12 / 211
調子乗んなよ
しおりを挟む
「冒険者のSランクってのがなんなのか、お前に分かるか……?」
「あ……えと、Aランクより強いってことですか?」
「フッ、分かってないな」
ダンジョン内を進みながらドラーガさんが話しかけてくる。
「いいか? ただAより強いだけなら、そのカテゴリをAにして、続くようにB、C、D……とつけていけばいいだけだ。Sってのはな、そういうのとは別ベクトルに測れない強さがあるってことだ。だから『特別』なんだ」
「はぁ……」
さいですか。
正直、今話しかけないで欲しい。
今までに入っていない新しい区画に入ったのでマッピングで忙しい。さらにトーチの魔法も維持して、慣れないダンジョンの中、周囲を警戒しながらみんなの後をついて行っている。私は今、人生最高に忙しいのだ。
「まっ、そこは一般人共はみんな勘違いしてるところだがな。そこが分かってないから……あの、なんだっけ? セゴーか? あいつらはいつまでもAランク止まりなのさ」
テューマさんです。いい加減名前覚えてください。
「もちろん一人一人の能力も高く、戦えば強いぞ? 俺も含めてな。だが、さっきのクオスの索敵能力の高さを見たろう? うちが少ないメンバーで、斥候も無しにやっていけるのは、それぞれの能力が……」
まあ、この人、暇なんだな。
そりゃそうだ。クオスさんとアルグスさんは前方の索敵に集中してるし、アンセさんは殿としてパーティーを守っている。私はトーチの魔法で明かりを灯しながら、同時にマッピングもしている。
ドラーガさんは……荷物を運んでいる。
でっかいリュックサックに、ぱんぱんに荷物を入れて、全員の分の荷物を運んでいる。……完全に、ポーターだ。ものすごく他人事目線で、パーティーを見ている。緊張感が無いというか。
「道が広くなってきているわ、横方向からも何か来ないか気を付けて下さい」
先頭のクオスさんの声が聞こえる。見れば、大分ダンジョンの雰囲気が変わってきているのに私も気づいた。
アルグスさんが、前を向いたまま私達に向けて手のひらを見せる。そのまま少し顔をこちらに向けて口の前で人差し指で封をした。
「あれはダンジョン内でのハンドサインだ。人差し指はたしか……ええと、なんだっけ」
「静かにしろ、です」
私がドラーガさんの口を押えながらそう言う。もちろんダンジョンに入る前に一通りのハンドサインは予習済み。ドラーガさんは覚えてないみたいだけど。
それはともかく、前方に何かいるということだろうか。アルグスさんとクオスさんが先頭の方でぼそぼそと喋っているけど、こちらまでは聞こえてこない。
「何かあったんですか?」
急にデカい声を出して敵に存在を知られるとか、如何にもドラーガさんがやりそうな事なので、私はドラーガさんの口を押えたまま二人の元に近づいていって小声で話しかけた。
「ちょっとこの先の様子がおかしいみたいでね……」
アルグスさんは小さい声で応えたが、いまいち状況が把握できていないようで歯切れの悪い回答だった。一方クオスさんは私の方を頭からつま先まで繰り返し顔を上下させて舐めるように見ている。何なんだろう。
「ちょっといい?」
「えっ?」
私はクオスさんに襟首を引っ張られて、近くの岩陰まで連れていかれた。10メートルくらい離れた、皆からは見えない場所。一体どうしたんだろう?
