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紙切れの諭吉さん

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 ユニコーンが進む数キロ先に高い壁と、その壁の奥に王都の宮殿の上部分が見えている。

 「か、壁、で、でけぇ……」
 「うわぁ… おっきい…」

 大きな門の前でユニコーンは止まり、何やら騎士が門番に通行証みたいなモノを見せると、門番を開き始めた。

 『ゴゴゴッ』

 門の奥は見た事のないヨーロッパ風の建物や色んな店が並び沢山の人で賑わい、最果ての地とは全く違う景色だった。
 本当に同じ世界かと疑うほど活気に満ち溢れている。


 「うわぁ… ここが王都かぁー!!」

 それにしてもこの格差社会なんだ?
 でもリザ達も働ける様になれば王都で働けるんだもんな。

 「王都に来たことはないのか?」

 「うん! 初めてだよ! ねぇねぇあれ何!?」

 リザが指差す方には3歳くらいの子供が棒に刺さった青色のリンゴの様な果物を舐めていた。

 あれは…何だ!? リンゴなのか!?
 リザが目をキラキラさせてこちらを凝視している。

 いやいや俺もわかんねぇよ… なんならさっきこの世界に来たばっかりだぞ…
 でもそんな目をされたら断れない…
 「よし! 買ってきてやるよ! 少し待ってろ」
 「本当に!? やったぁ!!」

 リョウガは騎士にユニコーンを止めるように、声を掛けるため荷車の外に顔を出す。
 「騎士の兄ちゃんちょっと止めてくれ!」

 「どうしました?」
 騎士が手綱を手前にグイっと引き、ユニコーンの足を止めさせる。

 「あの食べ物気になるから買ってくる」
 「え?あ、はぁ~…」
 騎士は今ですか?と言いたげな顔をしていたが、気にせず青い果物が売ってある店の前に歩いていく。

 店の前に立つと気前の良さそうなツルツルハゲのチョビヒゲのオッさんがこちらに気づき、話しかけてきた。

 「いらっしゃい!! お、兄ちゃん、変な格好だなぁ!」

 「そうか?? 俺の住んでた所では、結構普通なんだが…」
 お前らの方がよっぽど変だぞ…
 
 「なんだアンタ何処からきたんだ??」

 ぬ…このオッちゃんめちゃくちゃ突っ込んで聞いてくるじゃねぇか…
 異世界とか言ったら話し長くなりそうだな…

 「日本っていう国だよ… それよかこの食べ物いくらだ?」

 「日本? 何処だそれ… そんな国有ったっけな?」

 「最近できたんだよ… で、なんぼするんだこれ?」
 リョウガは青色の果物のような物を指差す。

 「俺の知らない内にそんな国ができたのか!! あ、これか? フリーズンゴは250ボリムだ」

 面倒くさいオッちゃんだなぁ…
 えーとお金っと…

 そーいえば胸ポケットに入れてたが服装がそのままならあるよな!?
 俺は裸銭派だから胸ポケットにいつもお札を入れている。

 胸ポケットを探ると数枚のお札感触が有り、取り出すと5枚の諭吉さんが入っていた。
 
 「んじゃ1万で」
 1枚の諭吉さんを前のカウンターに置き、4枚の諭吉さんを胸ポケットに戻す。

 「おい、兄ちゃんなんだその紙…」

 「何って1万だよ」

    「は?」

 「は?」

 2人は目を合わせ数秒固まる。
 嫌な予感がする…
 もう一度値段を聞こう…

 「これいくらだ?」

 「250ボリムだ」

 だぁぁぁぁぁぃっ!
 やっぱり… なんだよボリムって! 
 通貨違うじゃねぇか! 
 ふざけんなよっ!
 この諭吉さんでたぶん40個ぐらい買えるぞ!? 
 消費税入れても絶対35個は買えるぞこのやろう!
 いやまて、ワンチャン諭吉さんの凄さを伝えたら…

 「おい、いいか良く聞けっ! この紙は俺が約1日丸8時間汗水流して働いてもらえる金額だ。毎日怒られ、お前は生きる価値なんかねぇとか言われながらも頑張って働いて貰えたお金だ。この紙で、たぶんこの食べ物40個は買える紙なんだぞ!?」

 「兄ちゃんそんなこと言われながら働いてんのか… 大変だなぁ! はっはっはっ! でも悪いがその通貨は使えねぇなっ!」

 「うるせいやいっ! 笑うな! 格好つけて買ってきてやるよ言っちゃったからさ! 今更やっぱお金有りませんでしたとか言って、戻ること出来るわけねぇじゃねーか!」

 「いやぁでもこちとら商売だからなぁ」

 ぐぐぐ…
 「ツケで!!」

 「ダメだ」

 こんなったら…しょうがない……
 コイツに触れて奴隷にしてツケにして貰おう。
 ちゃんと後から払い来るからなオッちゃん…許してくれ。
 どうしてもここは引けねぇんだ…
 可愛い女の子があんなに目をキラキラさせてんだ! 
 あの笑顔を壊す事なんて俺にはできねぇ!

 せい!

 リョウガは手を伸ばし、オッちゃんの手を掴む。
 「ツケで後で返します…」

 ………

 「なんだ、急に手なんか握りやがって…」

 素早く手を戻す。

 あれぇー
 何も起きないではないか…
 ま・さ・か俺より上位の者なのか!?!?
 ハッ!!普通に考えたらそうだ!
 俺レベル1だもん!!

 子供達が奴隷になったのは俺が大人だから少しステータス良かっただけなのか!?
 それに外に出た事ないみたいだったし…

 リョウガは無言のまま早歩きで下を向きながら騎士所に戻って行く。
 「おいっ騎士の兄ちゃん… 頼む… 250ボリム貸してくれ……」

 「は… はぁ…」
 騎士の肩を掴んでいるリョウガの手はプルプル震えていた。
 「後で10倍にして返すから…」

 「10倍!? 良いですよっ」
 騎士が渡そうとする手を素早く掴み中の金貨を取りオッちゃんの店に戻って行く。

 「何だ… あの兄ちゃんまた戻ってきた…」

 「これでいいか?」

 「ま、まいどっ」
 金貨をカウンターに置き、フリーズンゴを受け取り早歩きで荷車に戻っていく。
 リョウガが荷車に乗ると騎士が手綱をしならせビシッと音を立てる。
 音と同時にユニコーンは宮殿の方に歩き始めた。

 「ほらよっフリーズンゴっていう果物らしいぞ」

 「わぁぁ! ありがとう! でもお兄ちゃん何で一回戻って来たの??」

 「いや、両替するためにな…」

 「ふーんっ」
不思議そうな顔したがあまり気にせず、リザはフリーズンゴを舐める。
 「冷たいけど甘ーい!」

 その顔は、初めてのお祭りでリンゴ飴を買って貰った子供みたいに良い笑顔をしていた。
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