同級生と余生を異世界で-お眠の美人エルフと一途な妖狐の便利屋旅-

笹川リュウ

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余生の始まり

22.おはよう

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 目が覚めると頭も体もすっきりしていた。
 支度をする前に部屋の鍵を開けておいたが、重盛はいつまで経っても来ない。もう少しで朝食の時間だ。
 夢の中で時の神と会えなかったのだろうか。
 不安になった真紘は居ても立っても居られず部屋を飛び出した。ドアをノックしても返事がない。
「重盛、おはよう。起きてる? ……開けるよ」
 試しに魔力をドアノブに流してみると、あっさりドアが開いた。
 規格外の魔力のせいだという自覚はなく、セキュリティが心配になった。そろりとドアを押すと、部屋はまだ薄暗く、微かに寝息が聞こえた。
 ベッドに近づくと重盛はまだ寝ているようだった。
「重盛? おは……」
 真紘は声を失った。
 重盛の顔をよくみると頬には無数の涙の痕、目尻も赤くなっていた。
 神木に魔力を流していた時も一瞬だけ泣いていたが、これは夢の中で何かあったのだと感じた。
 自分が姉と再会したように、彼も大切な人に会ったのだろう。
 家族、友人、恋人、そんなに泣くほど会いたかった人は誰なのか。
 起こすべきか迷い、ベッドの周りで行ったり来たり。ひとまず目元だけでも冷やしてやろうと洗面所に向かった。
 小さなタオルを拝借し、重盛の目元にそっとタオルを乗せると、彼の口角が上がる。
「起きた?」
「ん、百面相しながら洗面所に向かうところまでバッチリ見てた」
「こ、声かけてよ!」
 くくっと笑って肩を揺らし、重盛は目元のタオルを押さえた。
「いやぁ~、ちょっとハズいっしょ。気配で起きたけど、めちゃくちゃこっち見てるし? 真紘ちゃんに尻尾貸すぜとか言っておきながら寝坊した挙句、自分が爆泣きって」
「ふふっ、どう? 部屋に突撃される気持ち分かった?」
「たはっ! そうだなぁ……。暫くやんねぇわ」
「暫くって、またやるつもりではいるんだ……。再開する時は教えてよね?」
 タオルをずらして真紘を見上げる重盛は「やぁだよ」といつもの悪戯顔でにやりと笑った。


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