クオスさんは私を岩壁に押し付けて、壁ドンしながら睨んで言葉を放った。
「お前ホント調子乗んなよ?」
「!?」
全く予想していなかった言葉に私は固まってしまった。
聞き返そうともしたが、それよりも早くクオスさんは今度は襟首ではなく私の手を引いて皆の元に戻っていく。
「おまたせ」
「何かあったの?」
アルグスさんの問いかけにクオスさんはちらりと私の方を見てから「なんでもないわ」と笑顔で応えた。これはつまり「何もなかったよな」と私に言っているということだ。
普段温厚で笑顔でいるだけにさっきの豹変ぶりは恐怖でしかなかった。というか、私の何がクオスさんの琴線に触れたのか。そこが分からないとまたなんかやらかしちゃうかもしれないし、その『やらかし』にアルグスさんは気付いてないみたいだったし。
「ちょっと作戦を考えないといけないですね」
ああ、次の話に移行しちゃった。
クオスさんが言うにはこの先いくつかに道が分かれているらしく、その道の一つにちょっとした小部屋があるそうだ。
「誰か住んでんのか?」
ドラーガさんが突拍子のないことを言う。
「そのとおりです」
しかしクオスさんの応えは意外なものだった。住んでいる? このダンジョンの中に誰かが? しかしよくよく考えてみればそこまで不思議な事でもないのかもしれない。
実際このダンジョンに住んでいるモンスターたちがそこから出てきて付近の村を襲ったりしているし、さっき倒したゴブリン達だってここに住んでいる住人なんだから。
他にも外の町で暮らせない無頼漢、例えば野盗なんかがアジトにしてる可能性だってある。
「中にいるのは3人、足音からして、とても人間とは思えない重さよ」
つまりモンスターの可能性が高いと。私はアルグスさんの顔を見上げる。
「さて、どうするかな……人間の可能性は低いが、モンスターだとしても敵対的でない可能性だってゼロじゃない」
当然ながら、戦闘を最も有利に進めるコツは、『奇襲』だ。相手にコンタクトをとるということはそれを放棄することになる。
ゴブリンのように知能が低く攻撃的なモンスターは倒すしかないけれど、トロールのように知能の高い相手ならば敵と味方、どちらに転ぶかは会って話してみないと分からない。そこは人間と同じだ。問答無用で攻撃を仕掛けるのは戦術的には正しくても戦略的には問題がある。
「アルグス、まさか正面から真正直に接触するつもりじゃないでしょうね?」
それまで沈黙を守っていたアンセさんが口を開いた。魔法職はパーティーの頭脳。さすが、こういう時は頼りになる。
「奇襲をかけるにしろ接触をとるにしろ、十分に敵の事と周辺の地形を調べてからの方がいいわ。異論はないわね?」
「あ……えと、Aランクより強いってことですか?」
「フッ、分かってないな」
ダンジョン内を進みながらドラーガさんが話しかけてくる。
「いいか? ただAより強いだけなら、そのカテゴリをAにして、続くようにB、C、D……とつけていけばいいだけだ。Sってのはな、そういうのとは別ベクトルに測れない強さがあるってことだ。だから『特別』なんだ」
「はぁ……」
さいですか。
正直、今話しかけないで欲しい。
今までに入っていない新しい区画に入ったのでマッピングで忙しい。さらにトーチの魔法も維持して、慣れないダンジョンの中、周囲を警戒しながらみんなの後をついて行っている。私は今、人生最高に忙しいのだ。
「まっ、そこは一般人共はみんな勘違いしてるところだがな。そこが分かってないから……あの、なんだっけ? セゴーか? あいつらはいつまでもAランク止まりなのさ」
テューマさんです。いい加減名前覚えてください。
「もちろん一人一人の能力も高く、戦えば強いぞ? 俺も含めてな。だが、さっきのクオスの索敵能力の高さを見たろう? うちが少ないメンバーで、斥候も無しにやっていけるのは、それぞれの能力が……」
まあ、この人、暇なんだな。
そりゃそうだ。クオスさんとアルグスさんは前方の索敵に集中してるし、アンセさんは殿としてパーティーを守っている。私はトーチの魔法で明かりを灯しながら、同時にマッピングもしている。
ドラーガさんは……荷物を運んでいる。
でっかいリュックサックに、ぱんぱんに荷物を入れて、全員の分の荷物を運んでいる。……完全に、ポーターだ。ものすごく他人事目線で、パーティーを見ている。緊張感が無いというか。
「道が広くなってきているわ、横方向からも何か来ないか気を付けて下さい」
先頭のクオスさんの声が聞こえる。見れば、大分ダンジョンの雰囲気が変わってきているのに私も気づいた。
アルグスさんが、前を向いたまま私達に向けて手のひらを見せる。そのまま少し顔をこちらに向けて口の前で人差し指で封をした。
「あれはダンジョン内でのハンドサインだ。人差し指はたしか……ええと、なんだっけ」
「静かにしろ、です」
私がドラーガさんの口を押えながらそう言う。もちろんダンジョンに入る前に一通りのハンドサインは予習済み。ドラーガさんは覚えてないみたいだけど。
それはともかく、前方に何かいるということだろうか。アルグスさんとクオスさんが先頭の方でぼそぼそと喋っているけど、こちらまでは聞こえてこない。
「何かあったんですか?」
急にデカい声を出して敵に存在を知られるとか、如何にもドラーガさんがやりそうな事なので、私はドラーガさんの口を押えたまま二人の元に近づいていって小声で話しかけた。
「ちょっとこの先の様子がおかしいみたいでね……」
アルグスさんは小さい声で応えたが、いまいち状況が把握できていないようで歯切れの悪い回答だった。一方クオスさんは私の方を頭からつま先まで繰り返し顔を上下させて舐めるように見ている。何なんだろう。
「ちょっといい?」
「えっ?」
私はクオスさんに襟首を引っ張られて、近くの岩陰まで連れていかれた。10メートルくらい離れた、皆からは見えない場所。一体どうしたんだろう?
