鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
上 下
2 / 211

S級パーティーに居座る謎の男

しおりを挟む
「ふぁぁ、緊張するぅ……ここが『メッツァトル』のアジトか……」
 
 大陸の南部にあるカルゴシアの町。そのさらに町はずれにある小さな小屋。夏の盛りも過ぎて少し過ごしやすくなった昼の日の光に照らされるドアに、私は深呼吸をしてからノックした。
 入室を促す声が聞こえてから、私はおずおずと、ゆっくりドアを開けて中に入る。
 
「し、失礼します……ギルドで応募した、マッピです」
 
「おお! 来てくれたのか!」
 
 小屋の中にはまず大きなテーブルがあり、そこに4人の男女が着席していた。奥の部屋に続くドアもいくつかあるのでおそらくそちらは個人の寝室か何かなのだろう。
 
 私はすぐに視線をテーブルに戻した。椅子から立ち上がりながら私の声に応えてくれたのは細身の爽やかなイケメン男性。部屋の中にいてもまだまぶしいと感じるほどの美しく柔らかい金髪の外見だ。噂どおりなら、多分この人は……
 
「よろしく、僕の名前はアルグス。兵種クラスは『勇者』だ」
 
 そう言いながら握手するべく手を差し伸べてくる。
 
 やっぱり!
 
 噂の勇者だ。どんな強大な敵にも決して心折れず立ち向かう『戦士のアルグス』の二つ名で知られる勇者様。憧れの勇者様を目の前にして私は思わず固まってしまう。勇者様は「ああ」と言いながら困ったように所在なさげに手をぷらぷらさせながら笑っている。
 
 自分が呆けてしまっていたことに気付いて私はすぐに勇者様の手を両手でとって固く握手をしてぶんぶんと上下に振った。
 
「よっ、よろしくお願いします!!」
 
「あはは、ちょ、ちょっと気が早いかな……まだ面接で、正式に仲間になったわけじゃないから……」
 
 勇者様がそう言うと周りから柔らかい笑いの声が聞こえた。ちょっと先走りすぎてしまった。私がSランク冒険者パーティー、『メッツァトル』に入れるかどうかは今日の面接にかかってるんだ。
 
「アーッハッハッハッハ、これが若さって奴か」
 
 その時、ひときわ大きな声で、テーブルの一番奥、上座、っていうのかな? ともかくそこに座っていたロン毛にバンダナの男性が笑いながらそう言った。あまりに大きな声だったんで私は思わずびっくりして黙ってしまったけど、他の人達の表情からも笑みが消え、一瞬で小屋の中はしん、と静まった。
 
 異様な雰囲気に私がドギマギしていると、どこかから「チッ」と舌打ちの音が聞こえた。
 
「私はアンセ・クレイマーよ。兵種クラスはウィッチ。よろしくね。」
 
 まるで今のやり取りが存在しなかったかのように勇者様の反対側に座っていたザ・大人の女性、って感じのセクシーな、見るからに魔導士、って感じのマントと、トンガリ帽子に身を包んだ黒髪の女性がそう自己紹介をしてくれた。それにしてもすごい胸の大きさだ。これは1メートル越えあるかも。チューブトップの衣装で大胆にその胸を強調していて、胸元のホクロがまたなんともセクシーだ。
 
 年齢に反して胸が小さく、『わきまえボディ』だとか『どっち側から話しかければいいのか迷う』だとか言われてた私からすれば凄く羨ましい。
 思わず私は自分の胸を押さえて、妬みと、憧れの入り混じった表情で彼女の胸を見つめてしまう。
 
