転生先の環境が気に入らないから6回チェンジしたらヤクザが来たでござるの巻

月江堂

文字の大きさ
上 下
2 / 53
第一章 聖剣の名のもとに

ドラゴンカーセックス

しおりを挟む
「チェ~~ンジッ!!」

 俺は力の限りにそう叫ぶ。すると俺の体は光に包まれ、次の瞬間には白亜の神殿の中にいた。

 四つん這いになって荒い息を吐き出す。

 顔を上げると、年の頃は十四歳くらいだろうか、不満そうに頬を膨らませた、美しい銀髪の少女が腰に手を当てて立っている。

「確かにチェンジしてもいいって言いましたけど……まさか本当にするなんて」

 口を尖らせて不満をあらわにするその姿は正直言って「愛らしい」以外の言葉が浮かばない。胸は大分控えめであるが、睫毛まで真っ白なその外見と儚げに映るほどの小柄で痩せた体躯はウスバカゲロウを思わせる。

 だがその可愛らしい外見に騙されちゃいけない。

 平和に日本で暮らしていた俺をいきなりこのギリシャの神殿みたいな場所に召喚して、そして「人々を救うため」とか訳分かんないことぬかして異世界に派遣してるのが、この“女神”ベアリスなんだから。

「ケンジさん本当に自分の立場分かってます? いいですか? もう一度ちゃんと説明しますからね?」

 ピン、と人差し指を顔の横に立ててどや顔で説明を始めるベアリス。くそ、やっぱりどんな表情でも可愛いな。ムカつく。

「ケンジさんの魂は特別製なんです。こんな才能を持った人間は数億、いや、数十億人に一人なんですよ? 『選ばれし者』なんですから!」

 「数十億人に一人の才能」って言うと随分レアな感じもするんだが、実際地球上に今も数人いる計算なわけで……ぶっちゃけ俺でなくてもよいのでは?

「今回ほんっとラッキーでその『選ばれし者』がトラックにはねられて死んでくれたおかげで、ここにこうして召喚できたんですから……」

「『ラッキー』とか言わないでくんないかな」

 人が死んでんねんで?

「ちゃんとやってくれないと私の顔も立たないんですよ……女神の使徒として世界を救うために遣わしてるんですから……なのにチェンジするなんて」

 そう、俺は「チェンジ」したために、派遣された異世界からこの神殿に戻ってきた。

 正直言って女神にいいように使われて「世界を救ってこい」なんて言われても俺には何の得もない。そこで俺がギリギリの妥協案として提案したのが「チェンジ」制度だ。

「はぁ……確かに派遣先の異世界の環境が気に入らなかったらチェンジしてもいいって言いましたけど。一体何が気に入らなかったって言うんですか?」

「何が気に入らないも何も……あんなひどい世界があるか!」

「そんな言い方ないじゃないですか、ちゃんとご期待に沿えるように、エルフの女の子も用意しましたし」

 エルフ……ああ、確かにいたな。

「い〇ゞのエルフだったけどな!!」

「ケンジさん童貞だから処女がいいかと思って、せっかく新車で用意したのに……」

「どどどど童貞ちゃうわ!!」

 いらない心遣いだよ!! トラックに新車も中古もねえわ!

「しかもお前、あの後大変だったんだぞ!? 急にドラゴンが現れて……」

「ああ、なんか、古い言い伝えで古代の竜王とエルフの姫の恋物語がどうとかいう話がありましたね……」

 恋物語とかそういうレベルじゃなかったぞ!! 発情期なのか急にトラックに腰を振り始めて……トラック、いや、エルフ……? え? 竜とエルフの恋ってそういう……?

 まあでも異世界に飛ばされていきなり目の前でドラゴンカーセックス見せられる俺の気持ちにもなってくれよ。

 そらチェンジもするわ。

「うふふ、童貞くんにはちょっと刺激が強すぎましたかね」

 童貞とかそう言う問題じゃねえんだよ。

「っていうかあのトラック新車じゃなかったよね? 思い出したんだけどさあ、あのトラック、俺をはねた奴じゃね? フロントが凹んでたんだけど?」

「まあこうやってぐちぐち言ってても仕方ないんでケンジさんには別の世界を救いに行ってもらいますか……」

「答えろよ」

 ベアリスは俺の言葉を無視して近くのデスクに置いてあった紙の資料の束をぱらぱらとめくりだす。こいつ信用できるのかな? 今露骨に話題を逸らしたような気がしたんだけど。

「結構たくさんあるんだな、救いを必要としてる世界って」

「まあねえ……」

 ベアリスは資料に目を落としたまま呟く。

「だからこそこうやって私が能力のある人を異世界にちょくちょく派遣してるんですよ……といっても、問題を解決できるほどの力を持った人って、本当に一握りで……」

 なるほどなあ。こいつも見た目に反して意外と苦労してるんだな。俺の力が助けになるんなら出来る限り協力してやりたいとは思うけど。

「だから私がちょうど宿直やってるときにケンジさんが死んでくれて本っ当にラッキーだったんですけど……」

「女神って宿直制なの? あとさっきも言ったけど人が死んだのに『ラッキー』とかやめてくれる? 死んでんねんで?
 トラックの件もあって気になるんだけどさあ、俺が死んだのって偶然なのよね? そこにベアリスは絡んでないんだよね」

「あ、これなんかいいかもしれないですね。ちょうど初心者向けの異世界がありましたよ」

「答えろよ!! あと初心者向けの異世界ってなんだよ!!」

「うう~ん、いわゆる中世ヨーロッパ風の世界ですね。人間の王国が突如現れた魔王軍に侵略をされている、と……」

 くっそ、この女神本当に信用していいんだろうか。

「んで? 俺はその魔王を倒してくればいいわけ?」

「もちろん! 理解が早くて助かります。もしケンジさんがその世界を気に入って、無事平和に出来たならその世界で過ごしてもらっても構わないですからね」

「そりゃどーも」

 気に入る様な世界ならな。

 しかし実際いい条件を付けて貰っていることは理解している。

 「異世界」が気に入らなければチェンジしてもいいし、気に入って、首尾よく世界を救うことができたんならその世界に居ついてもいいってんだから。何度でも引き直せるガチャみたいなもんだ。失敗したら死ぬけど。

「しっかしベアリスはなんでまたそんな面倒な事してんだ? 人間が異世界でどうなろうが知ったこっちゃないだろうに」

「まあ、女神には女神の事情があるんですよ。世界を救って、自分を信仰してくれる人々が増えて認知度が上がれば、私の神としてのも上がるんです」

 結構俗っぽい理由だな。

 まあでも利害関係が存在するんなら「無償の愛」とかいうわけ分かんない理由よりはよっぽど安心できる。理解できないものほど恐ろしいものはない。

「じゃあ、いきますよぉ!」

 そう言うとベアリスは両手を頭の上に上げて光球を作り出す。

 きれいな腋だなあ。

「おりゃあ!」

 俺は、光に包まれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~

岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。 順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。 そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。 仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。 その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。 勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。 ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。 魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。 そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。 事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。 その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。 追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。 これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

処理中です...