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死の道
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「安全が確保出来たら呼んでくれ。俺も行くからよ」
瓦礫の道に手をかけたアルグスさんにドラーガさんはそう声をかけた。
まただ。もうわざと怒らせようとしているとしか思えない。というかそれはいつもの事でもあるんだけど。
アルグスさんはドラーガさんを睨みつけてから、身をかがめて瓦礫の道を進んでいく。アンセさんはもちろん、クオスさんまでも戸惑いながらもアルグスさんについていく。最後に私も瓦礫の道に入って、その場にはイリスウーフさんとドラーガさんだけが残された。
「冒険者の生活っていうのは、この瓦礫の道みたいなもんだ」
小さい声で、アルグスさんがそう呟いた。
「一度足を踏み入れれば、行くも戻るも一筋縄じゃ行かない。でも進まないと目的の物は手に入らない。
誰かが、先ずは行ってみなきゃいけないんだ」
危険なのは分かる。でもアルグスさんの行動は間違っていないと思う。
「そういう時に、先頭を立って歩く人間になりたいと、僕は思ってきた……誰かが行かなきゃいけないなら」
「まさかとは思うけど、安全が確保出来たら本当にドラーガを呼ぶつもり?」
アンセさんが若干不機嫌な口調で尋ねる。しばし沈黙の中、ごそごそと動く衣服と荷物の音、そしてアルグスさんのアーマーや盾が岩にぶつかる音だけが聞こえる。
「……もちろんだ。ドラーガは、仲間だからな」
まあ。
だからこその『勇者』なんだろうな。癪に障るけど。
「あと二十メートルくらいだと思います。音の反響からして」
クオスさんの言葉に少し希望が見えて来たけれど、それを打ち消したのは他の誰でもない、アルグスさんだった。
「……だが、今回ばかりはドラーガのいう事が正しかったかもしれない」
ギィン、という金属音が聞こえた。見れば、いつの間にかアルグスさんがショートソードを抜いている。みんなが影になって見えないけれど、まさか誰かの攻撃を受けている!?
その後も断続的に聞こえる金属音。私達は完全に足が止まってしまっている。やはり敵がいた。
最後尾の私は後ろを振り返る。今からでも戻って体勢を整えなおした方がいいかもしれない、そう思ったのだが、何と最後尾のはずの私の後ろにも人影が見えた。
「へへっ、らしくはねえんだがよ、俺にもバカがうつっちまったみてえだ」
「どっ、ドラーガさん……」
気恥ずかしそうに鼻を擦って視線を逸らすドラーガさんの姿がそこにはあった。
こっ……このタイミングで来るか……
「やっぱり……俺も冒険者なんだな……仲間を見捨てる事なんて……」
「すっ、すぐに引き返してください!!」
「な、なんでだよ……せっかく来たのに」
よりによってこのタイミングで!?
このどんくさい男が私達の隊列に蓋をしてしまって後ろに戻ることができない! しかも一人ずつしか通れない通路は誰も先頭を援護することができず、戦えるのはアルグスさんだけ!
「短槍か! よく考えている!!」
アルグスさんの声が聞こえる。いくら敵の用意した土俵とはいえアルグスさんと互角に渡り合うなんてどんな手練れかと思ったけどそういうことか。細い通路の中短槍で突かれ続けたら防戦一方にならざるを得ない。
「しかもこの狭い空間じゃトルトゥーガが投げられない! こちらをよく知った上での僕に的を絞った罠だったとは!! マッピ! 引き返すんだ!!」
敵の攻撃をひたすらいなしながらアルグスさんが叫ぶ。私は振り返ってドラーガさんの顔を見る。
……なんか汗かいてる?
「マッピ……」
「ドラーガさん、聞こえましたよね? 引き返して……」
「荷物が引っかかって身動きとれん。引っ張ってくれ」
こっ……
このクソ野郎……
アホのドラーガはあのデカい荷物を背負ったまま瓦礫の道に入り、詰まって身動き取れなくなっていた。
「どうしたんだ、マッピ! 早く引き返すんだ!!」
「ど、ドラーガさんが道に詰まって、身動き取れないんです!!」
「なっ……!?」
誰もが言葉を失う。沈黙の中、激しい金属音だけが聞こえてくる。
「アンセさん! 前にテューマさん達に使った突風の魔法で一気に出口まで全員を吹き飛ばして……」
しかし私の苦し紛れの提案は即座に却下された。
「無理よ! 空気の入り道がないから突風を吹かせることができない! 炎は危険すぎて使えないし……」
まずい。万事休すだ。有効な攻撃手段が何もない。
「マッピ! 回復を頼む!!」
「え!? まさか怪我を!?」
私は急いで狭い通路の中クオスさんと入れ替わってなるべくアルグスさんに近づく。この距離でも回復魔法は出来るけどなるべくなら状況を把握して近くで治療した方がいい筈、しかしアンセさんも追い抜こうとして詰まってしまった。この人おっぱいがでかすぎるのよ!!
