41 / 211
火口投下刑
しおりを挟む
「はぁ~、食った食った。まずい飯だったぜ」
からん、と木のスプーンを食器の中に投げ入れてドラーガさんはふてぶてしく呟く。
いやまあそれは今いい。それよりもなんて? イリスウーフさん、「ドラーガに会いたくって」? このいい加減男にまた会いたい? それは何の冗談ですか?
ドラーガさん以外の全員が唖然とした表情をしている。
「ドラーガさんに……会いたい? それは、助けてくれたから? それともまさか男女の仲的な意味で……?」
クオスさんが今にもこめかみの血管が破裂しそうなイラついた表情で尋ねる。凄くメンチ切ってるよ。怖いよ。
「そ……それも……ある」
イリスウーフさんは顔を真っ赤にして目をつぶって、恥ずかしそうに頷く。マジなの? この人のどこに好きになる要素があるっていうの? クオスさんといいイリスウーフさんといい、なんでドラーガさんこんなに女の人にモテるの!?
やっぱりアレか? 何の根拠もなくとも自信満々な人ってそれだけで魅力的に見えるんだろうか。私は彼の本当の姿を知ってるから恋になんて落ちないけど。いや、クオスさんも真の姿を知ってるのか……ううむ。
「ドラーガは、私を助けてくれると言ってくれた。こんな罪深い私を……」
「ああ? 罪を犯した奴は助けちゃいけないってのか!?」
なんでそこでキレるんだよこのボンクラ賢者。
「それに敵の魔法使いにも勇敢に立ち向かって、危機を脱してくれた……格好良かった……」
格好良かったか?
というか勇敢に立ち向かってたかなあ……私はなんか、土下座してたように記憶しているんだけど。どうやらイリスウーフさんと私では若干認識している世界に齟齬があるようだ。まあそれはこの際どうでもいい。私はそれよりも聞きたいことがある。イリスウーフさんに。
「イリスウーフさんが出てきた部屋、あそこでいったい何が行われていたんですか?」
「さあ……?」
おっといきなり当てが外れたぞ。
てっきりあの部屋が四天王の本拠地かなんかで、テューマさん達と悪だくみでもしてたんだろうと予想してたんだけど、あの部屋から出てきたイリスウーフさんが何も知らないとは完全に予想外だった。
「ええっと、人間か魔族か……なんかそんな人たちがいませんでしたか? あの部屋……」
聞き方を少し変えてみる。誘導しちゃうと質問者の聞きたいような答えになっちゃうから本来は尋問するときには良くないことなんだけど、どうやらイリスウーフさん記憶が曖昧みたいなので仕方ない。
「ああ……魔族の人がいたわ。何人か。あの人たちの目的は多分……野風だと思うの」
「『野風』とは、魔剣野風のことか?」
それまで聞き手に徹していたアルグスさんが言葉を挟んだ。だが当然それは、この場にいる誰もが(ドラーガさん除く)気になっていることだ。人形使いクラリスはイリスウーフさんの事を「ドラゴニュートの姫」と言っていた。それはつまり、彼女こそが三百年前の伝説の竜人族の姫、そして魔剣野風の所有者だという事ではないだろうか。
「魔剣……そう言われているのかどうかは知らないけれど、争いを収め、死を呼び込む魔道具よ……あれは、人の手には余る代物だわ」
イリスウーフさんは少し悲しそうな表情をして、アルグスの顔をまっすぐに見据え、再び口を開いた。
「あなたも、野風を手に入れたいの? あれを手に入れて、いったいどうするつもりなの?」
そう言われてアルグスさんは考え込んでしまう。正直言って冒険者に「なぜダンジョンに潜るのか」と尋ねるのと同じだ。ホント言うと私だって魔剣をどうしたいのかなんて考えていない。ただ、竜人族の姫の伝説を知りたかっただけ、というのが本音だ。
売って金にするのか、領主にでも献上して覚えめでたくなればそれもいいかもしれない。アルグスさんはスッと右手を差しだし、彼女の問いかけに答えた。