クオスさんは私を岩壁に押し付けて、壁ドンしながら睨んで言葉を放った。
「お前ホント調子乗んなよ?」
「!?」
全く予想していなかった言葉に私は固まってしまった。
聞き返そうともしたが、それよりも早くクオスさんは今度は襟首ではなく私の手を引いて皆の元に戻っていく。
「おまたせ」
「何かあったの?」
アルグスさんの問いかけにクオスさんはちらりと私の方を見てから「なんでもないわ」と笑顔で応えた。これはつまり「何もなかったよな」と私に言っているということだ。
普段温厚で笑顔でいるだけにさっきの豹変ぶりは恐怖でしかなかった。というか、私の何がクオスさんの琴線に触れたのか。そこが分からないとまたなんかやらかしちゃうかもしれないし、その『やらかし』にアルグスさんは気付いてないみたいだったし。
「ちょっと作戦を考えないといけないですね」
ああ、次の話に移行しちゃった。
クオスさんが言うにはこの先いくつかに道が分かれているらしく、その道の一つにちょっとした小部屋があるそうだ。
「誰か住んでんのか?」
ドラーガさんが突拍子のないことを言う。
「そのとおりです」
しかしクオスさんの応えは意外なものだった。住んでいる? このダンジョンの中に誰かが? しかしよくよく考えてみればそこまで不思議な事でもないのかもしれない。
実際このダンジョンに住んでいるモンスターたちがそこから出てきて付近の村を襲ったりしているし、さっき倒したゴブリン達だってここに住んでいる住人なんだから。
他にも外の町で暮らせない無頼漢、例えば野盗なんかがアジトにしてる可能性だってある。
「中にいるのは3人、足音からして、とても人間とは思えない重さよ」
つまりモンスターの可能性が高いと。私はアルグスさんの顔を見上げる。
「さて、どうするかな……人間の可能性は低いが、モンスターだとしても敵対的でない可能性だってゼロじゃない」
当然ながら、戦闘を最も有利に進めるコツは、『奇襲』だ。相手にコンタクトをとるということはそれを放棄することになる。
ゴブリンのように知能が低く攻撃的なモンスターは倒すしかないけれど、トロールのように知能の高い相手ならば敵と味方、どちらに転ぶかは会って話してみないと分からない。そこは人間と同じだ。問答無用で攻撃を仕掛けるのは戦術的には正しくても戦略的には問題がある。
「アルグス、まさか正面から真正直に接触するつもりじゃないでしょうね?」
それまで沈黙を守っていたアンセさんが口を開いた。魔法職はパーティーの頭脳。さすが、こういう時は頼りになる。
「奇襲をかけるにしろ接触をとるにしろ、十分に敵の事と周辺の地形を調べてからの方がいいわ。異論はないわね?」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あなたに何されたって驚かない
こもろう
恋愛
相手の方が爵位が下で、幼馴染で、気心が知れている。
そりゃあ、愛のない結婚相手には申し分ないわよね。
そんな訳で、私ことサラ・リーンシー男爵令嬢はブレンダン・カモローノ伯爵子息の婚約者になった。
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、pixivにも投稿中。
※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。
※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる