのまま真紘を抱えた。
「記憶を消すなんて無理だよって言ってたのはお前じゃん」
「そうだけど……。恥ずかしすぎる……。お願いだからせめて降ろして」
「ははんっ、照れてる顔見せたくないんだろ。嫌だ、超見るよ~ん」
意地の悪い言葉の応酬に真紘はふいっと顔を背けた。
「だいじょーぶ。可愛くないのも可愛い。いや、俺が可愛いって言い過ぎたのかな。可愛くなきゃいけないってことはないんだけど、何したって可愛く見えるし、感じるんだから仕方なくね⁉ 俺、何回可愛いって言った? 可愛いがゲシュタルト崩壊しそう、わはは」
「可愛くない以前に、小さなことで嫉妬して格好悪いよ。君は悪くないのに八つ当たりして、自分の狭量さが情けない。いつまでもうじうじして、こんな面倒なやつだと思ってなかった……」
「俺は嬉しいよ。それに王様や宰相と未来について話し合う姿はカッコ良かった。ずっと真紘ちゃん超カッケーと思いながら聞いてたよ。俺も色々内緒にしててごめんね」
いつもより低い声が心からの気持ちであることを教えてくれる。
ちらりと顔を盗み見ると、穏やかに微笑む重盛と目が合った。なんだか悩んでいるのが馬鹿らしく思えて、真紘はぼっと顔を赤くして彼の腕の中で暴れた。
「ぎぃ~悔しい! 対応が大人すぎる、格好良い、ずるいよ!」
「よせやい照れる。そう見えてんなら良かった。これでもカッコつけたくて背伸びしてんの。実際壁ぶっ壊して慌てて追いかけて来たわけだし?」
確かにと笑うと、同じく重盛もケタケタと揺れた。
「こちらこそごめんね、酷い態度取って」
「んや、可愛いもんだよ」
重盛の首に両手を回すと風の強い塔の上であることを忘れそうなくらい温かな温もりに包まれた。髪の毛よりも柔らかい耳のタフトがふわふわと真紘の頬を擽る。
どれくらいそうしていたのだろうか。鼻先が冷たいと感じた瞬間、真紘は重盛の上着を借りていたことを思い出した。
重盛の頬に両手を添えると、そこは自分の鼻先とは比べ物にならないほど冷たくなっていた。平熱が高くて寒さに強いにしても、これではまた風邪をひいてしまう。気持ちが先走り、ふわりと体を浮かすと重盛はうおっと声を上げた。
「帰ろう、今すぐ帰ろう! お風呂に入ろう!」
「んえ? 一緒に風呂って夫婦の仲直りの仕方じゃん。俺達にはまだ早いって! いや、真紘ちゃんがどうしてもって言うなら俺、俺ッ――」
「ち、違うよ! 一緒になんて言ってない。とにかく大事になる前に壊した窓を直して早く帰ろう」
ぶつぶつと妄想の続きを語る重盛に抱き着きながらゆっくりと降下していく。途中で不自然にぽっかり空いた穴を元の状態に戻すと、頭上からピューと手本のような口笛が聞こえた。
こうやって短い喧嘩をするのもいいねなんて重盛は言うけれど、できればずっと大切に優しくしたいと真紘は思う。
仲直りできた安心感から、ふあ、と気の抜けた欠伸が一つ零れた。
「今日は早く寝よ。てか、まだ毛布ないから夜も寒いかも、ぎゅっとして寝よーな」
「毛布買ったらぎゅっとしてくれないの……? じゃあずっと買わない」
「それそれ、その絶妙な甘え方が最高っ!」
夕日で染まる王都は、屋根の色を全て黄金に変え、キラキラと揺らめく水面のようだ。
手を繋いで帰路に着く親子。肩を組んでこれから飲みにでもいくであろう若者。身を寄せ合い太陽が沈むのを待つ恋人。そんな様子を見守る冒険者や騎士。命の営みの積み重ねが、今この瞬間も未来へと繋がっていく。
自分達の行動がこのありふれた平和に貢献できていると思うとなんだか誇らしく、真紘は頬を綻ばせた。
静かになった重盛がどんな表情で景色を楽しんでいるのか気になり視線を向けると、ピタリと目が合う。この男は素晴らしい景色よりもこちらを見つめている方が楽しいのだ。
心配になる必要なんてこれっぽちもないのだと改めて思い知る。
