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キリシアの人形使い
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「『キリシアの人形使い』っていうのを知ってるか?」
リビングでのくつろぎのひと時、アルグスさんの問いかけは唐突だった。
「……七聖鍵にそんな呼び方されてるような人がいた気がするけど」
答えたのはアンセさん。七聖鍵っていうのは私も聞いたことがある。確かキリシア地方を拠点にしている冒険者で、メッツァトルと同じく数少ないSランクパーティーの一つだ。
「その人形使いがどうかしたんですか?」
私が尋ねるとアルグスさんは少し考えこんでから話し始める。
「当代最高のゴーレムマスターと名高い人物らしい。遠隔自立型であれほどの機転に富んだ行動……もし『人形使い』ならできるかも、ってふと思っただけだけど……」
私はダンジョンの中での考えに再び思いを巡らせる。
あのゴーレムは私達を落とし穴に誘い入れるための罠だった。妙に自立行動の精度が高いのも気になったけれど、もう一つ気になる点がある。
それはあの落とし穴を起動させたのが誰かという事だ。
「ゴーレムたちはあの落とし穴を起動させていないわ。体重で自然に起動したわけでもない。明らかに『誰か』がタイミングを見計らって、罠を起動させている」
クオスさんが真剣な表情でそう言う。彼女の鋭敏な五感ならゴーレムが何かしていれば気づくはずだ。
でも、パーティー5人のうち二人しか室内には入っていなかったのに落とし穴は起動した。ドラーガさんしか入っていない状態でゴーレムは殴りかかって来た。もしタイミングを見計らってたなら随分といい加減なタイミングじゃないだろうか。
「分からないか? 簡単な話だぞ」
口を挟むのはドラーガさん……どうなんだろう。この人まともな意見言えるんだろうか。身体能力と魔力はダメダメだったけれど。
「仲間がゴーレムに襲われれば必ずアルグスが助けに入ると思ったからだろう。ま、実際に助けに入ったのはマッピだったがな」
な、なるほど……
「そこで当てが外れたから、焦って犯人は罠を起動させた。するとどうなった?」
そうだ。結局アルグスさんはドラーガさんを助けるためにトルトゥーガを飛ばしたんだった。顔面レシーブしてたけど。私が助けなきゃ穴に落っこちてたけど。
「つまり、狙いは最初っから勇者アルグスだったってことさ。しかしアイツのトルトゥーガが遠距離攻撃できることは世間じゃ知られてないからな。結局部屋に入ることなく救出されちまった、ってとこだな」
「ドラーガさんは最初からそれに気づいてたから、確認のためわざと一人で室内に入っていった……?」
部屋を沈黙が支配する。
「…………?」
あれ?
「……ああうん、そうだ」
今首を傾げてましたよね? 本当にそこまで考えてました?
「仮にその推論が正しかったとしてよ?」
アンセさんは頬杖をついて尋ねる。話半分で聞いておこう、みたいな雰囲気だろうか。
「罠にかけたのは何者? 魔族? 人間? もし人間なら何の目的で?」
今開示されている情報だけでそれを割り出すことは不可能に近い。そう思ったけれど、意外にもドラーガさんは即座にその問いかけに答えた。
「冒険者だ」
まさか、同じ冒険者の犯行?
