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おっさんずラブ
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スナップドラゴン……ティアグラの使っていたあの恐ろしい魔剣も同じように作られたものだったとは。
あの剣がいったい誰から作られたのかは分からないけれど、その竜言語魔法を使って人間ではなく竜人を、さらに竜の魔石も素材として使ったのならば、町一つを丸ごと呪いに封じ込めてしまうこの異常な魔力にも納得がいくというもの。
それにしても、自分自身にそれを使って、命を懸けてまで作り上げたものが、この「野風の笛」だったとは。
その話を聞いた今でも、イリスウーフさんが大事に胸に抱きしめている黒い笛が、元々彼女の兄だったなどと、にわかには信じられない。
もしそうなら、そりゃ確かに、敵に奪われてしまう危険性を考えたうえでも、それを破壊する決断なんて下せるわけがないとは思うけど。
イリスウーフさんのお兄さんは、自分の命を犠牲にしてでも、争いを止めようと、平和な世界を作り出したいと願っていたのか。
自分にいったいどれほどの覚悟があったなら、私は同じ決断を下せるのだろうと思いながらも、同時にイリスウーフさんがあそこまで争いというものを忌諱する理由が分かった気がした。
ドサドサと音がして、埃が舞う。
私が三百年前のイリスウーフさんのお兄さんの考えに思いを馳せているころ、ドラーガさんは事務所の中に入って本棚の中身をひっくり返しながら、それこそ片っ端から書類、置物、メモと、ありとあらゆるものを調べていた。
「そう言えばまだ聞けてなかったですけど、ドラーガさんはここに何を調べに?」
私が尋ねるとドラーガさんは手を止めずに答える。
「さっきも言ったようにもうガスタルデッロは正攻法じゃ倒せねえ。何か別の方向からのアプローチが必要になる」
はぁ、要するに「ガスタルデッロの弱みを探してる」と。相変わらずド汚いというかブレないというか。
「あの……ガスタルデッロと和解する道はないんでしょうか」
イリスウーフさんの言葉である。私も同じ意見だ。そもそもガスタルデッロはアカシックレコードを手に入れて目的は達成したはず。そもそもが私達と対決姿勢を見せる意味がないんじゃないだろうか。
「無理だな」
ドラーガさんの応えは相変わらず明快で簡潔だった。資料を読み漁りながら彼は答える。
「こっちにその気がなくても、向こうは俺達どころか人間全てを殺そうとすら思ってる。話し合いの余地なんてねえよ」
「なぜ……そんなことに。目的は達成したはずなのに」
「奴が何を知りたがっていたのかは分からないが、アカシックレコードに触れて『それを知った』筈だ」
ドラーガさんもガスタルデッロが目的のものを手に入れたとは思っているのか……だったらなおさら争う必要なんてない気がするんだけど。
「真実ってのはいつも苦いもんだ。奴が全てを知ったんなら、必ず絶望するはずだ。
何を知りたかったのかは分からんが、そんな思いに拘泥して三百年も生きてきたような執念深い奴が絶望した時、どんな選択肢を取るのかはなんとなく想像がつく」
そういうものなんだろうか。私にはそもそも戦う理由がないのに戦わなければならない理由が分からないし、それは多分イリスウーフさんも同じ気持ちだ。
「別に取り越し苦労ならそれでいいんだ。だがやれることは全部やっとくべきだ」
「ガスタルデッロは、何を知りたかったんでしょう……」
イリスウーフさんのその言葉に、ドラーガさんはようやく手を止めた。
「そうだ。肝心なことを聞くのを忘れてた。そもそもあいつとお前は三百年前知り合いじゃないのか? 何かあいつの事を知らないのか?」
イリスウーフさんは顎に手を当てて少し考えこむ。こうしてみていると本当に可愛らしい少女にしか見えない。でも実際三百年前の世界から来た人なんだよなあ。今更ながら不思議な感じだ。
「私は直接会ったことはないんですが、彼は私の兄、ワイウードの友人だったらしいんです」
ドラーガさんは手を止めたままイリスウーフさんの方をずっと見つめている。
ううん、この人もこうやって黙ってりゃいい男なんだけどなあ。イリスウーフさんは真剣な表情でじっと見つめられるのが恥ずかしいのか少し視線を逸らして頬を染めながらも続きを話した。
「ですが、スナップドラゴンと野風の笛の事については誰にも漏らしてはいなかったようです。もちろんあのガスタルデッロも知らなかったようで……」
「なるほど……」
何かわかったんだろうか。ドラーガさんは腕組みをしたまま俯いて考え事をしている。
「つまり……仲間外れにされたのが悔しくて……?」
おや? なんか話が変な方向に流れて来たぞ。
「そう言えば誰かが言っていました」
お? イリスウーフさんがさらに何か思い出したみたいだ。
「ガスタルデッロは……ホモだって……」
それ言ってたのアンセさんですよ。三百年前じゃなくてつい最近の話ですよ。
「そう言えば……俺も聞いたことがあるぞ、ガスタルデッロとデュラエスがホモだち関係だったという話を」
だからそれもアンセさんですって。故人をある事ないこと言うのはやめましょうよ。アンセさんの汚染力強すぎません?
