同級生と余生を異世界で-お眠の美人エルフと一途な妖狐の便利屋旅-

笹川リュウ

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余生の始まり

11.十代だから

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 集合の時間から十分が過ぎた。リアースの時刻に合わせた真紘の腕時計の針も、壁にかかる時計と同じ方向を指している。
「来なくね?」
 机に伏した重盛は大きな欠伸をしながら猫のようにぐっと伸びをした。
「早速で申し訳ないけど、ノエルさんに連絡してみる?」
「賛成~と思ったけど、ノエルさん本人が来たわ」
 重盛の視線を追うと、息を切らしたノエルが後方の扉から入ってきた。
「重盛様、真紘様、お待たせしてすみません。ちょっと問題が発生しまして、他のお三方は不参加。説明会は延期です」
「問題とは?」
 ノエルは視線を泳がせ、耳を貸すようにと手招きした。ここだけの話ですが、とお決まりのフレーズが続く。
「他のお三方は、メフシィ侯爵様という方がお迎えに向かったのですが、お一人が協力を拒み続けているようなのです」
「ええっ、そんなことになっているとは思わず、すぐに寝てしまって申し訳なかったなぁ……」
「いやいや、真紘ちゃんはどんなに頑張っても二十一時にはどうせおねむだったよ。俺達もここに来る前にちょっとした魔法の使い方を教えてもらったばかりじゃん。いきなり小競り合いなんてことになったら、大泣きどころじゃなかったかもねぇ~」
「う、うるさいなぁ。気持ちの問題だよ! ノエルさん、他の三人は今どこにいるんですか?」
「真紘様と重盛様のお部屋とは離れた別棟の客室にいらっしゃいます。お二方は慣れない戦闘に体調を崩されたようで、神官様による治療を受けています」
 ノエルの言葉に真紘と重盛は驚愕した。
「どえっ⁉ マジでいきなり戦ったのかよ! 可哀そ~、やっぱこの後、皆で仲良くお手て繋いで魔力注入とかムズくね? わー、俺、ホント真紘ちゃんのいる教会に走って行って良かった」
 危険を回避する野生のカンが働いたのか、偶然だったのかは定かではないが、真紘も最初に出会ったのが重盛で良かったと安堵の息をついた。
 メフシィ侯爵は真紘と重盛に挨拶をしたいと願っていたが、昨日の一件で負傷したらしく、休養中だ。
 ノエルも協力を拒む救世主の説得を試みたが、すぐに追い返されたという。今朝はなかったはずの頬の痣はその時についたのだろう。
 しかも、その拒否し続けている救世主の職業が勇者だというのだから驚きだ。
 根気強く暴れる勇者を説得し続けたのがどちらも若い女性の聖女と剣士。異世界に召喚され、右も左も分からない状態で戦いに巻き込まれたのだから、体調を崩してもおかしくない。
「どうして勇者さんは協力を拒んでいるのでしょうか?」
「それが、分からないのです。突然別の世界に飛ばされたのですから、混乱して当然だとは思いますが……。聖女様と剣士様も初めは困惑しておられたと聞いています。真紘様と、重盛様のように穏便にお迎えできる方が珍しいのかもしれません」
 あの場にいなかったノエルはマルクスから何も聞いていないようだ。マルクスが話す必要がないと判断したのかもしれない。その優しさが真紘には少しだけ痛かった。
 教会にマルクス達が来た時、重盛に制止されなければ、真紘も風魔法で彼等を遠ざけるつもりだったのだ。混乱していたとはいえ、自分も勇者のようになっていたかもしれない。
「そうですかね……。ただ、僕には重盛がいたから落ち着いていられたのかもしれません。一人だったらどうなっていたか……」
「まーた、考えすぎ。はいはい、眉間に皺寄せててもプリティねぇ~。てか、早いとこ神木に魔力を注いだ方が、みんな安心するよな? 拒否ってるやつを説得するよりも、残りの四人でなんとか頑張る方向じゃダメなんすかね?」
 額を突く手を払いのけて真紘は頷いた。
「僕も嫌がる人に強制はしたくないし賛成かなぁ。でも重盛はそれでいいの?」
 争いごとを避けたいのは同意だ。だが、ここまで真紘の大泣きしたり寝落ちしたりといった散々な姿を難なく受け入れてきた彼だ。てっきり他の人に対しても説得をする方向に舵を切るのかと思いきや、返ってきたのは意外にも素っ気ない反応だった。
「俺、レディに優しくない男が一番苦手なの。特に野郎を好き好んで助ける趣味もない」
「嗚呼、そういう。……いや、僕も野郎だけど」
「真紘ちゃんは野郎って感じじゃないから」
「男らしくないのは重々承知してるよ、筋力もないし、棒切れみたいなもんだし、でもさ……」
 自分だって筋肉隆々とまではならずとも、男らしい体格に近づきたいと日々筋トレやランニングを欠かさず行っていた。ないものねだり、というわけではないが憧れは人一倍強かった。一家そろって線が細く、特に姉とは顔も瓜二つで、真紘の身長が伸びるまでは、まるで双子のようだと云われてきたからだ。
 まさか女顔だからという理由で優しくされていたのでは、と疑いの目を向ける。
「拗ねんな、拗ねんな。お前の存在がレアなんだって、俺の中でもオンリーワンなの」
 納得がいかずふくれっ面の真紘と、至って真面目な重盛、そんな二人を見て苦笑いのノエル。理由は三者三葉だが、どうにかして争いごとを避け、神木に魔力補填できないかという結論は同じだ。
 ならば、とノエルは提案した。
「私は全員揃わなくとも神木への魔力補填が可能か、宰相様に相談してまいります。宰相様は中々捉まらないので、時間がかかるかもしれません。それまで、またゆっくりお休みください。そうだ、今日は天気が良いので、昼食は中庭でいかがでしょうか?」
「あざっす! ピクニックみたいで最高じゃん! ノエルさん、昼飯まで中庭で魔力操作の練習しててもいい?」
「勿論です! シェフにも伝えておきますので。場所はわかりますか?」
「もち、真紘ちゃんが覚えてる!」
「自分でも覚えて」
「へぇーい」
 覚える気のなさそうな返事にノエルはクスクスと笑った。
「あの、お二人は早く城を出たい理由があるのでしょうか?」
「ん? どうしてですか?」
 真紘は首を傾げた。
「失礼ながら、魔力操作の練習にも積極的で、神木への魔力補填も急いでいるようにお見受けしました」
 ノエルは眉をハの字にして視線をそらした。その様子に真紘と重盛は同時に吹き出す。
 人より寿命が長いと云われても、時間は今までと同じように流れている。
 まだまだ遊びたい盛りの十代。国の未来がかかった一大プロジェクトに参加させられ、大人に囲まれるよりも、同級生二人で気ままに旅をした方が気が休まる。評判の良い美味い飯の方が気になるのだ。
 真紘はここだけの話、と囁いた。
「早くタルハネイリッカでロヒケイットを食べたいんです」
 するとノエルは目を見開いた。
「それは、早く召し上がっていただかないといけませんね!」
 踵を翻し、ノエルは廊下へと駆け出して行った。
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