鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
上 下
5 / 211

入団試験

しおりを挟む
「そんなことがあったんですか……」
 
 ほんの一週間前、このS級パーティーで起こっていた追放劇……というのも少しおかしいか、正確に言うと追放未遂劇。
 
 私はメッツァトルのリーダー、勇者アルグスさんからその一部始終を教えてもらって、ようやくこの異様な空気、ドラーガさんが喋るたびに微妙な雰囲気になる理由を知ることができた。
 
 私がアルグスさんの目を見ると、アルグスさんも真っ直ぐに見返してくる。アルグスさんの端正な顔立ち、その中心にある真っ直ぐなまなざしが、それが冗談ではなく、事実であったのだと物語ってくる。
 
「つまり、『賢者』ドラーガ・ノートさんがパーティーの足を引っ張るため追放しようとしたんだけど、組合の力が強く、明確な背任行為などがないとそれができない、っていうことなんですよね?」
 
 私がアルグスさんに尋ねると彼はこくりと頷いた。アンセさんとクオスさんも神妙な面持ちで静かに頷いた。
 
 にわかには信じがたい話だけど、組合によって冒険者の生活が支えられるとともに、時としてこういう障りもあるのか。私はちらりと視線を外した。
 
 そして、最も信じがたいのは……
 
「ハハハ、まあ過去の話だ。お前が気にすることじゃないさ、マッピ」
 
 特に自室にこもったりして席を外すこともなく、普通に今の話を平気な顔してドラーガさんが横で聞いているということだ。どういうメンタルしてるんだこの人。ちょっとは気にしろ。
 
「ということでね。悪いけれど、いくら貴重なヒーラーと言っても、実技試験もなく仲間に入れることはできないのよ。『前例』があるからね! いくらかわいい女の子だからってそこはしっかりやるわよ、いいわね?」
 
 憎々し気な視線をドラーガさんに向けながらアンセさんがそう言った。私は少し赤面してしまう。アンセさんみたいな綺麗な『大人の女性』に『かわいい』なんて言われると、言葉の綾だとしても照れてしまう。
 
「『かわいい』ってのは言葉の綾だからな?」
 
 うるせーこのやろう。
 
 即座にいらない補足を入れたドラーガさんに私は心の中で突っ込む。うん、まあ、ここまでの流れだけ見ても、この人ホントに『いらん一言』を言う人だな。
 
 けど、そこでふと私の脳裏には一つの疑問が沸き上がった。
 
「あのぅ……ドラーガさんが加入した時には実技試験とかやらなかったんですか? 面接だけで加入を決めてしまったんですか?」
 
 私がその質問を発すると、やはりまた一様に思い空気が場を支配した。しまった、聞いてはいけない質問だったんだろうか。でも気になる。それに命を預ける仲間を選ぶのに実力を全く見ないなんてことがあるんだろうか。
 
「まあ、いろいろあったんだよ……」
 
 アルグスさんが重い口を開いてゆっくりと話し始めた。
 
 それは、1年ほど前の事だったという。
 
 
――――――――――――――――
 
 
「えっと、じゃ、じゃあ、キミがドラーガ・ノートさんで間違いないんだね?」
 
 緊張を隠しきれていない口調で僕、アルグスはメッツァトルの拠点を訪ねてきた男に訪ねた。声がかすれてしまう。
 
 正直言ってこういった、全く知らない人をパーティーに迎えるのは初めてだ。今までのメンバーは元々知り合いだったり、そのメンバーが連れてきたり、知り合いの紹介だったりといったものだったので、こうしてギルドを通して面接をするなんてなかったからだ。
 
「いかにも」
 
 その、バンダナをした長髪の男は腕を組んで椅子に座ったまま、落ち着いた態度で頷いた。面接される側なのにえらいデカい態度だとは思ったが、しかしむしろその時の僕にはこの堂々たる態度は頼もしくも感じたし、それだけの態度が許される人物だと思っていた。
 
 なぜなら……
 
「その、ギルドの資料だとクラスが『賢者』とあるけど、これは本当なんだよね?」
 
 その男、ドラーガは大げさに両手を広げて「ハッ」と笑って答えた。
 
「おいおい、ギルドの資料を疑うのか? それとも俺が文書偽造をしたとでも?」
 
 そう、ギルドの文書は公文書ではないものの、偽造すれば重罪となる信憑性を持つ確かなものだし、『クラス』もまた偽ることはできない。なぜなら、クラスは自己申告でも試験があるわけでもない。自動で判別されるからだ。
 
 各地のギルドの中でも比較的大きな拠点には『クラス判別』のための、魔力の込められた銅板タブレットが存在する。それは当然僕たちの滞在するカルゴシアの町にあるギルド拠点、『天文館』にも存在して、それが判別ミスをすることは決してないからだ。
 
 銅板に手を当ててギルドの職員が呪文を唱えると判別が始まる。例えば賢者なら「格闘と魔法どちらが得意か」「攻撃魔法は使えるか」「回復魔法は使えるか」などをフローチャート式に次々と内部で自動的に判別されゆく。
 
 賢者の主な特徴としては、『魔法を使って戦闘する』『攻撃魔法が使える』『回復魔法が使える』『補助魔法が使える』『複数の属性魔法を別々に同時に制御できる』などがある。
 
 特に最後の条件が厳しく、これこそ『賢者の証明』であるとも言われる条件であり、これをクリアして『賢者』の称号を受けたものは歴史上数人しかいないとか。手前味噌で悪いが、僕の『勇者』と同じくらいレアなクラスだ。
 
「疑うわけじゃないけど、『勇者』がいるパーティーともなると寄生して甘い汁を吸おうなんて奴も多いのよ。気を悪くしないで」
 
 隣にいたアンセがそう言った。まあ、本人の僕からは言いづらいけど、つまりそういうことだ。そして、このパーティーに迎える初めての回復職が賢者というのも正直言って少しできすぎた話だから、最初から疑ってかかってたのだ。
 
「ちっちっち……」
 
 ドラーガがおどけるようにしながら右手の人差し指を立て、自分のこめかみのあたりで左右に振りながら目をつぶって話す。
 
「疑り深いねえ……実に臆病だ……」
 
 一瞬バカにするようなことを言って言い逃れするつもりなのかと思ったが、違った。ドラーガが目を開けると人差し指の先にボッ、と火が灯った。
 
「だがその臆病さがいい! 死地で生き残るのは常に臆病者だ。俺から見て、あんたたちはどうやらのようだな」
 
 その言葉を聞いた時、僕にはバカにするような話し方への怒りよりも、驚きの方が大きかった。
 
 試していたのは僕たちの方だったはずなのに、実は僕たちが試されていたのか、という事態に畏怖の念すら覚えたからだ。
 
 しかし魔法の炎は指先で小さく灯っているだけ。正直言ってこの程度の魔法ならちょっと優秀な子供でもできる。そう思って僕が口を開きかけた時だった。
 ドラーガは次に中指を立てた。
 
「欲しいのは賢者の証か? それとも俺の力か?」
 
 今度は中指の先に白銀の、球状の光が灯る。
 
「これは……間違いない、聖属性の魔法……ッ!!」
 
 アンセが震えながらそう呟いた。攻撃魔法と回復魔法、そしてそれらを同時に扱える。賢者の証だ。しかも話に聞けば普通はもっと離れた場所、たとえば右手と左手で発動させるというのに、人差し指と中指という、極めて近い場所で同時に発動させている。こんな高等技術は伝承の中ですら聞いたことがない。
 
「アルグス、勇者と賢者が揃えばこの世界に解けない謎はない」
 
 次に薬指を立てて、魔法を発動した。小さな風切り音と共に細かい塵やほこりが渦巻くのが見える。今度は風魔法だ。三属性の同時発動。こんなのは聞いたこともない。
 
「俺とお前で世界の謎を全て解き明かし、この世界をクソ退屈なものに変えてやろうぜ」
 
 ドラーガは最後に小指を立てた。指の先にポツン、と小さい水の玉が現れ浮いている。水属性。
 
「うそ!? 火と水の属性を同時に発動させるなんて! 人間業じゃない!!」
 
 アンセは冷や汗を流しながら恐怖に震えている。反対属性を同時に扱えるものなのか、その実力は魔法にあまり精通していない僕でも十分に理解できた。
 
 ドラーガは全ての魔法を消すとパンパンと両手を叩いた。
 
「まっ、ざっとこんなもんさ」
 
 ドラーガ・ノートは足を組んで座ったまま。汗一つかいていなかった。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

処理中です...