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最終章 ヤクザが来たでござる

カウンセリング

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「な……何だったの、今の?」

「何が?」

 俺は光に包まれ、ホリムランド王城の客室に戻ってきた。光に包まれて、消えたり現れたりをしている点滅系勇者の俺にメスガキ系勇者のペカが驚愕の表情を見せている。

「何も起きてないが?」

 結局やっさんには何も俺の要求を伝えることは出来なかったので、俺は知らぬ存ぜぬを押し通すことにした。

「え? だって今、光に包まれたと思ったらケンジが消えて……消えたと思ったら現れて……チェンジってなんなの?」

「気のせいじゃないか? ペカ、幻でも見てたんじゃ? もしや……統合失調症なのでは?」

「えっ!? ペカも!? そんな……ペカが今まで見てたものは……すべて幻……?」

「大丈夫だ、ペカ」

 俺はペカの体を優しく抱きしめた。

「君がたとえ統合失調症でも、俺は決して君を見捨てたりはしない」

「ケンジ……ありがとお♡♡♡」

 よし、これですべて解決!

「チェンジとか言ってたから、てっきりケンジがこの世界とペカを見捨てて、どこか別のところに逃げちゃうのかとペカ思って……」

「ハハ、何言ってるんだ。俺がそんな薄情な真似するわけないだろう。愛してるよペカ」

 今度こそ解決!

 いや解決じゃないわ。エイヤレーレをどうにかしないと。とはいうものの、俺は精神科医でも何でもないんで統失の治療方法なんてわからない。

「ペカ、陛下の理解者というか、話し相手になってくれる人って、この城にはどのくらいいるの?」

「ん……ペカ、くらいかなあ?」

 よし、絶望的状況だ。とりあえずエイヤレーレの部屋に行こう。

 考えてみればエイヤレーレはこの広く冷たい石造りの巨大な城の中、幻聴や妄想の恐怖に捕われて日々生活してるんだ。話を聞いてくれる人もほとんどいない状態で。

 俺達に出来るのは、まずその不安を取り除いてやることだ。

 って言うか……本当に妄想なのか?

 まずそこから怪しくなってきた気がする。正気を失ってると思ってたエイヤレーレだけど、俺の妄想話……いや、妄想じゃない。現実にあった、女神の加護を受けて異世界を渡り歩いてるという話には戦慄してたし、やっぱり、統失なのは俺の方……?

 いや、ここで悩んでも仕方ない。俺は彼女の私室に向かって歩きながら決意を固める。とりあえずは話し合いだ。もうこの際誰が患者でもいいわ。

 ノックをしてから部屋に入ると、エイヤレーレはまた嬉しそうな表情を見せて俺とペカを迎えてくれた。若干顔が引きつってるような気もするが気にしない。

「心配かけてごめん、エイヤレーレ。お話の続きをしましょうか」

「そうね……ねぇ、ケンジは今までどんな旅をしてきたの?」

 ん? 俺の話……まあいいけど。まずは何気ない話から信頼関係を築くことが大切だからな。

「俺が最初に行った世界は、のどかな田舎でさ……」

 俺はゆっくりと語りだした。今までに経験した異世界の話を。いきなり見せつけられたドラゴンカーセックス、恥ずかしい名前の聖剣や、四足歩行をする人類の話。

 そしてサリスの話をしだすころには、エイヤレーレとペカの表情が険しくなりだした。

「陛下ぁ……いくら何でもこれは……」

「人肉食って、これは……願望なのかしら……」

「他の話も、奇想天外すぎるっていうかぁ……」

 ペカとエイヤレーレがひそひそと話してる。

「あの……俺の話が何か……?」

「なっ、何でもないわよぉ! ケンジみたいなよわよわ勇者がどんな冒険してきたのかちょっと気になってきただけよ♡ じゃあ、ケンジはその最初にいた竜が出てくる世界の出身なのぉ?」