「重盛」
「なぁに」
「だーいすき!」
そう告げると、魔法がなくても飛べそうなくらい重盛の尻尾が大きく揺れた。
翌日、野木と遊ぶ約束をしていた重盛は午前中に出かけていった。
王城から戻った後すぐに野木と麻耶にも王都に帰ってきた旨の連絡をした。
たまには空の魔石を直接持っていくと自ら野木に提案したにも関わらず、同じく明日は予定がないのでランチに行こうという麻耶の申し出に真紘が了承すると、重盛は自分も行くと駄々をこねた。
真紘にとって麻耶は仕事の相談ができる頼もしい親戚の姉のような存在であったが、重盛が二人きりの食事を嫌がるのも今なら分かる。特に重盛は真紘が年上好きだと誤解している節もあるからだ。
最終的には麻耶が時間を変更してくれたので、夕食も兼ねて野木も含めた四人で集まることになった。年明けに乗車予定のクルーズトレインについても説明してくれるらしい。
店は麻耶に任せているので、王都の中心部にある噴水広場に集合ということしか分かっていない。
王城からの帰り道で立ち寄った店で、冬服に合わせて羽織れるように、カジュアルなキルティングコートと、セミフォーマルなロングコートを一着ずつ、二人で合計四着を購入した。
麻耶は何も言っていなかったが、ドレスコードがある店の可能性も考えて、ロングコートを着ていくように勧めると重盛は「奥さんに洋服を選んでもらってるみたいでアガる」と言ってニマニマと笑った。真紘は奥さんというか子供に折り畳み傘を持たせる母親のようだと思ったが、こういう時は肯定しておいた方が吉。
「そうだね。紺色のコート、やっぱり大人っぽくていいね。カッコいいよ」と返すと、やっぱり離れたくないとしがみついて来たので、玄関のドアを開けてぽいっとつまみ出した。
重盛を送り出した後、真紘もすぐに出かける準備を始めた。先ほど追い出した最愛の人に初めての誕生日プレゼントを贈るためだ。
ふわふわとした白のニットに淡いブルーのスラックス。最後におろしたてのグレージュのロングコートを羽織った。
我ながらくすんだ色や明度の高い色がよく似合うと姿見に映る姿を見て思うが、今日はさらに一工夫が必要だ。
黙想するようにじっと想像すること二十秒。鏡の中には地球にいた頃の真紘が映っていた。
艶やかな黒髪はナチュラルなセンターパート。久しぶりにすっきりとした首元はニットと同じくらい白い。
狐の姿に変化できる重盛と違って、真紘が想像できるのはこの姿が限界だ。重盛と離れている時間の方が少ないため、練習するのも一苦労だった。
「うん、こんな感じだったよね。喜んでもらえるといいな……」
プレゼントはわ・た・し、なんて古典的なことをするつもりはないが、形が残らない思い出もプレゼントしたいと考えた。
そこで普段から重盛とよく連絡を取り合っている野木に連絡をしたところ、新しい魔法をお披露目するのはどうかというアドバイスを授けてくれた。
真紘が部屋の中で小さな花火を打ち上げてくれたのが嬉しかったのだと、耳がタコになるほど聞かされているので、新しい魔法を披露すれば喜んでもらえるはずだと野木は自信満々に言い放った。その言葉に背中を押され今に至る。
本番前にどれくらい魔法を保てるのか試したかったので、今日はこの姿で出かけてみることにした。
期待に胸を膨らませながら、ついでにこっそりと購入したコートと同じグレージュのニット帽をかぶり、丸い伊達メガネもかける。これで知り合いとすれ違っても一目で真紘だと気付く者はいないだろう。
家族以外に贈り物をするのは久しぶりだ。
素敵な物に出会えますように、と願いを込めながら、真紘は焦げ茶色のローファーを履いて自宅を出発した。