「人間ならだれでもよかった、ってんならその線は消えるが、もしアルグスを狙ってたと仮定するなら、ギルドに出入りしている人間の仕業だ」
たしかに。
ギルドに出入りしている人間ならその日に誰がどこのダンジョンに潜るかはおおよそ把握できる。ギルド側が冒険者の動向を把握するために、強制ではないものの、移動や仕事の予定を提出するように求めているからだ。
その情報は天文館に問い合わせれば簡単に知ることができる。
「目的までは分からんがな。私怨か……何か別の目的があるのか……勇者ってのは単独でもとんでもない戦力だからな」
その次にドラーガさんが発した言葉は衝撃と共に私の脳を揺さぶった。
「そして冒険者の犯行なら、間違いなくテューマの仕業だ」
全員がガバッとドラーガさんの方に振り向く。
「まっ、明日天文館に行って確認してみればわかることだ。ここでどれだけ話しても推論でしかないからな」
実際ドラーガさんの言うとおりだ。ここで話せるのはせいぜいが『可能性』について検討することくらい。でも天文館に行って確認してみればそれは明らかになる。なぜなら私達がムカフ島に行っていたのはギルドにしか情報を出していない。
冒険者の情報はどこか掲示板に張り出されるわけじゃない。それをギルド側に確認した人がいるならば、その人が犯人なんだから。
その日はあまり奥まで行けなかったとはいえダンジョンから帰ってきた疲れもあり、それぞれが部屋に戻って休みを取った。
ドラーガさんはまだお茶が残っていたようで一人澄まし顔でそれを飲んでいる。私は初の冒険が消化不良に終わってしまっていまいちすぐ眠る気になれずにリビングでぐだぐだとしていた。二人だけのリビングでお茶を飲む音だけが聞こえる。
なんてことない表情をしているけれども、もし あれが冒険者の、テューマさんの仕業だとすればとんでもないことだ。ふと、私は気になったことを彼に尋ねてみた。
「仮にアレが人間の仕業だったとして、テューマさんが犯人だと思うのは何故なんですか?」
お茶を飲む手が止まる。
「そりゃあこっちのセリフだ」
……え?
どういう意味? テューマさんの仕業だ、って言ったのはドラーガさんでは?
「何言ってんだ? カルゴシアの町で遭難したとき『テューマにつけられてる』って言ったのはお前だろう?」
え? ……いや、確かに言ったような気もするけども。え? それが根拠? どういうこと?
「つまり、理由は全然分からんがテューマが何故か俺たちを嫌ってて、害そうとしてるってことだろ? ってことは流れからしてあれはテューマ達の仕業だろう」
ちょっと……理解の範疇を越えていてよく分からないですけども……つまりですねぇ……ちょっと前にたまたまテューマさんの名前が出たから、ほぼ思いつきで彼の名前を出したってこと?
いくら何でも根拠が薄弱すぎませんかねぇ……? というかそんな適当な発言で犯人を決めつけるようなことをみんなの前で大声で言ったってこと? 無茶苦茶すぎない? というか……え? ちょっと待って。
「何言ってんだ。あのときテューマがつけてきてるって言ってたのはお前だろう。今更引っ込めるなよ」
え!? 私のせい?
リビングでのくつろぎのひと時、アルグスさんの問いかけは唐突だった。
「……七聖鍵にそんな呼び方されてるような人がいた気がするけど」
答えたのはアンセさん。七聖鍵っていうのは私も聞いたことがある。確かキリシア地方を拠点にしている冒険者で、メッツァトルと同じく数少ないSランクパーティーの一つだ。
「その人形使いがどうかしたんですか?」
私が尋ねるとアルグスさんは少し考えこんでから話し始める。
「当代最高のゴーレムマスターと名高い人物らしい。遠隔自立型であれほどの機転に富んだ行動……もし『人形使い』ならできるかも、ってふと思っただけだけど……」
私はダンジョンの中での考えに再び思いを巡らせる。
あのゴーレムは私達を落とし穴に誘い入れるための罠だった。妙に自立行動の精度が高いのも気になったけれど、もう一つ気になる点がある。
それはあの落とし穴を起動させたのが誰かという事だ。
「ゴーレムたちはあの落とし穴を起動させていないわ。体重で自然に起動したわけでもない。明らかに『誰か』がタイミングを見計らって、罠を起動させている」
クオスさんが真剣な表情でそう言う。彼女の鋭敏な五感ならゴーレムが何かしていれば気づくはずだ。
でも、パーティー5人のうち二人しか室内には入っていなかったのに落とし穴は起動した。ドラーガさんしか入っていない状態でゴーレムは殴りかかって来た。もしタイミングを見計らってたなら随分といい加減なタイミングじゃないだろうか。
「分からないか? 簡単な話だぞ」
口を挟むのはドラーガさん……どうなんだろう。この人まともな意見言えるんだろうか。身体能力と魔力はダメダメだったけれど。
「仲間がゴーレムに襲われれば必ずアルグスが助けに入ると思ったからだろう。ま、実際に助けに入ったのはマッピだったがな」
な、なるほど……
「そこで当てが外れたから、焦って犯人は罠を起動させた。するとどうなった?」
そうだ。結局アルグスさんはドラーガさんを助けるためにトルトゥーガを飛ばしたんだった。顔面レシーブしてたけど。私が助けなきゃ穴に落っこちてたけど。
「つまり、狙いは最初っから勇者アルグスだったってことさ。しかしアイツのトルトゥーガが遠距離攻撃できることは世間じゃ知られてないからな。結局部屋に入ることなく救出されちまった、ってとこだな」
「ドラーガさんは最初からそれに気づいてたから、確認のためわざと一人で室内に入っていった……?」
部屋を沈黙が支配する。
「…………?」
あれ?
