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高校

温度差

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高校三年生になり、最大のイベントである夏のコンクールも近づいてきた。

この頃、指揮者のS先輩に対して反発する部員がでてきた。指揮者になって一年。最初の頃は皆んなも様子見だったがコンクールが近づき指導も厳しくなり始めるとそれまでの不満が出てきたのだ。
 
私は好きで好きでたまらないS先輩に対して、部員たちがなぜ不満を持っているのか意味が分からなかった。 

「S先輩の良さが分からないのか」とか「結局練習を頑張ってないから怒られてそれが嫌なだけでしょ」と思いつつ、副部長の立場としては不満も聞きつつ、でも頑張ろうと仲間には言った。
 
逆に反発があるからこそ、もっと私が頑張ってS先輩のフォローをしようとやる気が出た。

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しかし、反発をしている部員はまだ部活に対してやる気があったのだ。

夏休みに入ると高校三年生ということで受験のために塾の夏期講習に行く者もいる。コンクールが近づいているのに部活を休んで夏期講習に行くなんて、私の中にはその選択肢すら無かった。けれども当たり前のように塾があるから休むという連絡がくるようになった。
 
ショックだった。
同じもの目指していると思ったのに。 

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大好きなS先輩に反発する部員やコンクール前に休む部員と、私にはかなりの温度差があった。
 
普段はその部員たちとも仲がいい。でも私にとっての正義は、S先輩であり、部活に心血注ぐこと。この正義が分からないなんて馬鹿だ、と思ってたのかもしれない。

私にとっての世界は吹奏楽部であり、その中での立ち位置はとにかく居心地が良い。S先輩からも部員からも信頼を得ている。そして世界のルールを作るのはS先輩。
確かにこの世界の中で他の部員は馬鹿だった。

でも彼女たちは違う世界を生きていた。

温度差というよりも、住んでいる世界が違うのだ。馬鹿も何もない。



つづく~
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