「冒険者の求める物は、名誉、金……でも僕はそんなものには興味はない」
では、アルグスさんは何のために冒険者に……? アルグスさんは差しだした手をグッと握る。
「そこに在るのに触れられない。僕の知らないことを他の誰かが知っている。……この世界にまだ誰も見たことのない物がある……それが、僕には我慢ならないんだ」
彼は握った手を自分の引き寄せて、その手のひらを開いて、眺めながら言う。
「僕はこの世界に生まれた……なら、持てる力の全てを駆使して、僕の見られる場所、全てを見たい、知りたいんだ。いつかあの空の向こうの星を、掴んでみたい。傲慢だろうか」
最後の言葉はアジトの天井を見つめながらだった。きっと彼の瞳は、屋根ではなくその向こう、満天の星空を見つめているのだろう。
「傲慢にもほどがあんだろ」
間髪入れずに言葉を挟んだのは興味なさげに聞いていたドラーガさんだった。
「星は遠くにあるから綺麗なんだよ! 知ってみりゃきっと幻滅するぜ? なにごとも『ほどほど』が肝心だ」
どうなんだろう? アルグスさんの答えは冒険者としては正しいものだと感じられた。むしろ冒険者とは本来そうあるべきものだと思うくらいだ。日々の生活に追われ、一獲千金を夢見て、金勘定ばかり上手くなる冒険者が多い中、彼みたいに純粋に冒険を楽しむのは、とても純粋で、そして貴重なように感じられたけど、でもまあ、ドラーガさんの言いたいことも少しは分かる。
「欲しいもんはもっと絞れ。人の手に掬えるのはせいぜいが両掌に収まる程度の物だ。勇者だからって調子に乗ってんじゃねえぞ」
賢者だからって調子に乗ってる人の言葉とは思えないけど。
「ドラーガは何が欲しいの?」
くすっと笑ってイリスウーフさんが尋ねる。
「俺はそんな大層なもんはいらねぇ。人は、日にパン二つとスープが少しありゃあ十分さ……」
ああ腹立つ。
このセリフだけ聞くと格好いいんだけどアルグスさん達を騙して高額なギャランティーをせしめてる詐欺師のセリフだと知ってるからめちゃめちゃ腹立つ。
「……ですがやはり、野風は誰にも渡せません」
イリスウーフさんの言葉にみんなの視線が集中した。そう言うということは、やはり彼女は魔剣野風の在処を知っているという事を白状したに同じ事。
「あの魔道具は、カルゴシアの町を滅ぼし、そこに住む全ての人々を消し去りました。その罪によって、私は火口投下刑に処されたのです」
からん、と木のスプーンを食器の中に投げ入れてドラーガさんはふてぶてしく呟く。
いやまあそれは今いい。それよりもなんて? イリスウーフさん、「ドラーガに会いたくって」? このいい加減男にまた会いたい? それは何の冗談ですか?
ドラーガさん以外の全員が唖然とした表情をしている。
「ドラーガさんに……会いたい? それは、助けてくれたから? それともまさか男女の仲的な意味で……?」
クオスさんが今にもこめかみの血管が破裂しそうなイラついた表情で尋ねる。凄くメンチ切ってるよ。怖いよ。
「そ……それも……ある」
イリスウーフさんは顔を真っ赤にして目をつぶって、恥ずかしそうに頷く。マジなの? この人のどこに好きになる要素があるっていうの? クオスさんといいイリスウーフさんといい、なんでドラーガさんこんなに女の人にモテるの!?
やっぱりアレか? 何の根拠もなくとも自信満々な人ってそれだけで魅力的に見えるんだろうか。私は彼の本当の姿を知ってるから恋になんて落ちないけど。いや、クオスさんも真の姿を知ってるのか……ううむ。
「ドラーガは、私を助けてくれると言ってくれた。こんな罪深い私を……」
「ああ? 罪を犯した奴は助けちゃいけないってのか!?」
なんでそこでキレるんだよこのボンクラ賢者。
「それに敵の魔法使いにも勇敢に立ち向かって、危機を脱してくれた……格好良かった……」
格好良かったか?
