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第四章 ベルフェゴールの世界
はだかの王様
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光が収まると、俺は天窓からまばゆい光の射しこむ広間の中にいた。
胡坐をかいて俯く俺の視界に入るのは真っ赤な絨毯。その下は……石床だろうか。硬い。中世ヨーロッパ的な世界なんだろうか。石造りの巨大な王宮、そんなところか。
それにしてもヤル気がいまいち湧かない。当然だ。正直言って今日はもう疲れた。前の世界に飛ばされて、NTR、ヒロインの喪失、食人ホラーと経験してここだからな。
その前から数えて今日だけで三つ目の異世界だぞ? 普通こんなのあるか? トリプルヘッダーだよ。しかしヤル気の湧かない俺にも無情に何者かの声が投げかけられる。
「お主が女神より遣わされた勇者か。苦しゅうない、面を上げい」
中年男性の声が聞こえる。今回の召喚主か。不機嫌なまま俺はゆっくりと顔を上げ……そして目を見開いた。
驚愕に毛穴が開く。
鼓動が早まり、瞳孔が拡大する。
全身の毛が逆立ち、脂汗が額に浮かぶ。
大脳辺縁系が俺に警鐘を鳴らす。何か得体の知れないものが目の前にいる、と。
慌てて姿勢を整える。右足は床を踏みしめ、左足は膝を床につける。奇しくも貴人への最敬礼の形をとった俺の体勢は、もちろん目の前の召喚主に敬意を表してもののではない。
それはいつでもこの危機的状況から脱し、身を守れるようにという俺の本能だ。小脳に蓄積された身体記憶から、生き残るための術を探し始める。
その警戒は奴の隣に立っている宰相と思しき怪しげな男でもなければ、周りを取り囲む全身鎧の近衛兵たちへの物ではない。もちろん脇に座している美しい姫でもない。
俺を召喚した王自身への警戒だ。それほどまでに異常で、恐ろしい空気がこの玉座の間を包んでいたのだ。
広い広い玉座の間。その正面に座っている中年太りの人相の悪い王冠を被った男。
奴は……全裸だった。
どっしりとした大柄な体。中年男性らしくいたるところにシミがあるのが逆に恐怖感を駆り立てる。玉座に座っているので陰部は暗くなってて見えないが……というか、アレ玉座なのか?
玉座……というには少し形状がおかしい気がする。豪華な背もたれとひじ掛けがついて、綺麗な装飾がされているが、背もたれに寄りかかってはいない。どちらかと言うと前傾姿勢に大股を開いて座っている。
その威容は、まるで便座のよう。
そして隣の中年女性。隣に座しているということは王妃だろうか。
なんとこちらも全裸で大股開きだ。
おっぱいも丸見えだが……いいのか? これ、見ても。もしかすると見てはいけないものなのでは? しかし確かに「面を上げよ」と言われたはず。俺は目を逸らすことも、その場から逃げ出すこともできずに、ただその場に震えていた。
幸いにも、いや不幸にも? どちらなのか分からないが、そのさらに脇に座している王女と思しきうら若き乙女はちゃんと豪華なドレスを着ている。
此は如何なることぞ。
何故斯くなる仕儀と相成ったか。
「余の名は、コ・シュー王国第33代国王、ロロー・エイルストームである! 汝、神の使徒の召喚者なり!!」
震えていた俺はハッとした。相手が名乗ったのだ。こちらも名乗らねば。
「わ、私は夜の森と狩りの女神ベアリスの使徒、ケンジと申します」
正直かなりまずい。ファーストインパクトで完全に飲まれてしまっている。この場の空気はロローが支配している。何とかして盛り返さないと。
「ふははは! 女神ベアリスなど聞いたこともないわ! 我らが信ずるはメタル神シグサゲアルのみ!! こいつはとんだ外れくじ……ん……んぐぉ……」
なんだ? 急にロローの言葉が止まって苦し気に呻きだした。何が起こったというのか。魔王の攻撃か?
「んおおおぉぉぉ!!」
ぶりぶりぶりびちゃちゃぁぁぁ……
うんこした。
チェンジ! チェンジチェンジチェンジ! ベアリスチェンジ!! すぐすぐ! 早く早くッ!!
『ダメです』
なんでだよふざけんな!! こんなの無理に決まってんだろうが! チェンジは認められた権利だろうが!!
『ダメです。いくらなんでも早すぎます。もうちょっと見極めてからにしてください。命の危険があるわけでもないのにそんな急にチェンジは認められません』
おめー、今の状況分かってねぇーのか!! 目の前でおっさんがうんこしたんだぞ! 命の危機だろうが!!
『ケンジさんちょっと冷静になってください。よく目の前を見てください』
俺はベアリスの言う通り王をよく観察する。少し離れた場所にいる近衛兵が天井からぶら下がっている紐をくい、と引くと水の流れる音がした。水洗式か、この玉座。
『ね? 目の前のおっさんがうんこしただけですよ。危険はありません』
チェ~~~~ンジ!!
『ダメ』
いやだ、怖い。何なのこの世界。今俺の目の前で何が起こってるの。
「フン、しかしまあせっかく召喚した勇者だ。助力を願うとしよう」
なんつー尊大な態度だ。それが人にものを頼む態度か。というか頼む、頼まない、如何に関わらずうんこしながら人と話したらアカンやろ。
普通なら相手が王族と言えどこんな態度でお願いなんかされても突っぱねるつもりだったが、しかし俺は完全に空気に飲まれてしまった。
目の前の男が恐ろしくてかなわない。反論も、ツッコミも、できない。
ロローが顎でくい、と合図すると、隣の、これまた全裸の王妃が口を開いた。
「今、我らの世界の人間は存亡の危機にあります。コ・シュー王国を中心とした連合開拓団のイーストフロンティアの地に、突如として魔王軍が宣戦布告をし……」
また突如として魔王軍の宣戦布告かよ、芸のない話だな。似たような話ばっかりだ。どうせ今回もお約束の四天王カルアミルクが出てくるんだろうけど、おんなじ展開ばっかで飽きるな。
しかし、ロローと違ってこの王妃はまだまともそうだ。全裸だけど。ロローの高圧的で尊大な態度に比べれば事務的で機械的な王妃の説明はまだ理性的で安心できる。
普通に喋ってるだけで『安心できる』って俺もうだいぶこの世界に毒されてきてるな。
これが『空気を支配する』って事なのか。正直話してる途中でいきなりうんこしたロローには侮蔑の言葉しか浮かばないが、しかしそれで気圧されたことも事実。なんて恐ろしいんだ、うんこ。
「勇者殿には、人類に敵対する魔王を……ンンッ……」
え? まさかまさかまさか? いやいやいやおかしいでしょ? 女の人だよ? 女の人がそんなことしちゃダメでしょ? 全裸の時点でもう相当ダメだけれども。
「んあああぁぁぁぁ!!」
プスッ、ぶりぶりっ
うんこしやがった。
胡坐をかいて俯く俺の視界に入るのは真っ赤な絨毯。その下は……石床だろうか。硬い。中世ヨーロッパ的な世界なんだろうか。石造りの巨大な王宮、そんなところか。
それにしてもヤル気がいまいち湧かない。当然だ。正直言って今日はもう疲れた。前の世界に飛ばされて、NTR、ヒロインの喪失、食人ホラーと経験してここだからな。
その前から数えて今日だけで三つ目の異世界だぞ? 普通こんなのあるか? トリプルヘッダーだよ。しかしヤル気の湧かない俺にも無情に何者かの声が投げかけられる。
「お主が女神より遣わされた勇者か。苦しゅうない、面を上げい」
中年男性の声が聞こえる。今回の召喚主か。不機嫌なまま俺はゆっくりと顔を上げ……そして目を見開いた。
驚愕に毛穴が開く。
鼓動が早まり、瞳孔が拡大する。
全身の毛が逆立ち、脂汗が額に浮かぶ。
大脳辺縁系が俺に警鐘を鳴らす。何か得体の知れないものが目の前にいる、と。
慌てて姿勢を整える。右足は床を踏みしめ、左足は膝を床につける。奇しくも貴人への最敬礼の形をとった俺の体勢は、もちろん目の前の召喚主に敬意を表してもののではない。
それはいつでもこの危機的状況から脱し、身を守れるようにという俺の本能だ。小脳に蓄積された身体記憶から、生き残るための術を探し始める。
その警戒は奴の隣に立っている宰相と思しき怪しげな男でもなければ、周りを取り囲む全身鎧の近衛兵たちへの物ではない。もちろん脇に座している美しい姫でもない。
俺を召喚した王自身への警戒だ。それほどまでに異常で、恐ろしい空気がこの玉座の間を包んでいたのだ。
広い広い玉座の間。その正面に座っている中年太りの人相の悪い王冠を被った男。
奴は……全裸だった。
どっしりとした大柄な体。中年男性らしくいたるところにシミがあるのが逆に恐怖感を駆り立てる。玉座に座っているので陰部は暗くなってて見えないが……というか、アレ玉座なのか?
玉座……というには少し形状がおかしい気がする。豪華な背もたれとひじ掛けがついて、綺麗な装飾がされているが、背もたれに寄りかかってはいない。どちらかと言うと前傾姿勢に大股を開いて座っている。
その威容は、まるで便座のよう。
そして隣の中年女性。隣に座しているということは王妃だろうか。
なんとこちらも全裸で大股開きだ。
おっぱいも丸見えだが……いいのか? これ、見ても。もしかすると見てはいけないものなのでは? しかし確かに「面を上げよ」と言われたはず。俺は目を逸らすことも、その場から逃げ出すこともできずに、ただその場に震えていた。
幸いにも、いや不幸にも? どちらなのか分からないが、そのさらに脇に座している王女と思しきうら若き乙女はちゃんと豪華なドレスを着ている。
此は如何なることぞ。
何故斯くなる仕儀と相成ったか。
「余の名は、コ・シュー王国第33代国王、ロロー・エイルストームである! 汝、神の使徒の召喚者なり!!」
震えていた俺はハッとした。相手が名乗ったのだ。こちらも名乗らねば。
「わ、私は夜の森と狩りの女神ベアリスの使徒、ケンジと申します」
正直かなりまずい。ファーストインパクトで完全に飲まれてしまっている。この場の空気はロローが支配している。何とかして盛り返さないと。
「ふははは! 女神ベアリスなど聞いたこともないわ! 我らが信ずるはメタル神シグサゲアルのみ!! こいつはとんだ外れくじ……ん……んぐぉ……」
なんだ? 急にロローの言葉が止まって苦し気に呻きだした。何が起こったというのか。魔王の攻撃か?
「んおおおぉぉぉ!!」
ぶりぶりぶりびちゃちゃぁぁぁ……
うんこした。
チェンジ! チェンジチェンジチェンジ! ベアリスチェンジ!! すぐすぐ! 早く早くッ!!
『ダメです』
なんでだよふざけんな!! こんなの無理に決まってんだろうが! チェンジは認められた権利だろうが!!
『ダメです。いくらなんでも早すぎます。もうちょっと見極めてからにしてください。命の危険があるわけでもないのにそんな急にチェンジは認められません』
おめー、今の状況分かってねぇーのか!! 目の前でおっさんがうんこしたんだぞ! 命の危機だろうが!!
『ケンジさんちょっと冷静になってください。よく目の前を見てください』
俺はベアリスの言う通り王をよく観察する。少し離れた場所にいる近衛兵が天井からぶら下がっている紐をくい、と引くと水の流れる音がした。水洗式か、この玉座。
『ね? 目の前のおっさんがうんこしただけですよ。危険はありません』
チェ~~~~ンジ!!
『ダメ』
いやだ、怖い。何なのこの世界。今俺の目の前で何が起こってるの。
「フン、しかしまあせっかく召喚した勇者だ。助力を願うとしよう」
なんつー尊大な態度だ。それが人にものを頼む態度か。というか頼む、頼まない、如何に関わらずうんこしながら人と話したらアカンやろ。
普通なら相手が王族と言えどこんな態度でお願いなんかされても突っぱねるつもりだったが、しかし俺は完全に空気に飲まれてしまった。
目の前の男が恐ろしくてかなわない。反論も、ツッコミも、できない。
ロローが顎でくい、と合図すると、隣の、これまた全裸の王妃が口を開いた。
「今、我らの世界の人間は存亡の危機にあります。コ・シュー王国を中心とした連合開拓団のイーストフロンティアの地に、突如として魔王軍が宣戦布告をし……」
また突如として魔王軍の宣戦布告かよ、芸のない話だな。似たような話ばっかりだ。どうせ今回もお約束の四天王カルアミルクが出てくるんだろうけど、おんなじ展開ばっかで飽きるな。
しかし、ロローと違ってこの王妃はまだまともそうだ。全裸だけど。ロローの高圧的で尊大な態度に比べれば事務的で機械的な王妃の説明はまだ理性的で安心できる。
普通に喋ってるだけで『安心できる』って俺もうだいぶこの世界に毒されてきてるな。
これが『空気を支配する』って事なのか。正直話してる途中でいきなりうんこしたロローには侮蔑の言葉しか浮かばないが、しかしそれで気圧されたことも事実。なんて恐ろしいんだ、うんこ。
「勇者殿には、人類に敵対する魔王を……ンンッ……」
え? まさかまさかまさか? いやいやいやおかしいでしょ? 女の人だよ? 女の人がそんなことしちゃダメでしょ? 全裸の時点でもう相当ダメだけれども。
「んあああぁぁぁぁ!!」
プスッ、ぶりぶりっ
うんこしやがった。
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