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ドラーガ・ノートの休日

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「少し、旧市街地の方まで歩いて行ってみませんか? 今どうなっているのか、見てみたいんです」

「ちょうどいい。俺も少し静かなところに行きたかったところだ」

 え、なにこれ。もしかしてえっちな展開に? イヤそれはともかく。

「私達をつけてる人がいる?」

「いえ、ドラーガさん達を」

 耳の後ろに手のひらを当てながらクオスさんが注意深く何かを探るような表情でそう答えた。

 誰が? 何のために? しかし正解は分からないけど推測は出来る。ドラーガさんみたいなゲロクズ詐欺師を尾行したって仕方ないから、目的は恐らくイリスウーフさんだ。

 アルグスさんの言っていた『噂』を真に受けた市民か……いや、噂じゃないか、真実か。まあそれはいいとして、若しくは七聖鍵、ギルドの手の者かのどちらかだろう。

「クオスさん、もしもの時は……」

「ええ、分かってます」

 私の言葉にクオスさんは無言で頷いて、弓に弦を張る。

「あのメスブタがドラーガさんにえっちな事しようとしたら針供養みたいにしてやります」

「分かってない!!」

「ん? なんか今聞き覚えのある声が……気のせいか?」

 おっと危ない危ない、思わず大きな声を出してしまった。とにかく、今は尾行に集中だ。もし別の人達が害意をもってドラーガさん達の前に出てきたならその時にまた考えるしかない。

 そんな自分達の状況には全く気付かずにドラーガさん達は町を南へ、南へと歩いていく

 町の郊外に近づくにつれ、だんだんと民家が少なくなっていき、代わりに木々が増えていく。カルゴシアの町と旧カルゴシアの町は切れ目が無く繋がっているけれど、南へ行くに従いだんだんと森に飲まれていくように建物が減っていくような形になっているのだ。

 聞いた話だと町の南部の方は地価も随分と安いらしい。理由は一つ「気味が悪いから」。

 幽霊が出るだとか、盗賊や貧民が住み着いてるだとか、そんな話すら聞かない。シームレスに旧市街と繋がっているにもかかわらず、誰も旧カルゴシアの町には近づこうともしないのだ。

「メッツァトルのメンバーって、皆さんいい人ばかりですね」

 歩きながらイリスウーフさんが笑顔でそう言った。あ、もしかして私達の話とかするのかな。ドキドキ。

「まあ、お人好しだわな。特にアルグスは馬鹿正直で、お人好しで、そのくせ頑固で。俺みたいな奴がついていてやらないと、すぐ人に騙されちまうぞ、あいつは」

 アルグスさんを騙くらかしてメッツァトルに寄生してる人が何言いだすんですか。

「そういう意味ではアンセも一直線だな。あの二人は変なとこ似てるからな。まあお似合いのカップルだぜ」

 へえ、意外とドラーガさん他人の事をよく見てるんだな。意外だ。てっきり他人の事なんて視界にすら入ってないかと思ってた。

「クオスさんはどうですか?」

「あいつはダメだな」

 ドサッと後ろで音がした。見れば、クオスさんが行き倒れている。

「もう……私は、ダメです……」

「く、クオス、し、しっかりして!」

 私の肩に乗っていたクラリスさんが慌てて倒れてるクオスさんの上に飛び乗った。

「クラリス先生……介錯をお願いします……私にはもう、生きていく希望が……」

 ホントにメンタル弱いなこの人。回復魔法かけてみたら回復するかな?

「あいつは人に遠慮しすぎだ。美人で実力もあるんだからもっと自分に自信持ってりゃいいのによ」

「尾行を続けましょう」

 ノーモーションで起き上がり小法師みたいな立ち上がり方をするクオスさん。復活早ぇ。

「おめぇもだぞイリスウーフ。他人に遠慮なんかしたっていいことなんかねえんだからな! 二度と俺の前で『生きる価値が無い』なんて言うなよ」

 結構語気が強めに言っているけど、イリスウーフさんはにこにことそれを聞いている。

「価値がある、ねぇで言ったら誰にも生きる価値なんてもんはねえんだ。だったら好きなことやって生きたもん勝ちだ。自分に生きる価値があるかじゃなくて、生きて何をするかを考えろ」

 言ってるセリフだけは格好いいんだよなあ、この人。この「生きて何をするか」って言うのも「人が生まれた意味」とかそういう哲学的な事じゃなくて「生きてるうちに好きな事しろ」って意味なんだろうなあ。ある意味それも正しいとは思うけど。

「マッピさんはどうです?」

 来た。 

 そろそろ順番的に私の頃だろうとは思ってたよ。私の評価、ドラーガさん的にはどうなんだろう。気になる。

「ああ、あいつはまあ……あの……アレだよな、うん」

 唐突に言葉を濁すドラーガさん。え、いつものドラーガさんらしくない。言えないようなことを私に対して思ってるの? どうしよう、ここに来て急に「マッピの事が好きだ」とか言い出しちゃったら。クオスさん達に申し訳ないというか。いや私はもちろんあんな詐欺師ごめんだよ? でもね? 向こうがその気ならまあ、無碍にはできないなあ、というか、もう、しょうがないんだから。

 でもまあ、思い返してみればドラーガさん私に対してはやたら「イジリ」が多いというか、これは、アレなのかな? 男子が好きな女子にいじわるしちゃう的な、そんな空気も感じてはいたんだけど、気付かないようにしてたというか。だって、ねえ。私には全然そんなつもりはないんだけどさ? まあ、私の魅力がパーティー内の恋愛模様を書き換えるようなことになっちゃったら、和を乱すというか、さあ。

 ああ、どうしよう! ドラーガさんに求婚されたりしたら! でもダメよ、私そんなに安い女じゃないわ。確かにメッツァトルでは一番一緒に行動してるけど、そういうのはまだ早いって言うか……

「か……髪が、短いよな……」

 は?

 そんだけ?

「他には?」

 そう! イリスウーフさんよく聞いてくれた!! まだドラーガさんの口から「私のいいところ」聞いてない!!

「なんつーか、先輩に対する敬意が無いっつーか……」

 はぁ? じゃあ敬意を示されるような行動しろよてめー。

「それになんていうか、言葉遣いは丁寧なんだけど、心の中じゃ毒づいてそうっていうかよ……」

 ああん? 喧嘩売ってんのかてめえ? おめーが失礼なこと言わなきゃ私だって毒づいたりしねーっつーの!

「ま、マッピ……」

「あぁ!? んだコラ!」

「ひっ」

 しまった、心の中の声が漏れだしてしまった。クラリスさんを驚かせちゃった。

「そ、その……凄く怖い顔してる……落ち着いて」

 顔にまで出ていたか。

「そうじゃなくて、その他にもっと、いいところというか……」

 そう! それよイリスウーフさん!!

「ああ! もちろん! もちろんいいところもあるんだぜ! たとえば……」

 たとえば?

「あの……あの、そのだな……アレだよ……ホラ」

 ドラーガさんは自分の喉を指さしながら言葉を続ける。

「もうホントあれなんだよ。ここまで出かかってんだよ」

 早く出せよ。

「出かかってはいるんだけど……なんだろな。なんていうか……ちょっと……すぐには、出てこないというか……
 いやホントあるんだよ? あるんだけどな? ちょっと待ってな……」

 長い。
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