耳と髪に特徴がなくなったおかげで、王都の街を一人で歩いてもいつもより不快な視線を感じることはなかった。人が行き交う中で生まれて初めてと言っても過言ではないほどの解放感に包まれた。安定して変身できるようになれば、種族や身分を隠したい時にも便利そうである。
散歩がてら通ったことのない道を探索したにも関わらず、予定していた時間よりも早くタキシードを誂えた店の前に辿りついた。
ドアをそろりと開けると、年配の店主が出迎えてくれた。採寸や仕立てをしてくれたのもこの人だ。
清潔感のある白髪は額が出るように後ろに撫でつけられていて、口の上にはちょこんと上品な髭が乗っている。背筋が伸びていて、年齢ではなく人間としての厚みを感じさせる佇まいだ。
真紘が帽子を取り名前を告げると、店主は目尻に皺を作り微笑んだ。
ブラウンを基調にしたアンティークな部屋に展示されているスーツやハットはどこを見ても申し分がないバランスで展示されていた。
唯一変わっていたのは、展示されているスーツが新しい物になっていたことだけだった。
案内された個室に入ると、視界いっぱいに彩豊かなリボンが広がった。
「先日お手紙でお伺いしておりました商品を幾つか揃えておきました。ご覧ください」
「ありがとうございます」
恋人の誕生日にリボンを贈りたいので、金色の刺繍が入ったリボンがあれば見せて欲しいという依頼に店主は応えてくれた。
テーブルの上には、様々な生地、色、柄のリボンが並んでいる。それはどれもうっとりするほど美しく、一つひとつが美術品のようであった。
「こんなに沢山……。どれも素敵で迷ってしまいますね」
「恐れ入ります。初めての贈り物ということで、張り切ってしまいました。では先ず印象の大部分を占める色から絞って参りましょう」
「とても嬉しいです。気合を入れて選びたいと思います!」
店主と話し合うこと一時間、納得のいく選択ができた。
手袋をはめた店主は、群青色のシルク生地のリボンを手に、きっと喜んでくださいますねと微笑んだ。
真紘のリボンと似たそれは、刺繍糸が金色であることと色が変わらないこと以外そっくりであった。
重盛は真紘の髪を束ねながら、お前には群青色が良く似合うと言っていた。真紘もまた、男らしい指先が操る群青色を見て、重盛に良く似合うと思っていたのだ。
重盛の首元で揺れるそろいのリボンを思い浮かべて口角が上がる。
ラッピングされた箱を受け取り、真紘は深々と頭を下げた。
「お手伝いをさせて頂き光栄でございました。次は是非、新しいヘアスタイルに合ったご提案もさせてください」
「僕の事を覚えてくださっていたのですか」
「はい。一度仕立てさせていただいたお客様は。ご事情があってお姿を変えられているのかもしれないと控えておりましたが、その黒い髪に合ったスーツを仕立ててみたいというデザイナーの血が騒いでしまいまして。いやはや、まだまだ未熟でお恥ずかしい限りです」
「それはとてもありがたいことです。年明けにクルーズトレインに乗車する予定なので、パーティー用に二着お願いしたいと考えていました。来週のどこかでお時間をいただけますか? あっ、二ヶ月前では遅いでしょうか……」
店主は是非と頷いた。懐から手帳を取り出し予定を確認する。提示された時間の中から真紘は水曜日の午後を指定した。
「なんてことでしょうか、願ってもないことでございます! 嗚呼、どんな形にしましょう。お選びいただいたリボンと同じ素材の布で作った蝶ネクタイもいいですね。蝶ネクタイにするなら襟の形が広がっているウィングカラーにしましょうか。来週までとことん悩ませてください」
勢いに圧倒された真紘はコクコクと頷く。
「おっと、二着の内、もう一着は重盛様の分でございますね。重盛様も体型にお変わりはありませんか?」
