異世界人の父は筋力がありません。勿論、息子の俺も筋力が無く武器を持てません。武器を持てないハンターの成り上がり。

やーま

文字の大きさ
上 下
27 / 29

フラグ回収

しおりを挟む
 「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 複数の地を蹴る足音は重なり合い、一つの雑音と化し二人の背中を追いかける。

 ーー道中、進む先の遠方に一匹の肉食小型モンスター「ハードン」を発見。
ーーハードン 肉食 爬竜種 ーー
 体長 2メートル
 鰐のような頭部に菖蒲色のエラがあり、そのエラの大きさがより大きければ大きいほど強いと云われている。
 そしてエラの手前にある取れてしまいそうな程飛び出している眼球が特徴。
 頭から尾まで全身は青丹色の皮膚で覆われ、骨格は細々としているがしっかりと筋肉が付いている。
 獲物を狩る時は二本脚で立ち、手の三本指には鎌のような爪があり、その爪で攻撃してくる。

 エマは安全を期して100メートル程離れている位置から矢を放った。
 見事ハードンの右肩に命中。致命傷を負わせた事により、処理し易くなったモンスターを確実に仕留めに動くが、一体しか居なかった遠方の茂みから同じ姿のモンスターが一体、ニ体、三体と現れ、瞬く間にその数はゆうに二十体を超していく。

 茂みで隠れていたが、一体のハードンの周りには昼寝をしていたハードンの家族が居たのだ。
 しかしハードンは通常一家族に父と母に子ニ~三体で群れるのを好む習性。
 大所帯だと餌の調達が困難になるからだと云われている。
 しかし二人が出会ったハードンの群れは父一体に母五体の家族。
 即ち一夫多妻のとても珍しい群れだった。

 「これは私のせいじゃないよね!? だって大家族で群れないモンスターだよ!? あんな気持ち悪いの何処がカッコいいの!?」

 「あいつらからしたらあのエラがカッコいいんだろうよっ!! それにしてもあのハードン体長4メートルはあるぞ!?」

 大群の後方に他のハードンより二回りも大きくサイズのハードンが居る。
 ーー父ハードンだ。

 「ダメだ!隠れる所も無いっ。このままじゃ追い付かれるな」

 逃げ切れないと思ったガルダはバックの中身から大粒の酒果の実「ウイル」取り出した。
 風船のように薄い皮に包まれた果肉には甘い香りのアルコールを95%含んでいる。酒の元に使われる果物。
 
 「なぁ!?火炎矢はあるか!?」
 「有るわよ!!」
 
 「よし!ならこれを俺が投げたら、射抜いてくれ!!」
  
 「なるほどね!!火の雨を降らせるって事ね!了解」

 二人は立ち止まり、ガルダはタイミング見計らい「ウィル」をハードンの群れの頭上にに投げた。
 エマは正確に狙いを定め、火炎矢を放つ。
 火炎矢ーー液体に触れると矢先から火が発生する。それが水でも血でも水分であれば化学反応を起こす成分が矢先に練りこまれている。

 放たれた矢は見事命中。実は弾け、同時に発火。果汁に燃え移り火雨がハードン達に降り注いだ。
 『『『ギャギッッ!!』』』
 大半のハードンは脚が止まり悶えるが、父ハードンだけは諸共せず進んでくる。

 「ねぇ!あいつ全然効いてないじゃない!!」
 焦るエマは乱雑に矢を放つ。
 が、父ハードンの皮膚は分厚く弾かれる。
 
 「何でお前らはそう脳筋ばっかなんだよ!!」
 ガルダは剥ぎ取り用ナイフを構え、父ハードンに向かって走り出した。
 双方の距離が縮まっていき、目前で父ハードンは右爪を振り上げ、振り下ろす。
 それをガルダは左腕の義手で止めた。
 力の差に押し返されそうになるが右手に持っている剥ぎ取り用ナイフの刃は父ハードンの喉仏を捉えていた。

 強く振り抜くーー

 「ヒュッ…」

 父ハードンが息を吸っても空気は漏れ出し、肺まで送り届けない。
 息が吸えなくなった父ハードンは窒息し地面に倒れたーー
 後方のハードン群も偉大なる父が狩られたことにより、戦意喪失。止む無く逃げていく。

 「ふぅ…」

 「ちょっと!ちょっと!何が起きたの?」
 何が起きたか分からないエマが駆け足で近づいて来る。
 
 「お前ら…小型モンスターの弱点とか知らないだろ…。ハードンは喉部分の皮膚が薄いから剥ぎ取り用ナイフでも難なく刃が通るんだよ」

 エマは返答に納得いかない様子で逃げていくハードンを指差した。
 「他のハードン達は何で逃げていったの?」

 「ハードンは一番強い父親が倒されると勝てないと思い込み逃げる習性がある。だからウイルの実で他の奴らを足止めし、父ハードンのみを相手できるように前線におびき寄せた」
 
 エマはへーと感心している表情を見せる。
 「あんたの戦い方、冷や冷やして心臓が幾らあっても足りないわね…。それなら手榴弾とか投げればいいのに」
 
 これだから筋力のある奴らは…。
 手榴弾一つ2000Bellもするんだぞ。
 そんなのポイポイ投げてたら幾ら金があっても足りない。
 如何に安いアイテムを使って危機を乗り切る事も大事なんだよ…。
 
 それに…。
 
 「ほら、手榴弾なんて投げてたらここまで綺麗に残らなかったろ?」
  俺は目線を先程倒したハードンに向けた。
 通常の二倍ほど大きさの立派な爪と大きなエラが綺麗な状態で残っている。

 「きっとこんな上物。売ったらすごい値が付くぞ!!」

 「本当だ…。こんなの見た事ないわっ」

 二人は上気分で倒れたハードンを綺麗に剥ぎ取った。

 それから道中、虫の大群に襲われるなどトラブルはあったものの、日没前にはローランド国を囲っている外壁の門に辿り着いたーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

処理中です...