「怪我はこれからするんだよ!!」
その後に鈍い音。「ぐっ」というアルグスさんの押し殺した声。反対側からで見えないけどまさか……私は何とかアンセさんをパスしてアルグスさんの後ろまで来た。
「おおっ!」
「ぎゃあっ!?」
アルグスさんの気合の入った声と共に敵の悲鳴が聞こえた。モンスターじゃない、普通の人間の声だ。
「腹を刺された! マッピ、回復を!!」
まさか!? この人わざと腹を刺されて敵の手槍を奪ったの!? 無茶苦茶する!!
しかし私は気を落ち着けてすぐに後ろからアルグスさんの怪我に回復魔法をかける。ここまでくれば大分状況も把握できる。敵は若い男性。手首を切り落とされて武器を失っている。普通の人間だ。何故私達を狙うのか。
「いつでも回復魔法を使えるように! 一気に進むぞ!!」
そう言ってアルグスさんはまたも無謀に突き進もうとする。まだ敵が隠し武器を持っているかもしれないのに! しかし敵の若い男は両手を広げて、なんとアルグスさんに抱きついてきた。これは一体!?
「ふぐっ……」
「ぐあっ!? 味方ごと!? なんて奴らだ!!」
まさか!? また状況がよく見えないけれど、どうもさらにその奥にいた人間が若い男ごと剣で貫いてアルグスさんを刺したみたいだ! こちらも向こうも無茶苦茶な戦い方だ。
「ヒール!」
すぐさま私はアルグスさんだけを回復させる。
「くそっ、この死体をどうにかしないと!!」
アルグスさんの悲痛な声が聞こえる。それと同時にズッ、と剣を引き抜く音も聞こえる。もう一度刺す気だ。
手前の若い男は手槍で仕留められなければ最初からわざと殺されてアルグスさんの動きを封じるつもりだった? しかも後ろの敵も味方ごとアルグスさんを攻撃することに躊躇がなかった。この人たちは一体命を何だと思ってるんだ!
「……万物の始まりたる炎の精霊よ……」
さらにその奥からは女性の声で魔法の詠唱が聞こえる。まさか味方ごと焼き払うつもり!?
こんな閉所で炎魔法を使われたらとても躱せない。直撃しなくても輻射熱で燃やされ、酸素も失い、確実に皆殺しにされてしまう。もう時間がない。いや、これはもう、『詰み』なのでは……
「……先に謝っとく。ごめんな、マッピ」
アルグスさんの謝罪の声が聞こえた。
まさか、『勇者』アルグスが生き延びることを諦めるなんて。
私の冒険が、ここで幕を閉じるなんて……
瓦礫の道に手をかけたアルグスさんにドラーガさんはそう声をかけた。
まただ。もうわざと怒らせようとしているとしか思えない。というかそれはいつもの事でもあるんだけど。
アルグスさんはドラーガさんを睨みつけてから、身をかがめて瓦礫の道を進んでいく。アンセさんはもちろん、クオスさんまでも戸惑いながらもアルグスさんについていく。最後に私も瓦礫の道に入って、その場にはイリスウーフさんとドラーガさんだけが残された。
「冒険者の生活っていうのは、この瓦礫の道みたいなもんだ」
小さい声で、アルグスさんがそう呟いた。
「一度足を踏み入れれば、行くも戻るも一筋縄じゃ行かない。でも進まないと目的の物は手に入らない。
誰かが、先ずは行ってみなきゃいけないんだ」
危険なのは分かる。でもアルグスさんの行動は間違っていないと思う。
「そういう時に、先頭を立って歩く人間になりたいと、僕は思ってきた……誰かが行かなきゃいけないなら」
「まさかとは思うけど、安全が確保出来たら本当にドラーガを呼ぶつもり?」
アンセさんが若干不機嫌な口調で尋ねる。しばし沈黙の中、ごそごそと動く衣服と荷物の音、そしてアルグスさんのアーマーや盾が岩にぶつかる音だけが聞こえる。
「……もちろんだ。ドラーガは、仲間だからな」
まあ。
だからこその『勇者』なんだろうな。癪に障るけど。
「あと二十メートルくらいだと思います。音の反響からして」
クオスさんの言葉に少し希望が見えて来たけれど、それを打ち消したのは他の誰でもない、アルグスさんだった。
「……だが、今回ばかりはドラーガのいう事が正しかったかもしれない」
ギィン、という金属音が聞こえた。見れば、いつの間にかアルグスさんがショートソードを抜いている。みんなが影になって見えないけれど、まさか誰かの攻撃を受けている!?
その後も断続的に聞こえる金属音。私達は完全に足が止まってしまっている。やはり敵がいた。
最後尾の私は後ろを振り返る。今からでも戻って体勢を整えなおした方がいいかもしれない、そう思ったのだが、何と最後尾のはずの私の後ろにも人影が見えた。
「へへっ、らしくはねえんだがよ、俺にもバカがうつっちまったみてえだ」
「どっ、ドラーガさん……」
気恥ずかしそうに鼻を擦って視線を逸らすドラーガさんの姿がそこにはあった。
こっ……このタイミングで来るか……
「やっぱり……俺も冒険者なんだな……仲間を見捨てる事なんて……」
「すっ、すぐに引き返してください!!」
「な、なんでだよ……せっかく来たのに」
よりによってこのタイミングで!?