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「いえ、絹のような銀色の髪も大変美しく、また違った魅力がございました。では、そのつもりでご提案の準備に入らせていただきます! 来週もお会いできるのを楽しみにしておりますね」
「よろしくお願いします。僕も楽しみにしてます。では」
改めて礼を伝え、真紘は足取り軽く店を後にした。
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サンドイッチの具はスクランブルエッグと薄くスライスされたさつま芋のチップ。スイーツのような甘さもあり、軽めのランチにはぴったりだ。
変身を維持するにはもう少し慣れが必要なようで、真紘は少し眠くなってきた。
途中の公園で糖分だけでも摂ってしまおうか。公園に入り、ベンチがある方へと向かうと、目的地で一人佇む野木と目が合った。
眉間に皺を寄せて目を細めた後、ぎょっとした表情を浮かべた彼は周囲を警戒しながらこちらへ駆け寄ってきた。
「ちょちょちょちょちょ」
「落ち着いて。久しぶりだね、野木くん。 あれ、重盛は? 僕は誕プレ買いに行ってたんだ」
「やっぱ真紘君じゃないすっか! ほんと久しぶりっすねぇ……じゃない、やばいって、もうアニキ戻って来るっすよ!」
「ありゃ、それはまずい。この姿が相談していた新しい魔法だからまだ重盛にお披露目するわけにはいかないんだ。ごめん、一旦帰るね!」
走りだそうとすると野木は真紘のコートをぐいっと引っ張った。
「そっちもやばい。兄貴が昼飯買いに行った方向っす。あと俺が先に真紘君のその姿を見たって絶対言わないでね、殺される!」
「あはは、そんな大袈裟……でもないか、そうだね、言わないよ。ありがとう。鉢合わせないように遠回りして帰る。じゃあまた後でね」
小さく手を振ると、焦る野木を残して真紘は駆け出した。
あの人の魔法ってやっぱりすごいな、と感心しながら今来た道を引き返していく真紘を見送ると、野木は公園の入口にへたり込んだ。
ドッドッドと周りに聞こえてしまうのではないかと思うほど心臓が波打っている。色々な意味で心臓に悪い。
「ありゃ女でも男でも惚れるわ……。アニキに見つかんなくてまじで良かった」
ふとベンチに視線を戻すと、重盛はいつの間にか戻って来ていた。横には山盛りの紙袋が置いてある。
イケメン俳優の姿に生まれ変わり半年経っても挙動が不審だと指摘されることもしばしば。野木が手と足をバタバタとさせながらベンチまで戻ると、重盛は意外にも鼻歌混じりに上機嫌だった。
「おおおおおかえりっすアニキ」
「ははっ、たたたたただいま。ん、これパニーニ。一個おまけしてもらったから七個あるよん」
「うおお! 俺、すっげぇパニーニ好きなんすよ!」
知ってる、と少し高い位置から笑い声が降って来る。
視線を上げると、重盛は目を三日月にして腕を組んでいた。
「え、なんすか……?」
「さっき、誰と、何してた?」
「うっいや、なんも、ヒッ! 一人でしたけど……」
「分かるよぉ。真紘ちゃんてば透明感ありすぎて透けて見えそうな時あるもん。一人かもって錯覚しちゃうよなぁ?」
げっ見られていた、と文字が顔に出るほど露骨な反応をしたため、重盛は見てはないけど真紘の匂いがしたと勝手に答えた。
「ちょっかい出そうとなんかして――」
「ないない、してない! 偶然会ってちょっと話しただけっす! 断じて、誓って、指一本触れてません!」
「ふーん。そっか」
それっきり追及してこない重盛を前に、野木は頭にはてなを浮かべ、顔のパーツをありとあらゆる方向に散らした。
なぜこれ以上何も聞いてこないんだ、と口を開けたままにしていると、重盛はまたしても野木の考えを読んで言った。
「そこまで無粋じゃないっつーの。きっと俺の誕プレ買いに行ってたんでしょ。誕生日まで一人になれる時間、今日くらいしかないし」