 その視線に気づいたのか、アンセさんは困ったようにクスッと笑う。
 
「その年でそれじゃ成長は期待できんな。ハハハ!」
 
 またも奥に座っている、ゆったりとしたローブを来た男が大声を上げる。それと同時に一瞬で空気が重苦しくなる。
 
「はぁ……」
 
 誰かのため息が聞こえた。ついでに舌打ちも聞こえた。なんなんだろう、この空気は。
 
「私ははクオス。兵種クラスはアーチャーです。よろしくね」
 
 やっぱり何事もなかったかのように彼の発言はスルーされ、上座に座っている『例の人』を除けば『最後の一人』が自己紹介を始めた。しかしまるで『例の人』は存在しないかのような扱いを受けている。この人は一体何なんだろう。別に、私だけに見えている人、とかではないと思うんだけど……いや、それはともかくクオスさんの自己紹介だ。
 
 クオスさんは特徴的な外見で、小屋に入った時から少し気になっていた。だぼっとした感じの手先にまでかかるくらいのゆったりした長袖を着ていて、天使のような中性的で美しい顔立ちはとても冒険者とは思えない。きれいなプラチナブロンドの髪は肩にかかるくらいの長さ。


 アンセさんに比べると結構胸は控えめかな……それでも私よりはあるけど。でも特徴的なのはその耳。横にピン、と伸びた大きな耳。


 初めて見た。この女の人、エルフだ。


「うふふ、エルフは初めて見るのかな? 緊張してます?」
 
 そう言ってクオスさんは屈託ない笑顔で、イスの上でぷらぷらと脚を振っている。その姿はまるで幼子のようだ。


 実際彼女の言うとおりエルフは深い森の中に住んでいて人里に降りてくることはほとんどないという。いったいどういう経緯でそれがパーティーに加わったのか。これが勇者の人徳というものなんだろうか。
 
「これで……」
 
 私は室内を見渡しながら口を開く。
 
「これで、メンバーは……全員なんですか?」
 
 まだ「例の人」の自己紹介も終わってないけど、でもしれにしても気になる。大陸最強と名高いメッツァトルのメンバーがたったの4人なんて少数精鋭だとしても少なすぎる。
 
 Aランク以上のパーティーだと総人数二桁も珍しくないし、通常は1軍、2軍、そして直接探索に参加しないサポートメンバーがいることも多い。
 
 何より今紹介された中にはスカウトや、トラップ解除をするシーフ、工兵がいない。もしかして「例の人」がそうなんだろうか。
 
しかしその言葉を発した瞬間、パーティーの空気が少し重くなった気がした。どういうことだろう? 私は困惑して疑問符を浮かべるが、アルグスさんが静かなトーンで口を開いた。
 
「本当は……もう一人メンバーがいたんだけどな……」
 
  勇者様が小さい声でそう呟いた。その言葉を聞いた瞬間私は『しまった』と思った。やってしまった。危険な冒険者の生活、無事ばかりとは限らない。常に死と隣り合わせの生活なんだ。
 私が触れたのはまさにセンシティブな話題だった。もう一人仲間がいたけど、命を落としてしまったんだ、と気づいた。
 
私は俯いて泣きだしそうになってしまう。
 
 いけない。冒険者になるっていうのはそういうことなんだから、と、分かっていてもやっぱり自分の無遠慮さに自己嫌悪になっていると、大きな笑い声が聞こえた。
 
「ハハハ、まあ、いなくなった奴の事なんか気にするな! 冒険者ってのはそんなもんさ!」
 
 テーブルの上座に座っていた、ロン毛にバンダナの、例の男の人だ。勇者様を差し置いて上座に座っているということは、メッツァトルの影のリーダーとか、もしやそんな感じ? と思っていると、次々と舌打ちが辺りから聞こえた。本当に、どういう立ち位置なんだろう、この人は。
 
 ロン毛の人はテーブルに手を置いて、少し前傾になって握手の手を伸ばしてくる。勇者様の鼻先越しに。……なんというか、配慮が少し足りない気がするけど、私はその手を取って握手をした。
 
「よろしく、俺様の名はドラーガ・ノート。兵種クラスは『荷物持ち』だ」
 
「に……荷物持ち?」
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...