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チェスト2

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 外見はただのネクラな少女ではあるが……当然ながら普通の少女のはずはないとは思っていた。しかしこのゴーレムの数は、予想の範疇をはるかに超えている。

 私達は三十体ほどのゴーレムを前に一塊に集まる。狙いを絞られて危険なのかもしれないが、それ以上にこの多勢に無勢の状態で散開などできるはずがない。五人のうち、ゴーレムに対して有効な攻撃を放てるのはアルグスさんとアンセさん、それにクオスさんの三人だけなのだから。

「ねえ、しょ、正直に言っちゃいなよ。イリスウーフをどこにやったの……? 魔石はあげてもいいけど、イリスウーフはあげられないのよ」

「なんであいつにそこまで固執するんだ? 冥途の土産に聞かせてくれよ」

 ドラーガさんが尋ねる。本当に冥途の土産と思っているのか、それともまだ助かるがあるけど、あわよくばで情報を集めようとしているのか。

「だ、だめだめ。ガスタルデッロにきつく言われてるんだから。誰が相手でも情報出しちゃだめって。
 あ、あなた達面白いからここで殺したくないなぁ……妥協してよ。イリスウーフなんてあなた達には関係ないでしょう?」

「なるべく話を引き延ばして時間稼ぎして」

 小声でアンセさんがそう呟いた。もしかしてさっき闇の幻影を一撃でたおしたみたいに強力な魔法を使うための魔力を練るんだろうか。何か、何か話をして引き延ばさないと。

「お……おいくつなんですか、あなたは……?」

 やっちまった。

 我ながらなんてどうでもいい質問をしてしまったんだ。これじゃドラーガさんを笑えない。でも、核心に迫るような内容は話してくれないし、じゃあどんな話題がいいのかって言ったら……思いつかなかったんだもん!

「……い、いくつにみえる?」

 乗ってきた。

 マジかこの女。

 この話題に乗るのか。でもまあ、正直言うと年齢も少し気になる。随分若く見えるけれど、確か七聖鍵って私が子供の頃から有名な冒険者パーティーだ。その歴史ある冒険者のパーティーになぜこんなうら若い少女がいるんだろう、とは気になっていた。

「じゅ、十五歳くらい……ですか?」

「いや~ん♡」

 私が年齢予測をすると、クラリスは顔を真っ赤にして袖の中の手で顔を覆って恥ずかしそうに顔を振った。なんなんだこのリアクション。

「み、見えちゃう? そんなに若く見えちゃう?」

 若く見られたのが相当嬉しかったようだ。場末のキャバクラかここは。

「わ、私ね? これでも三百歳越えてるのよ?」

「ええっ!?」

 まさかの三百歳越え。エルフは五百年以上生きるって聞いたことあるけど、それでも三百歳と言ったらもう中年の域をはるかに超えているはず。見た目が少女なのにその年齢って、ちょっと聞いたことのない種族だ。

「嘘でしょう!? その外見で三百越えって!?」

 この言葉に一番驚いたのはアンセさんだった。

「うふふ……ほ、ホントよ? 私、不老不死の術を使ってるから……」

「ふ、不老不死!? 不死だけじゃなくて不老も? 本当に? どんな技術で!?」

 アンセさんアンセさん、魔法はどうなったんですかアンセさん。今アンセさんのために時間稼ぎしてるんですけど? 

「んふふ~、それは言えなぁい♡ あっ、そうだ。わ、私達の仲間になるなら、ふ、不老不死にしてあげてもいいわよ?」

「マジで!?」

 どんだけ年齢気にしてるんですかアンセさん。魔女って不老長命じゃないんですか。

「ま……マジか……不老不死……不老……マジで、不老不死に……? 若返りとかは……」

「若返りも当然できるわよ♡」

本気マジッ!?」

 このパーティーもうダメかもしんない。 

 普通パーティーの中で魔導士っていうのは頭脳担当でもある。熱くなったパーティーの中でもただ一人冷静に状況判断をしなければならない。魔法というのは環境の影響を強く受けるせいでもある。火の魔法は風向きを考えたり、ダンジョン内のガスなどにも気を払う必要があるし、風は状況によっては全く無意味になる。

 そう言った周囲の判断と共に運用しなければいけない関係上、魔導士は斥候と並んでパーティーの頭脳と呼ばれるんだけど、アンセさんって、なんかこう……いざとなると力押しで物事を切り抜けるきらいがある気がする。

「おい」

 そう考えているとドラーガさんが呆れ顔でアンセさんに話しかけた。さすが空気を読まない男。

「お前が時間稼ぎしろって言ったんだろうが。会話に参加してどうすんだ」

 言うなバカ!

「じ、時間稼ぎ?  いひひ、会話に夢中になってる間に魔力でも練るつもりだったの……?」 

 まあ、その魔力を練る人が一番会話に夢中だったんですけどね。

「しょ、しょうがないなあ……せっかく助け舟を出してあげたのに……もう面倒くさい、殺してイリスウーフを探すことにするわ」

 クラリスはそう言ってバックステップすると、右手を上げる。それと同時に私達を囲んでいたゴーレム達が一斉に動き出す。アンセさんは必死で魔力を集中させ始める。もう遅いよ。

「出来るだけ時間を稼ぐ。頼むぞ、アンセ」

 アルグスさんが一歩前に出て、同時にクオスさんも弓矢を構える。私はいつでも回復呪文を使えるように準備をし、ドラーガさんは指のささくれを弄り始める。

「トルトゥーガ!!」

 アルグスさんの盾の縁に刃が現れ、回転を始める。ほぼ時を同じくしてゴーレムたちが襲い掛かってくるが、やはりアルグスさんの方が何枚も上手。激烈な回転と共に周囲を縦横無尽にトルトゥーガが奔り、周囲のゴーレムを土くれに変える。

 一体、また一体と、ではない。一度のストロークで複数のゴーレムを破壊し、その勢いを殺さずに連続して攻撃を繰り出す様はさながら強力な結界のよう。アルグスさんのオールディレクション攻撃にゴーレム達は次々と破壊され、打ち漏らしはクオスさんのヴァルショットで破壊し、それでもまだ諦めずに覆いかぶさろうとしてくるゴーレムは私がメイスで叩く。

 先ほどは精緻な動きを見せたゴーレムだったが、しかし今度は数が多すぎる。味方の身体が邪魔をしてまともな動きが取れず、結果質量攻撃で圧し潰そうとするのだが疾走するトルトゥーガに為す術もなく破壊されていく。しかしそれでもゴーレムは次々と襲い掛かり、しかもそれだけではない。ゴーレムの輪の外で、クラリスが次々とゴーレムを補充していくのだ。

 辺りは破壊されたゴーレムによる土煙が充満し、私達はゴーレムをそれでも破壊し続ける。しかしやはり物量が違いすぎる。これ以上はもう無理ではないか、そんな弱気に私が襲われた時だった。

「おおおおおおお!!」

 こめかみに血管の走ったアンセさんが雄叫びを上げる。間に合った! きっと彼女の魔法でゴーレムを一掃してくれるはずだ。風の魔法『チェスト』なのか、それともまだ見ぬ未知の炎の魔法か。

「チェストオオオオオオ!!」

 極大の炎の渦が、ゴーレムごとクラリスを巻き込んで辺り一帯を消し炭に変えた。
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