「はあ? 知ってたなら揶揄わないでくださいよ~」
「でも惚れるとかなんとか言ってたからお灸据えようと思って」
「聞こえてたんすか⁉ 地獄耳過ぎっす!」
ぎゃははと口を大きく開けて笑う姿は今週二十歳になる男とは思えぬほど幼く、思わず野木も釣られて笑った。
昼食を平らげた後は、空の魔石を王城まで運んでもらう約束をしていたので移動する。
王城に着く手前の石畳の上で、重盛はあのさ、と深刻そうに切り出した。
「なんすか? まだ怒ってます? 俺だって友達として真紘君と話したいんすよ。この世界じゃ数少ない友達なんすから」
「それは元々怒ってないし、揶揄っただけ。そうじゃなくてお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「王城で――というか王都で、俺は心に決めた人がいるから告白してもダメだよってそれとなく広めてくんない?」
「は、はあ……。なんすかそれ、モテ自慢っすか? そんなの二人の事を見てたら分かると思いますけど」
「深い付き合いの人はね。でも真紘ちゃんってあまり人前に出たがらないし、存在を知らない人も多いんだよね。今日も一人の時に声かけられて、恋人いるって言っても信じてもらえなかったりして。そうすると後から知った真紘ちゃんが悩んじゃうし、無理して表立って行動しようとか、交友関係広めなきゃーとか考えそうだからさ」
「だから王城にいる俺発信で噂を広めて、声を掛けられる確率を減らそうってことすか? それは別に構わないんすけど、アニキ、それはいくらなんでも過保護すぎません?」
「それくらい大事なの!」
「く、クソ重い。これは真紘君の方が大変っすね……。分かりました、それとなく広めますよ」
げんなりした表情で承諾すると、重盛は野木の肩に腕を回した。体格差があり野木の体は左右に振られる。もっと鍛えておけよな、と対して思い入れもない姿を借りた俳優に悪態を吐きたくなった。
「野木は最近どうよ、失恋の傷は癒えた?」
「ああ、それはもうとっくに。フミちゃんは教会から出てこないし、俺は王城で罪を償い中すから、恋とか言ってる場合じゃないというか」
「良い男になったと思うけどなぁ」
「え? 俺もしかして褒められてます?」
「わはは! それ以外ないっしょ。昨日会って色々話したんだけど、ばーちゃんやじーちゃんも野木のおかげで助かってるって言ってたよ。城で働く人の子供達とも遊んであげてるらしいじゃん」
「それはどちらかと言えば遊ばれてるっていうか……。アテナ様やレヴィ様、それからメフシィ侯爵様、王城の皆んなにはとてもお世話になってるんす。定められた期間を超えても、許されるなら王城に残って皆んなに恩返しがしたい。でも俺は魔力の扱いも全然まだまだだし、体術もアニキには全然敵わないし……」
腕が離れて背中をトンと押される。
野木が振り返ると、重盛は真剣な表情を浮かべていた。
「魔法は比べる対象がやばすぎるだけだから気にすんな。体術に関して言えば俺は魔法をほとんど使えないし、お前が魔法と体術を組み合わせて戦ったら分かんないじゃん。ステータスにある職種ってのはあくまで適正かもしれないけどさ……お前は勇者なんだよ、きっと最強になれる。あと足りてないのは自信じゃね?」
「そうすかね……?」
「そうっすよ」と言って重盛はまた歩き出した。
大きな背中を前に、こりゃ惚れるわ、と野木はため息を零す。
「俺、もう最強最高の恋人いるので」
「違いますよ。お似合いのカップルだなってことっす」
すると分かってんじゃんと背中を叩かれ、野木はむせ返った。太陽を背に「俺もそう思う!」と笑う重盛は、やはりあと数日で二十歳とは思えぬ顔をしていた。
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