というか勇敢に立ち向かってたかなあ……私はなんか、土下座してたように記憶しているんだけど。どうやらイリスウーフさんと私では若干認識している世界に齟齬があるようだ。まあそれはこの際どうでもいい。私はそれよりも聞きたいことがある。イリスウーフさんに。
「イリスウーフさんが出てきた部屋、あそこでいったい何が行われていたんですか?」
「さあ……?」
おっといきなり当てが外れたぞ。
てっきりあの部屋が四天王の本拠地かなんかで、テューマさん達と悪だくみでもしてたんだろうと予想してたんだけど、あの部屋から出てきたイリスウーフさんが何も知らないとは完全に予想外だった。
「ええっと、人間か魔族か……なんかそんな人たちがいませんでしたか? あの部屋……」
聞き方を少し変えてみる。誘導しちゃうと質問者の聞きたいような答えになっちゃうから本来は尋問するときには良くないことなんだけど、どうやらイリスウーフさん記憶が曖昧みたいなので仕方ない。
「ああ……魔族の人がいたわ。何人か。あの人たちの目的は多分……野風だと思うの」
「『野風』とは、魔剣野風のことか?」
それまで聞き手に徹していたアルグスさんが言葉を挟んだ。だが当然それは、この場にいる誰もが(ドラーガさん除く)気になっていることだ。人形使いクラリスはイリスウーフさんの事を「ドラゴニュートの姫」と言っていた。それはつまり、彼女こそが三百年前の伝説の竜人族の姫、そして魔剣野風の所有者だという事ではないだろうか。
「魔剣……そう言われているのかどうかは知らないけれど、争いを収め、死を呼び込む魔道具よ……あれは、人の手には余る代物だわ」
イリスウーフさんは少し悲しそうな表情をして、アルグスの顔をまっすぐに見据え、再び口を開いた。
「あなたも、野風を手に入れたいの? あれを手に入れて、いったいどうするつもりなの?」
そう言われてアルグスさんは考え込んでしまう。正直言って冒険者に「なぜダンジョンに潜るのか」と尋ねるのと同じだ。ホント言うと私だって魔剣をどうしたいのかなんて考えていない。ただ、竜人族の姫の伝説を知りたかっただけ、というのが本音だ。
売って金にするのか、領主にでも献上して覚えめでたくなればそれもいいかもしれない。アルグスさんはスッと右手を差しだし、彼女の問いかけに答えた。
「冒険者の求める物は、名誉、金……でも僕はそんなものには興味はない」
では、アルグスさんは何のために冒険者に……? アルグスさんは差しだした手をグッと握る。
「そこに在るのに触れられない。僕の知らないことを他の誰かが知っている。……この世界にまだ誰も見たことのない物がある……それが、僕には我慢ならないんだ」
彼は握った手を自分の引き寄せて、その手のひらを開いて、眺めながら言う。
「僕はこの世界に生まれた……なら、持てる力の全てを駆使して、僕の見られる場所、全てを見たい、知りたいんだ。いつかあの空の向こうの星を、掴んでみたい。傲慢だろうか」
最後の言葉はアジトの天井を見つめながらだった。きっと彼の瞳は、屋根ではなくその向こう、満天の星空を見つめているのだろう。
「傲慢にもほどがあんだろ」
間髪入れずに言葉を挟んだのは興味なさげに聞いていたドラーガさんだった。
「星は遠くにあるから綺麗なんだよ! 知ってみりゃきっと幻滅するぜ? なにごとも『ほどほど』が肝心だ」
どうなんだろう? アルグスさんの答えは冒険者としては正しいものだと感じられた。むしろ冒険者とは本来そうあるべきものだと思うくらいだ。日々の生活に追われ、一獲千金を夢見て、金勘定ばかり上手くなる冒険者が多い中、彼みたいに純粋に冒険を楽しむのは、とても純粋で、そして貴重なように感じられたけど、でもまあ、ドラーガさんの言いたいことも少しは分かる。
「欲しいもんはもっと絞れ。人の手に掬えるのはせいぜいが両掌に収まる程度の物だ。勇者だからって調子に乗ってんじゃねえぞ」
賢者だからって調子に乗ってる人の言葉とは思えないけど。
「ドラーガは何が欲しいの?」
くすっと笑ってイリスウーフさんが尋ねる。
「俺はそんな大層なもんはいらねぇ。人は、日にパン二つとスープが少しありゃあ十分さ……」
ああ腹立つ。
このセリフだけ聞くと格好いいんだけどアルグスさん達を騙して高額なギャランティーをせしめてる詐欺師のセリフだと知ってるからめちゃめちゃ腹立つ。
「……ですがやはり、野風は誰にも渡せません」
イリスウーフさんの言葉にみんなの視線が集中した。そう言うということは、やはり彼女は魔剣野風の在処を知っているという事を白状したに同じ事。
「あの魔道具は、カルゴシアの町を滅ぼし、そこに住む全ての人々を消し去りました。その罪によって、私は火口投下刑に処されたのです」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる