転生先の環境が気に入らないから6回チェンジしたらヤクザが来たでござるの巻

月江堂

文字の大きさ
上 下
24 / 53
第四章 ベルフェゴールの世界

はだかの王様

しおりを挟む
 光が収まると、俺は天窓からまばゆい光の射しこむ広間の中にいた。

 胡坐をかいて俯く俺の視界に入るのは真っ赤な絨毯。その下は……石床だろうか。硬い。中世ヨーロッパ的な世界なんだろうか。石造りの巨大な王宮、そんなところか。

 それにしてもヤル気がいまいち湧かない。当然だ。正直言って今日はもう疲れた。前の世界に飛ばされて、NTR、ヒロインの喪失、食人ホラーと経験してここだからな。

 その前から数えて今日だけで三つ目の異世界だぞ? 普通こんなのあるか? トリプルヘッダーだよ。しかしヤル気の湧かない俺にも無情に何者かの声が投げかけられる。

「お主が女神より遣わされた勇者か。苦しゅうない、面を上げい」

 中年男性の声が聞こえる。今回の召喚主か。不機嫌なまま俺はゆっくりと顔を上げ……そして目を見開いた。

 驚愕に毛穴が開く。

 鼓動が早まり、瞳孔が拡大する。

 全身の毛が逆立ち、脂汗が額に浮かぶ。

 大脳辺縁系が俺に警鐘を鳴らす。何か得体の知れないものが目の前にいる、と。

 慌てて姿勢を整える。右足は床を踏みしめ、左足は膝を床につける。奇しくも貴人への最敬礼の形をとった俺の体勢は、もちろん目の前の召喚主に敬意を表してもののではない。

 それはいつでもこの危機的状況から脱し、身を守れるようにという俺の本能だ。小脳に蓄積された身体記憶から、生き残るための術を探し始める。

 その警戒は奴の隣に立っている宰相と思しき怪しげな男でもなければ、周りを取り囲む全身鎧の近衛兵たちへの物ではない。もちろん脇に座している美しい姫でもない。

 俺を召喚した自身への警戒だ。それほどまでに異常で、恐ろしい空気がこの玉座の間を包んでいたのだ。

 広い広い玉座の間。その正面に座っている中年太りの人相の悪い王冠を被った男。

 奴は……全裸だった。

 どっしりとした大柄な体。中年男性らしくいたるところにシミがあるのが逆に恐怖感を駆り立てる。玉座に座っているので陰部は暗くなってて見えないが……というか、アレ玉座なのか?

 玉座……というには少し形状がおかしい気がする。豪華な背もたれとひじ掛けがついて、綺麗な装飾がされているが、背もたれに寄りかかってはいない。どちらかと言うと前傾姿勢に大股を開いて座っている。

 その威容は、まるで便座のよう。

 そして隣の中年女性。隣に座しているということは王妃だろうか。

 なんとこちらも全裸で大股開きだ。

 おっぱいも丸見えだが……いいのか? これ、見ても。もしかすると見てはいけないものなのでは? しかし確かに「面を上げよ」と言われたはず。俺は目を逸らすことも、その場から逃げ出すこともできずに、ただその場に震えていた。

 幸いにも、いや不幸にも? どちらなのか分からないが、そのさらに脇に座している王女と思しきうら若き乙女はちゃんと豪華なドレスを着ている。

 如何いかなることぞ。

 何故なにゆえくなる仕儀しぎ相成あいなったか。

「余の名は、コ・シュー王国第33代国王、ロロー・エイルストームである! 汝、神の使徒の召喚者なり!!」

 震えていた俺はハッとした。相手が名乗ったのだ。こちらも名乗らねば。

「わ、私は夜の森と狩りの女神ベアリスの使徒、ケンジと申します」

 正直かなりまずい。ファーストインパクトで完全に飲まれてしまっている。このの空気はロローが支配している。何とかして盛り返さないと。

「ふははは! 女神ベアリスなど聞いたこともないわ! 我らが信ずるはメタル神シグサゲアルのみ!! こいつはとんだ外れくじ……ん……んぐぉ……」

 なんだ? 急にロローの言葉が止まって苦し気に呻きだした。何が起こったというのか。魔王の攻撃か?

「んおおおぉぉぉ!!」

 ぶりぶりぶりびちゃちゃぁぁぁ……

 うんこした。

 チェンジ! チェンジチェンジチェンジ! ベアリスチェンジ!! すぐすぐ! 早くハリー早くハリーッ!!

『ダメです』

 なんでだよふざけんな!! こんなの無理に決まってんだろうが! チェンジは認められた権利だろうが!!

『ダメです。いくらなんでも早すぎます。もうちょっと見極めてからにしてください。命の危険があるわけでもないのにそんな急にチェンジは認められません』

 おめー、今の状況分かってねぇーのか!! 目の前でおっさんがうんこしたんだぞ! 命の危機だろうが!!

『ケンジさんちょっと冷静になってください。よく目の前を見てください』

 俺はベアリスの言う通り王をよく観察する。少し離れた場所にいる近衛兵が天井からぶら下がっている紐をくい、と引くと水の流れる音がした。水洗式か、この玉座。

『ね? 目の前のおっさんがうんこしただけですよ。危険はありません』

 チェ~~~~ンジ!!

『ダメ』

 いやだ、怖い。何なのこの世界。今俺の目の前で何が起こってるの。

「フン、しかしまあせっかく召喚した勇者だ。助力を願うとしよう」

 なんつー尊大な態度だ。それが人にものを頼む態度か。というか頼む、頼まない、如何に関わらずうんこしながら人と話したらアカンやろ。

 普通なら相手が王族と言えどこんな態度でお願いなんかされても突っぱねるつもりだったが、しかし俺は完全に空気に飲まれてしまった。

 目の前の男が恐ろしくてかなわない。反論も、ツッコミも、できない。

 ロローが顎でくい、と合図すると、隣の、これまた全裸の王妃が口を開いた。

「今、我らの世界の人間は存亡の危機にあります。コ・シュー王国を中心とした連合開拓団のイーストフロンティアの地に、突如として魔王軍が宣戦布告をし……」

 また突如として魔王軍の宣戦布告かよ、芸のない話だな。似たような話ばっかりだ。どうせ今回もお約束の四天王カルアミルクが出てくるんだろうけど、おんなじ展開ばっかで飽きるな。

しかし、ロローと違ってこの王妃はまだまともそうだ。全裸だけど。ロローの高圧的で尊大な態度に比べれば事務的で機械的な王妃の説明はまだ理性的で安心できる。

 普通に喋ってるだけで『安心できる』って俺もうだいぶこの世界に毒されてきてるな。

これが『空気を支配する』って事なのか。正直話してる途中でいきなりうんこしたロローには侮蔑の言葉しか浮かばないが、しかしそれで気圧されたことも事実。なんて恐ろしいんだ、うんこ。

「勇者殿には、人類に敵対する魔王を……ンンッ……」

 え? まさかまさかまさか? いやいやいやおかしいでしょ? 女の人だよ? 女の人がそんなことしちゃダメでしょ? 全裸の時点でもう相当ダメだけれども。

「んあああぁぁぁぁ!!」

 プスッ、ぶりぶりっ

 うんこしやがった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~

岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。 順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。 そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。 仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。 その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。 勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。 ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。 魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。 そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。 事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。 その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。 追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。 これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

処理中です...