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天文館

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「この『天文館』でパーティー登録するんですね……」

 目の前には木造の3階建て、堂々としたつくりの大きな建物がそびえたっている。

 前回、閉じこもって出てこないドラーガさんを引きずり出そうとするアルグスさんとそれを何とかなだめすかして止めようとするアンセさんの間で、まあなんやかんやあって、結局私は回復魔法と補助魔法の腕を買われて試験をパスし、メッツァトルの正式なメンバーとして認められた。

「と、いうことでだ」

 エスコートしていたドラーガさんが私の方を振り向いて話しかける。

「この、カルゴシアの冒険者ギルドの本拠地、『天文館』でパーティー登録をする」

「それ今私が言いましたよ」

 すごい、この人全く人の話聞いてない。

 しかしまあそんなこんなで、私とドラーガさんは冒険者ギルドに来て、私を正式にSランクパーティ『メッツァトル』のメンバーとして登録することになった。

 ここまでにも語られている通り、冒険者のメンバーを横暴な雇用者やリーダーから守るために組合ギルドが存在するので、パーティーのメンバーというのはギルドに登録されているものが正式な扱いになる。

 木製の重厚なドアを開けて私達は建物の内部に入る。中にはむくつけき男ども。当然少しは女性もいるものの、やはり冒険者ぼっけもんは男社会。私もここに入るのは別に初めてじゃないけれど、何度入ってもこの雰囲気は慣れない。

 しかしドラーガさんはそんなことに一切気を払うことなくずんずんと前に進んでいく。こういう時は鋼のメンタルのドラーガさんが一緒にいると頼もしい。

 なぜ他の人たち、アルグスさん達がおらず、ドラーガさんと私だけなのかというと、まあ、正直言って他の人たちは次のダンジョン攻略の戦略を練るので忙しいからで、新人の私とドラーガさんはいても意味がないだろう、と。

 それと、もう一つ。

『マッピ、君がこのパーティーで生きていくにあたって、最も重要なのがこのパーティーを知ることだ。そしてこのパーティーを知る、とはつまり、ドラーガのポンコツぶりを知る、ってことだ。パーティー登録という試練を通じて、それを肌で感じ取ってくれ!』

 パーティー登録が……試練……? 正直言ってアルグスさんが言ったことの意味がよく分からなかったけれど、とにかく私はドラーガさんと二人で天文館を訪れたのだった。

「よう、セゴー! パーティー登録だ!」

 カウンターからまだ5メートル以上離れてる上にカウンターに並んでいる人が2名ほどいるにもかかわらずドラーガさんは大声でそう話しかける。相変わらずすごい。
 しかも今カウンターにいる人って……

「えと、セゴーさんは奥にいますけれど……あと、御用の方は並んでください」

 カウンターに立って並んでいる冒険者の方に対応していた受付の人、三つ編みの女性、身長は私と同じくらいか、胸は大きめのかわいらしい人だ。

 対してセゴーさんは、この天文館のギルドマスター、私も冒険者登録の試験やクラス判定の時に立ち会ってもらったから知ってるけど、元冒険者ぼっけもんで筋骨隆々のスキンヘッドの大男。

 そう、男なのだ。普通は間違いようがない。この人、何を基準に人を認識してるんだろうか。早くも不安になってきた。

「奥だな! よし分かった! 上か!?」

 そう言ってドラーガさんは受付から少し離れた階段をずんずんと上がっていく。

「えっ? ちょっ、え? ドラーガさん!?」

 『御用の方は並んで』って言われたにもかかわらずドラーガさんは受付嬢を無視して進む。受付嬢さんは一瞬彼を呼び止めようと、軽く手を上げたけど、諦めて小さいため息をついた。

 私は恐縮して受付嬢さんの方にぺこり、と謝り、ドラーガさんの後をついていく。

 ヤバい。

 この人相当ヤバい。

 まだ建物に入っただけなのに、何も要件をこなしていないのに、それだけでヤバさがぷんぷん伝わってくる。

 そもそも本当に受付に並ばずに、直接ギルドマスターのところに行ってもいいんだろうか。それはSランクパーティーのメッツァトルだから許されること? それともドラーガさんには何言っても通じないからもう皆諦めてて許されること?

 ……なんとなく、後者の様な気がした。

 さらに言うなら、どちらにしろ別に許されてはいないような気もする。

 いや、もうそんなことはどうでもいい。私はぶんぶんと首を振りながら階段を上る。

 どうなっているのか、そしてこれから何が起こるのか。黙っていてもそれはもうすぐに分かるのだ。それに、どっちみち私が何か言ったところでこのドラーガさんが話を聞くとは思えない。

 2階に上がったドラーガさんは階段の一番近くにあった部屋のドアに手をかける……けど、あれ? ドアの上のところに『資材置き場』って書いてあるような……

 がちゃ、とドアを開けると、やはりそこはほこりをかぶった黒板や簡易的な椅子などが並んだ資材置き場だった。……いったいなにを……

「違ったか」

 ドラーガさんは即座に隣の部屋のドアを開ける。

 え? この人、もしかして……

 次に開けた部屋は小会議室だった。当然誰もいない。

 その後もドラーガさんは次々と手当たり次第にドアを開け、そのたびに「あれ?」とか「ここも違うか」とかぶつぶつ言っている。ああ、この人セゴーさんの部屋がどこかも分かってないのに適当にしらみつぶしに探すつもりだ。

 っていうか、本当に2階なのかどうかも怪しいわ。

「お?」

 しかししばらくするとドラーガさんはある部屋のドアを開けて中を確認した状態で何かを見つけたようだった。

 というか、ドアの上に『ギルドマスター執務室』と書かれている。最初っから表札見ればよかったんじゃん。まさかとは思うけどこの人字が読めないってことはないよね? 賢者が字が読めないとか言われたらさすがの私も対処のしようがない。

「ゲッ!?」

「久しぶりだな、セゴー! 来てやったぞ!!」

 ドアの中からは嫌そうな声が聞こえたけど、ドラーガさんは遠慮なしにどんどん部屋に入っていく。私も「失礼します」と言いながら部屋に入るとスキンヘッドの大男、セゴーさんがデスクに着席して何やら事務仕事をしていた。

「てめえ一体何の用で来やがった。アルグスたちはともかくお前は2階にあがるなって言ったはずだよな」

 なんと、まさかの出禁を受けていた。

 ドラーガさんはセゴーさんの言葉を無視してデスクの横にスッと移動してそのまま黙ってしまった。

「何の用だって聞いてんだよ! おい! ドラーガ! 答えろ!!」

「…………」

 まさか……

「おい! ……ん?」

 セゴーさんは直立不動のままお地蔵さん状態になってしまったドラーガさんから視線を外し、私の方を睨んだ。

「なんだ、お前?」

 このやろう……最悪のタイミングでバトン渡しやがった。
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