このどんくさい男が私達の隊列に蓋をしてしまって後ろに戻ることができない! しかも一人ずつしか通れない通路は誰も先頭を援護することができず、戦えるのはアルグスさんだけ!
「短槍か! よく考えている!!」
アルグスさんの声が聞こえる。いくら敵の用意した土俵とはいえアルグスさんと互角に渡り合うなんてどんな手練れかと思ったけどそういうことか。細い通路の中短槍で突かれ続けたら防戦一方にならざるを得ない。
「しかもこの狭い空間じゃトルトゥーガが投げられない! こちらをよく知った上での僕に的を絞った罠だったとは!! マッピ! 引き返すんだ!!」
敵の攻撃をひたすらいなしながらアルグスさんが叫ぶ。私は振り返ってドラーガさんの顔を見る。
……なんか汗かいてる?
「マッピ……」
「ドラーガさん、聞こえましたよね? 引き返して……」
「荷物が引っかかって身動きとれん。引っ張ってくれ」
こっ……
このクソ野郎……
アホのドラーガはあのデカい荷物を背負ったまま瓦礫の道に入り、詰まって身動き取れなくなっていた。
「どうしたんだ、マッピ! 早く引き返すんだ!!」
「ど、ドラーガさんが道に詰まって、身動き取れないんです!!」
「なっ……!?」
誰もが言葉を失う。沈黙の中、激しい金属音だけが聞こえてくる。
「アンセさん! 前にテューマさん達に使った突風の魔法で一気に出口まで全員を吹き飛ばして……」
しかし私の苦し紛れの提案は即座に却下された。
「無理よ! 空気の入り道がないから突風を吹かせることができない! 炎は危険すぎて使えないし……」
まずい。万事休すだ。有効な攻撃手段が何もない。
「マッピ! 回復を頼む!!」
「え!? まさか怪我を!?」
私は急いで狭い通路の中クオスさんと入れ替わってなるべくアルグスさんに近づく。この距離でも回復魔法は出来るけどなるべくなら状況を把握して近くで治療した方がいい筈、しかしアンセさんも追い抜こうとして詰まってしまった。この人おっぱいがでかすぎるのよ!!
「怪我はこれからするんだよ!!」
その後に鈍い音。「ぐっ」というアルグスさんの押し殺した声。反対側からで見えないけどまさか……私は何とかアンセさんをパスしてアルグスさんの後ろまで来た。
「おおっ!」
「ぎゃあっ!?」
アルグスさんの気合の入った声と共に敵の悲鳴が聞こえた。モンスターじゃない、普通の人間の声だ。
「腹を刺された! マッピ、回復を!!」
まさか!? この人わざと腹を刺されて敵の手槍を奪ったの!? 無茶苦茶する!!
しかし私は気を落ち着けてすぐに後ろからアルグスさんの怪我に回復魔法をかける。ここまでくれば大分状況も把握できる。敵は若い男性。手首を切り落とされて武器を失っている。普通の人間だ。何故私達を狙うのか。
「いつでも回復魔法を使えるように! 一気に進むぞ!!」
そう言ってアルグスさんはまたも無謀に突き進もうとする。まだ敵が隠し武器を持っているかもしれないのに! しかし敵の若い男は両手を広げて、なんとアルグスさんに抱きついてきた。これは一体!?
「ふぐっ……」
「ぐあっ!? 味方ごと!? なんて奴らだ!!」
まさか!? また状況がよく見えないけれど、どうもさらにその奥にいた人間が若い男ごと剣で貫いてアルグスさんを刺したみたいだ! こちらも向こうも無茶苦茶な戦い方だ。
「ヒール!」
すぐさま私はアルグスさんだけを回復させる。
「くそっ、この死体をどうにかしないと!!」
アルグスさんの悲痛な声が聞こえる。それと同時にズッ、と剣を引き抜く音も聞こえる。もう一度刺す気だ。
手前の若い男は手槍で仕留められなければ最初からわざと殺されてアルグスさんの動きを封じるつもりだった? しかも後ろの敵も味方ごとアルグスさんを攻撃することに躊躇がなかった。この人たちは一体命を何だと思ってるんだ!
「……万物の始まりたる炎の精霊よ……」
さらにその奥からは女性の声で魔法の詠唱が聞こえる。まさか味方ごと焼き払うつもり!?
こんな閉所で炎魔法を使われたらとても躱せない。直撃しなくても輻射熱で燃やされ、酸素も失い、確実に皆殺しにされてしまう。もう時間がない。いや、これはもう、『詰み』なのでは……
「……先に謝っとく。ごめんな、マッピ」
アルグスさんの謝罪の声が聞こえた。
まさか、『勇者』アルグスが生き延びることを諦めるなんて。
私の冒険が、ここで幕を閉じるなんて……
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