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敵襲

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 ダンジョンの魔物が群れを成して付近の村や町を襲うという事態はままある。

 それ故ある程度大規模なダンジョンの出入り口には近くの町の衛兵の詰所があり、ダンジョンのモンスターの動向を監視している。

 そしてそれは、すぐ近くに巨大なダンジョン群を抱えているこのサーシュム地方最大の都市カルゴシアも同様であり、ここの場合はムカフ島に4か所の詰所を設置している。

 だが詰所からは何の連絡もなく、今、半鐘が鳴らされているのだ。

 これがもし他の領主や他国からの侵略だというのならばまた話は変わってくるのだが、それこそ他の地方をフッとばしてこのサーシュム地方中心地であるカルゴシアにいきなり攻めてくるなどあり得ない話だ。

「カルナ=カルア達が動き出したか……全く、こらえ性の無い奴らだ」

 ゆっくりと食後の酒を飲みながらガスタルデッロがそう言った。

「仕方あるまい。野風は見つからず、イリスウーフも失い、見捨てられるのでは、と焦っておるのだろう」

 デュラエスはそう言ってちらりとイリスウーフさんの方に視線を合わせる。やっぱり……当然ながら彼も私達のパーティーにいるのがイリスウーフだと分かっているんだろう。

「おとなしくしてれば歯牙にもかけぬつもりであったが、人も魔も、猜疑心というのは心を狂わせるな」

 天文館の中はざわざわと色めきだっているが、しかしガスタルデッロとデュラエスの二人は落ち着いた表情で食後のワインを楽しんでいる。この襲撃はこの人達が仕組んだことではないんだろうか。

「随分落ち着いているな……お前たちの仲間が暴走したんだろう、止めるつもりはないのか!?」

 とうとうアルグスさんが声を荒げた。しかしガスタルデッロ達は動く気配はない。

「協力関係にはあるが、別に彼らは我々の配下というわけではない。彼らの自由意思を尊重するつもりだ」

 本当に。

 なんでもない事のように、他人事のようにガスタルデッロは答える。いや、実際他人事なのだろう。

「だったらSランク冒険者としての行動は? まさか目の前で町がモンスターに襲われているっていうのにそれを指をくわえて見てるって言うのか!?」

「落ち着きたまえ、アルグス君。私達がこのカルゴシアに居合わせたのはだ。
 たまたま居合わせただけの一線を退いた老人達の力などあてにしないでくれ」

「それが冒険者の言葉か!!」

 テーブルに拳を打ち付けて怒りをあらわにするアルグスさん。しかしガスタルデッロは大仰に両手を広げて答えた。

「よそ者よりも身内に期待したらどうだね? 幸いここには大勢の冒険者達がいる。いずれも粒ぞろいの、カルゴシアの町が誇る一線級の人材だ」

 ガスタルデッロは辺りを見回した。

「残念なことに『闇の幻影』は解散してしまったそうだが……あそこにいるのはAランクの『暁の戦士団』」

 名指しで呼ばれた冒険者たちは思わず目を逸らした。

「その隣にいるのはBランクの『イスッストラウト』だな」

 またも名を呼ばれた人たちは気まずそうに床を見つめるばかり。

「他にもAランクがいるな……あそこの隅にいるのは『山猫の牙』か」

 またも名を呼ばれた人たちは目を逸らし、今度は舌打ちまでした。

 まるで「俺の名を呼ぶな、俺は何もしないぞ」とでも言わんばかりだ。まさかとは思うけど、ここにいる冒険者の人達、皆この緊急事態に町を守るために戦うつもりがないの!?

「地元愛にあふれる冒険者がこんなにいるんだ。シーマンの騎士団も当然防衛に出る。我らの出る幕などないさ。健闘を祈る」

 そう言ってガスタルデッロは立ち上がり、席を後にする。デュラエスもそれに続いて消えて行った。

 そんな時、天文館の扉が開かれ、外から衛兵らしい人間が数人入ってきた。

「モンスターの襲撃だ! 今は衛兵が防衛にあたっているが分が悪い! 騎士団も動くはずだが冒険者にも協力を仰ぐ! セゴーはどこだ!?」

 そう言って衛兵の人達は建物の奥に入っていった。やはり、思った通りモンスターのスタンピードが発生したんだ。しかし冒険者の人達は動きが重い。その場に立ち尽くしたまま、席に座ったまま、動こうとしない。

「僕は戦うぞ!! 今戦わずに何が冒険者だ!! 皆も協力してくれるな!?」

 アルグスさんの言葉にも、空気は重い。まさか、本当に動かないつもりなの?

冒険者ぼっけもん法度にも『民草の味方であれ』とはあるが、強制はできねえもんなあ?」

 ドラーガさんがにやにやと立ち上がりながら口を開く。

「衛兵の奴らはセゴーに話をつけりゃ冒険者が協力してくれるもんと勘違いしてるみてえだが、所詮冒険者は個人事業主だからなあ? そりゃ自分の身が一番かわいいってもんだよなあ?」

 煽る様に語り掛けるドラーガさん。冒険者の一人が、テーブルに着席したまま静かに答えた。

「俺達はプロフェッショナルだ……金も出ねえのにタマはれるワケねぇだろう……アルグス、てめえにもわかるだろ」

「ふざけるな!! 本当に我が身可愛さに傍観してるつもりなのか!?」

 アルグスさんの言葉に別の冒険者が答える。

「いかに効率よく、安全に、冒険せずに冒険するか、それができねえ奴に未来なんてねえ……テューマ達みたいにな……」

「無茶言ってるのは分かってる……だがここは理屈どうこうじゃねえんだ、協力してくれ!!」

 ギルドの二回から衛兵を引き連れてセゴーさんが下りてきて発言する。さっきまで上機嫌だった彼の顔にもやはり焦燥感が見て取れる。もちろん、もっと上を目指す彼にはこんなところでミソをつけたくないっていう打算もあるのだろうけれど。

「いいか! ここで町を見捨てれば俺達はカルゴシアの一員じゃなくなるんだ! もうこの町を拠点に冒険者を続けるなんてできなくなる。それでもいいのか!?」

 しかしセゴーさんのこの言葉にもやはり冒険者たちの動きは重い。そこら中から小さい声でざわめきが聞こえる。

「命あってこそだろ」
「英雄になって死んで、意味があるのかよ」
「よその町に逃げるのが正解だぜ」

 これが冒険者の真の姿だったなんて……私は幻滅した。もう、私達だけでも戦いに行くべきなのかもしれない。アンセさんとアルグスさんが居れば、モンスターごとき……

「お前ら……それでも冒険者……」
「そもそもだ!」

 セゴーさんの言葉に冒険者の一人が言葉を重ねた。

「お前は誰なんだよ!! 昨日までのセゴーと別人じゃねえか!! 最近この町はおかしいんだよ! こんなわけ分かんねえ町のために命はれるかってんだ!!」

 そこを突かれるとセゴーさんも痛い。言葉に詰まってしまう。一方冒険者達は口々に不満を口にし始める。モンスターと戦う前にここで喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。

 その時、私のすぐ横でドンッと、テーブルを力強く叩く音が聞こえた。

 振り向くと、その音の主はアンセさんだった。

「乙女のごたる……」
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