「……ああうん、そうだ」
今首を傾げてましたよね? 本当にそこまで考えてました?
「仮にその推論が正しかったとしてよ?」
アンセさんは頬杖をついて尋ねる。話半分で聞いておこう、みたいな雰囲気だろうか。
「罠にかけたのは何者? 魔族? 人間? もし人間なら何の目的で?」
今開示されている情報だけでそれを割り出すことは不可能に近い。そう思ったけれど、意外にもドラーガさんは即座にその問いかけに答えた。
「冒険者だ」
まさか、同じ冒険者の犯行?
「人間ならだれでもよかった、ってんならその線は消えるが、もしアルグスを狙ってたと仮定するなら、ギルドに出入りしている人間の仕業だ」
たしかに。
ギルドに出入りしている人間ならその日に誰がどこのダンジョンに潜るかはおおよそ把握できる。ギルド側が冒険者の動向を把握するために、強制ではないものの、移動や仕事の予定を提出するように求めているからだ。
その情報は天文館に問い合わせれば簡単に知ることができる。
「目的までは分からんがな。私怨か……何か別の目的があるのか……勇者ってのは単独でもとんでもない戦力だからな」
その次にドラーガさんが発した言葉は衝撃と共に私の脳を揺さぶった。
「そして冒険者の犯行なら、間違いなくテューマの仕業だ」
全員がガバッとドラーガさんの方に振り向く。
「まっ、明日天文館に行って確認してみればわかることだ。ここでどれだけ話しても推論でしかないからな」
実際ドラーガさんの言うとおりだ。ここで話せるのはせいぜいが『可能性』について検討することくらい。でも天文館に行って確認してみればそれは明らかになる。なぜなら私達がムカフ島に行っていたのはギルドにしか情報を出していない。
冒険者の情報はどこか掲示板に張り出されるわけじゃない。それをギルド側に確認した人がいるならば、その人が犯人なんだから。
その日はあまり奥まで行けなかったとはいえダンジョンから帰ってきた疲れもあり、それぞれが部屋に戻って休みを取った。
ドラーガさんはまだお茶が残っていたようで一人澄まし顔でそれを飲んでいる。私は初の冒険が消化不良に終わってしまっていまいちすぐ眠る気になれずにリビングでぐだぐだとしていた。二人だけのリビングでお茶を飲む音だけが聞こえる。
なんてことない表情をしているけれども、もし あれが冒険者の、テューマさんの仕業だとすればとんでもないことだ。ふと、私は気になったことを彼に尋ねてみた。
「仮にアレが人間の仕業だったとして、テューマさんが犯人だと思うのは何故なんですか?」
お茶を飲む手が止まる。
「そりゃあこっちのセリフだ」
……え?
どういう意味? テューマさんの仕業だ、って言ったのはドラーガさんでは?
「何言ってんだ? カルゴシアの町で遭難したとき『テューマにつけられてる』って言ったのはお前だろう?」
え? ……いや、確かに言ったような気もするけども。え? それが根拠? どういうこと?
「つまり、理由は全然分からんがテューマが何故か俺たちを嫌ってて、害そうとしてるってことだろ? ってことは流れからしてあれはテューマ達の仕業だろう」
ちょっと……理解の範疇を越えていてよく分からないですけども……つまりですねぇ……ちょっと前にたまたまテューマさんの名前が出たから、ほぼ思いつきで彼の名前を出したってこと?
いくら何でも根拠が薄弱すぎませんかねぇ……? というかそんな適当な発言で犯人を決めつけるようなことをみんなの前で大声で言ったってこと? 無茶苦茶すぎない? というか……え? ちょっと待って。
「何言ってんだ。あのときテューマがつけてきてるって言ってたのはお前だろう。今更引っ込めるなよ」
え!? 私のせい?
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