 いまいち釈然としないが、俺はペカの問いに答える。

「いや、俺が生まれたのは、その一つ前の世界で、凄く科学技術が発達した世界だったんだ」

「へえ、科学技術が。たとえば、そうね……乗り物とかは馬車じゃないの? 何か別のものが牽いてるとか?」

 エイヤレーレが興味津々に聞いてくる。『牽く』……か。まあ、知らなければそういう発想になるよな。

「いや、乗り物自体に動力があって、燃料を入れると、鉄の塊の車が動くんだけど……」

「鉄の塊が?」

 ざわり、とペカとエイヤレーレの雰囲気が変わる。

「もっとすごいのもあるよ。何トンもある巨大な飛行機……金属の塊が、ジェットエンジンで大勢の人を乗せて空を飛んだり、スペースシャトルを打ち上げて宇宙空間にまで行って国際ステーションを築いてたり……」

 エイヤレーレとペカは戦慄した表情で互いの顔を見合わせる。

「あの……エイヤレーレ? ペカ? 今言ったのは決して妄想とかじゃなくてね? 実際に人類は科学技術の発展によって、あの空を越えて、宇宙にまで行って……」

「あっ、大丈夫! 大丈夫なのよ。決して疑ってるわけじゃないわ」

 大丈夫じゃない顔で大丈夫って言うな。

「その、ケンジは今までいろんな世界を救ってきたから、こういう、それを振り返る時間も必要なのよ♡ ペカ達がゆっくりお話聞いてあげる♡♡♡」

 あれ? これ、俺がカウンセリングされてるカンジ? どういうこと? アームストロングは、月になんて行ってなかった……? 地球は、平ら……?

 というか俺の話はどうでもいいんだよ。

「俺はエイヤレーレの話を聞きたいな。魔族は、なんで君の事を監視なんてしてるんだろうね」

「そのことなんだけど……」

 エイヤレーレもいろいろと思うところあったらしく、先日の俺との話し合いからしばらくして、自分の考えてることをゆっくりと整理し始めたらしい。

 結論から言えば魔族が狙っているという聖剣エメラルドソード。そんなものは、どこを探してもなかった。

「私……もう、自分が分からなくなってしまって……」

「大丈夫だ、エイヤレーレ」

「ペカがついてるわよ♡ 陛下♡」

 俺とペカが優しくエイヤレーレを抱きしめる。もっとロマンチックに行こうと思ったんだが、三人で抱き合ったのでスクラムみたくなってしまった。エイヤレーレはゆっくりと顔を上げ、俺の目を見つめて言う。

「私……魔王に会ってみようと思うの」

「ええっ!?」

 ペカは驚くが、しかしエイヤレーレは真剣な表情をしている。正直言えば、少し時期は早いかもしれないが、俺も彼女の意見には賛成だ。

「今まで、誰も私の話を真剣に聞いてくれなかったから、とにかくこの事実をみんなに知らせなきゃ、って必死になってたけど、ケンジが話を聞いてくれて少し冷静になったの……一回魔族側と話をして、事実関係を確認した方がいいんじゃないのか、って……」

 どうやら思っていたほどエイヤレーレの症状は重くはなかったのかもしれない。

「ペカはどう思う? 魔族側と、会談ができると思うか?」

 俺が問いかけると、ペカは難しい顔で考え込む。

「む、難しいと思う……実際魔族側と小競り合いがあるのは事実だし……宰相アグンがこんな状況で警備の人間をまわしてくれるかどうか……」

「警備なんていらないわ。こちらには二人も勇者がいるもの」

 確かに俺は実力に自信があるが、しかし一国の元首がそんな少数の護衛だけで敵の真っただ中に会談に行くなど許されるのか? 今の話だとアグンはむしろ陛下に構ってる暇なんてない、って感じみたいだが。

「大丈夫、いざとなれば私の聖剣エメラルドソードもあるわ。あれを使えば魔王なんてひょい、よ。ひょい」

 なんだよ「ひょい」って。って言うか聖剣は存在しないってさっき言ったばっかりだろうが。大丈夫かこの女。

「それにいざという時は私の子供が国を守ってくれるわ。私と、光のエルフ、エンフェッシとの間に生まれた聖なる御子が……」

 ダメだ、もう付き合いきれん。カウンセリングしてる時ならともかく、真面目な話してるときに妄想話されても困る。

「エイヤレーレ、すまないが今真面目な話をしているんだ。存在しないキミの子供の話なんて……」

「陛下の子供は存在するよ♡」

 なんだと。

「下の子のアーレム様が2歳、上の子のキラーラ様が4歳♡ 二児の母だよ♡♡」

 なんだと。
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