「つまり、私の兄とガスタルデッロ、それにデュラエスは三角関係だったという事でしょうか……?」
おっさんだらけの三角関係。ちょっと気持ち悪くなってきた。
っていうかイリスウーフさん自分の兄の事ですよね? なんで自分の兄の事ホモとか言っちゃって平気なんですか。野風の笛が悲しげな音を奏でる理由が分かった気がする。
「じゃあつまり、ガスタルデッロが知りたかったのは、私の兄がガスタルデッロの事をどう思っていたか……?」
マジでやめません? これ。
「そしてその結果に絶望したという事は、まあ……体だけの関係だったってことなんだろうな」
あの剣がいったい誰から作られたのかは分からないけれど、その竜言語魔法を使って人間ではなく竜人を、さらに竜の魔石も素材として使ったのならば、町一つを丸ごと呪いに封じ込めてしまうこの異常な魔力にも納得がいくというもの。
それにしても、自分自身にそれを使って、命を懸けてまで作り上げたものが、この「野風の笛」だったとは。
その話を聞いた今でも、イリスウーフさんが大事に胸に抱きしめている黒い笛が、元々彼女の兄だったなどと、にわかには信じられない。
もしそうなら、そりゃ確かに、敵に奪われてしまう危険性を考えたうえでも、それを破壊する決断なんて下せるわけがないとは思うけど。
イリスウーフさんのお兄さんは、自分の命を犠牲にしてでも、争いを止めようと、平和な世界を作り出したいと願っていたのか。
自分にいったいどれほどの覚悟があったなら、私は同じ決断を下せるのだろうと思いながらも、同時にイリスウーフさんがあそこまで争いというものを忌諱する理由が分かった気がした。
ドサドサと音がして、埃が舞う。
私が三百年前のイリスウーフさんのお兄さんの考えに思いを馳せているころ、ドラーガさんは事務所の中に入って本棚の中身をひっくり返しながら、それこそ片っ端から書類、置物、メモと、ありとあらゆるものを調べていた。
「そう言えばまだ聞けてなかったですけど、ドラーガさんはここに何を調べに?」
私が尋ねるとドラーガさんは手を止めずに答える。
「さっきも言ったようにもうガスタルデッロは正攻法じゃ倒せねえ。何か別の方向からのアプローチが必要になる」
はぁ、要するに「ガスタルデッロの弱みを探してる」と。相変わらずド汚いというかブレないというか。
「あの……ガスタルデッロと和解する道はないんでしょうか」
イリスウーフさんの言葉である。私も同じ意見だ。そもそもガスタルデッロはアカシックレコードを手に入れて目的は達成したはず。そもそもが私達と対決姿勢を見せる意味がないんじゃないだろうか。
「無理だな」
ドラーガさんの応えは相変わらず明快で簡潔だった。資料を読み漁りながら彼は答える。
「こっちにその気がなくても、向こうは俺達どころか人間全てを殺そうとすら思ってる。話し合いの余地なんてねえよ」
「なぜ……そんなことに。目的は達成したはずなのに」
「奴が何を知りたがっていたのかは分からないが、アカシックレコードに触れて『それを知った』筈だ」
ドラーガさんもガスタルデッロが目的のものを手に入れたとは思っているのか……だったらなおさら争う必要なんてない気がするんだけど。
「真実ってのはいつも苦いもんだ。奴が全てを知ったんなら、必ず絶望するはずだ。
何を知りたかったのかは分からんが、そんな思いに拘泥して三百年も生きてきたような執念深い奴が絶望した時、どんな選択肢を取るのかはなんとなく想像がつく」
そういうものなんだろうか。私にはそもそも戦う理由がないのに戦わなければならない理由が分からないし、それは多分イリスウーフさんも同じ気持ちだ。
「別に取り越し苦労ならそれでいいんだ。だがやれることは全部やっとくべきだ」
「ガスタルデッロは、何を知りたかったんでしょう……」
イリスウーフさんのその言葉に、ドラーガさんはようやく手を止めた。
「そうだ。肝心なことを聞くのを忘れてた。そもそもあいつとお前は三百年前知り合いじゃないのか? 何かあいつの事を知らないのか?」
イリスウーフさんは顎に手を当てて少し考えこむ。こうしてみていると本当に可愛らしい少女にしか見えない。でも実際三百年前の世界から来た人なんだよなあ。今更ながら不思議な感じだ。
「私は直接会ったことはないんですが、彼は私の兄、ワイウードの友人だったらしいんです」
ドラーガさんは手を止めたままイリスウーフさんの方をずっと見つめている。
ううん、この人もこうやって黙ってりゃいい男なんだけどなあ。イリスウーフさんは真剣な表情でじっと見つめられるのが恥ずかしいのか少し視線を逸らして頬を染めながらも続きを話した。
「ですが、スナップドラゴンと野風の笛の事については誰にも漏らしてはいなかったようです。もちろんあのガスタルデッロも知らなかったようで……」
「なるほど……」
何かわかったんだろうか。ドラーガさんは腕組みをしたまま俯いて考え事をしている。
「つまり……仲間外れにされたのが悔しくて……?」
おや? なんか話が変な方向に流れて来たぞ。
「そう言えば誰かが言っていました」
お? イリスウーフさんがさらに何か思い出したみたいだ。
「ガスタルデッロは……ホモだって……」
それ言ってたのアンセさんですよ。三百年前じゃなくてつい最近の話ですよ。
「そう言えば……俺も聞いたことがあるぞ、ガスタルデッロとデュラエスがホモだち関係だったという話を」
だからそれもアンセさんですって。故人をある事ないこと言うのはやめましょうよ。アンセさんの汚染力強すぎません?
「つまり、私の兄とガスタルデッロ、それにデュラエスは三角関係だったという事でしょうか……?」
おっさんだらけの三角関係。ちょっと気持ち悪くなってきた。
っていうかイリスウーフさん自分の兄の事ですよね? なんで自分の兄の事ホモとか言っちゃって平気なんですか。野風の笛が悲しげな音を奏でる理由が分かった気がする。
「じゃあつまり、ガスタルデッロが知りたかったのは、私の兄がガスタルデッロの事をどう思っていたか……?」
マジでやめません? これ。
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